アンデッドと錬金術師②
「むう、ダメかと思ったがやはりダメか? あれじゃぞ? わらわからの命令じゃぞ?」
「死ねだなんて命令を受ける気は毛頭ございません。そんな事で殺されて眷属にされてもオレはなんも作らないですよ」
「みっちーは渡せません!」
「うん。絶対ダメ。私が守る」
栞とエイミーが左右から腕に抱き着いてきた。
むほほ。
「ふうむ。そうなると、一応腹案があるのじゃがのぅ」
そう言って紅茶のお替りを注ぐセーナに視線を向ける。
「お主、わらわのところに来ぬか?」
「へ? セーナですか!?」
「いやいやいやいやいや」
「セーナもウチの家族だよ! いくらディープ様でもダメ!」
「ディープ様、怒りますよ?」
そんなペットじゃないんだから。
「むう、異世界特有の菓子の作成方法を知り、道長の特殊な調理を仕込まれたこのホムンクルスならば、とも思ったのじゃが」
「申し訳御座いません、女神様。セーナは動かなくなるまでご主人様のところにいるから」
セーナが首を振ってから頭を下げた。
オレもセーナがいないと困るし、仲間達と共に作り上げて、今はもう我が家になくてはならない存在なんだ。絶対にあげれない。
「ぬう、みちながぁ」
「ダメです。セーナは大事だ。あげれない」
「ホムンクルスではないか。また作ればよかろう?」
「そういう問題ではありません。セーナは家族です。オレの娘です」
「ご、ごしゅじんさま……セーナ嬉しい」
たとえ何を言われようとも、セーナを差し出せと言われて頷ける訳が無い。
「あれもダメ、これもダメ、じゃのう」
「むしろオレが頷くと思いました?」
「そうじゃのう、褒美に向こうに帰してやる。というのはどうじゃ?」
「……いりません。勝手に帰ります。その為に色々考えてますから」
一瞬心がグラついたがダメだ。女神クリア様が魔力貯めるのに200年だか待てとかいっているんだからディープ様も同じような条件のはずだ。
オレはオレの意思で行き来出来るようなシステムを作り上げるつもりだ。恐らく帰して終わり、という形での帰還だろうから賛同できない。
「むがー! どうすればいいのじゃ!? このままではそこらじゅうの冥界門が管理不行き届きになるのじゃ! 姉上に怒られる!!」
「怒られる心配かよ」
「え? そうじゃよ」
「やー、ディープ様。冥界から魔物がわんさか沸いて出て来る事態になりかねないんだけど……」
「ディグよ、それの何が問題なのじゃ?」
「冥界の魔物、生者を襲う」
「そうじゃな。それで?」
「死者が増えれば魂が冥界に傾きますよ?」
「それをコントロールするのはディグ、お主の仕事じゃろ? わらわは知らんのじゃ。それに多少死者の魂が増えても勝手に浄化されるじゃろ」
「ディープ様が仕事を放棄してる……」
「ややや、やってるし!? 毎晩月があがっておろう?」
「それって自転、大地が回ってるからじゃねえの?」
ロードボートで空飛んでた時、地平線が丸くなってたから、この星が球体なのは知ってるんだぞ。
「何故知っておるっ!?」
「は? ディープ様のお力じゃないの? ボク達毎回それで納得してたんだけど!?」
なんと、仕事をサボる時に使う常套句だったらしい。
「お前、仕事ないのか……」
「そそそそ、そんな事無いし!?」
そういえば女神クリア様も寝てたもんな。この女神姉妹は基本暇なんじゃないか?
「つまり、ボク達はディープ様に千年単位万年単位で騙されてたと」
「ふんぬぅ!」
こら、人の家の壁に頭蓋骨を投げつけるんじゃありません!
「あ、ボクいい事思いついたよ」
壁にめり込んだ頭蓋骨の頭の上に豆電球が光る。
だからどうなってんのお前?
あと世界樹の板の壁をぶちやぶるとか、どんだけ硬いのお前の骨。
「む、なんじゃ?」
「キミは死なないで済むし、従者ちゃんも連れてかれないで済む方法」
「ほう! 流石はディグじゃ!」
「格好は全然つかないけどな」
半分ヒビ入ってるし。
「料理専用のホムンクルスを作ればいいんだよ。ディープ様の為に」
「あー……」
いい案といえばいい案ではある。
「ほうほう。それは良い考えじゃ! わらわの為の料理人か! 素晴らしい! それで行くのじゃ」
「でしょう! ホムンクルスであれば魔力さえあれば動きますからネー」
「んむ、道長。早速作るのじゃ」
「いや、それなんですけど……すぐには無理です」
「なんじゃと?」
「ほー?」
とてもシンプルな答えがある。
「材料が足りないです」
ドッペルゲンガーの躯が無いのだ。
「どっぴゃるぎゃんがー?」
「ドッペルゲンガーです」
人の姿を真似る魔物で、生きた人間や生物の負の感情が一定方向を向いている時に魔素溜まりから発生するレアモンスターだ。
ある程度人口が多い都市で、かつその都市に問題が起きない限りは発生しないので見つける事自体がレアケース。
更に通常の方法で撃退しても、肉体は影に戻り、しばらくすると街のどこかで復活する悩ましいモンスターだ。
力で討伐せずに、魔力を枯渇させたうえで捕まえないと素材にする事が出来ない為、普通に購入が出来ない。
そしてドッペルゲンガーが闊歩している街は問題を内包している街だ。
街の施政者からすれば、存在する事自体が恥とも言えるため中々出現情報が外の街に漏れないからどこにいるかも見当が付かない。
「こっちの大陸に出るのかな……」
「ウーン、名前に聞き覚えはないけど、似たような魔物なら聞いたことあるなぁ」
「どこでじゃ? 思い出すのじゃディグ」
頭蓋骨を振り回さないであげて欲しい。
「ウーン、ウーン、ウーン」
目を回してるじゃないですか。
「ふうむ。ディグが聞いたことあるという事は冥界かのぅ? でもこやつ、力は大した事ないからアンデッド討伐の任務をしたのなんて……いつの事じゃ?」
「ウーン、ウーン」
独特な目の回し方だなオイ。
「どれ、見てみるかの。ペキ」
可愛い感じでペキって言ってますけど、ペキって鳴ったのディグの頭ですよ?
こういう頭蓋骨的なキャラの頭って横に割れるんじゃないの? 縦にディグの顔が縦に半分になっていますけど?
「どれどれ」
どこ覗いてるんす?
「おお、なるほどのぅ。冥界におるな、道長よ、近うよらんか」
「はぁ」
残りの半分を渡される。
……どうしろと?
「あの、どうすれば?」
「ぬ? 見えぬか? 見えぬかぁ、仕方ないのぅ」
割れた頭蓋骨持ってクネクネ動かないで下さい。
「ほ、ほれ。頭を出すのじゃ、と、特別じゃぞ?」
「はい? こうですか?」
ディープ様はオレの頭に手を当てると、恐る恐る、という手つきで頭に手を置いた。
「お、男のあ、頭を……」
「なんなんすか……」
「こほん、それでは視るのじゃ」
改めてディグの割れた頭を見るように言われたので、見つめる。
ディグの頭の中に映像が走っている。
ああ、ドッペルゲンガーか? これ。
冥界のどっかだろうか。
「「 あ! 思い出した! 冥界だ! 」」
「思い出したのではなく、わらわが引き出したのじゃぞ」
そういうモノらしい。
「なんです? ここ」
「どこじゃろうなぁ。瘴気の量的に冥界のどこかじゃろうが」
いいながらなでなでしないで欲しいです。女神ディープ様、えぐい程に美人だから照れる。
ほら! 栞とエイミーの視線が痛い!
「「 ダッタルの旧王都だーネ 」」
顔半分で両方の顔から声が出るディグ。
キモイけど?
「旧王都? 冥界に国があったんですか?」
「冥界は姉上と一緒に過去に作った失敗作の世界じゃ。あらゆる生物が滅んだ世界じゃから有効活用しとる」
「「 ボクは昔、そこに住んでいたんだーヨ 」」
世界のリサイクルとかスケールがちげぇ。
「規模的にはこの世界よりでかい世界じゃから魂を逃がすのに役立っておる。冥界門に到達した魂は冥界を無作為に放浪し、その過程で魂にこびりついた善やら悪の感情、記憶、経験その他もろもろがこそげ落ちていくのじゃ。それが済めば姉上の天界へと誘われる。生前の魂の状態によっては冥界を何周もする必要があるから時間がかかるのじゃ。じゃが狭いと魂同士がぶつかる事もあるからの。広さが必要なのじゃ」
「そうなんですね」
「よし、これで働かぬごくつぶし共を動かせるぞ! ディグ! かえる……まだ帰らぬのじゃ」
なでなでをやめずに、ディグを捨てた。
あれ、くっつくんだよな?
「ふ、危うく道長の策に乗るところであったわ。道長、いままで見た事のない食べ物や菓子をまだ隠しておろう? わらわに馳走する事を許可するのじゃ」
結局色々作らにゃならんのかいな。
「ディグよ、お主は先に戻り働かぬ連中に仕事に戻りつつ、そのどっぺなんとかを回収するように伝えるのじゃ」
「「 ええ!? ディープ様だけずるい! 」」
「今のお主は物が食えぬであろうが。体がないのじゃからな。ほれ、はよぅ行け」
しっしっと手を払うディープ様。
あ、ディグがゆっくりと消えていく。
「「 ああ、召されてしまう~ 」」
……冗談だよね?
そして昼間っからディープ様を含めた4人で食事会だ。
色々と作りまくって、酒を呑ませて、お土産を持って帰らせよう作戦である。
エイミーはお酒が弱いのでジュースをだしたが、場の雰囲気に飲まれて&ディープ様のわらわの酒が飲めんのか攻撃によりダウン。
ごめんねエイミー。
お土産を容量の小さい魔法の袋と普通の魔法の袋を持たせて、小さい方はディープ様専用ですから皆様にバレないようにね(栞案)と渡したら上機嫌で帰ってくれた。
目の前で消えようとしたけど、オレの工房から転移は出来ないとの事で、工房の外まで出て消えていった。
来た時も帰る時もドタバタだった。
「あの、先ほどのえらい美人さん誰だったっすか? 突然目の前に現れたんすけど? 栞様とエイミー様が意味分からん誤魔化し方で連れて帰ってしまったっすけど」
「ジェシカ、知らない方がいい」
栞がジェシカに近寄らない様に言っておいたらしい。
グッジョブである。




