アンデッドと錬金術師①
「ようこそ、おいでくださいました。ディープ様」
「うむ。良い家じゃがわらわを祀る祭壇が無いではないか。次までに用意せよ」
え? 次もあるの?
「……畏まりました」
どうしよう。
栞とエイミーが神様を連れて帰って来ちゃった。
取りあえず頭を下げてご機嫌を取っておこうと思います。
「しかし、お主は存在が察知出来んほど小さい存在かと思ったが。このように隠れ住んでおったのか。わらわの知覚からも逃れるとは、小心な男じゃ」
「申し訳、ございません」
「わらわから逃げ出させんように、魂を縛り上げておくかの?」
「お、お戯れを……」
意味は分かんないけど、きっとロクな目には合わない。
「ふむ、酒もよこさんで相変わらず気の利かぬ男よ。しかしこの紅茶と茶菓子に免じて此度は許そうぞ」
「ありがたく……リアナ、セーナを呼んできて交代だ」
戻って変わってって繰り返しでごめんな。
「畏まりました。お代わりをご準備いたしましたら、呼んで参ります」
「うむ。中々気の利く従者じゃ、良き魂が育っておる」
丁度帰ってきてくれたリアナが、そのままの流れで用意してくれた紅茶とお茶菓子のワッフルでご機嫌取りだ。
本当はアンデッドによって呪いを受けた連中の回復に回って貰うつもりだったのだが、連中は騎士団内でなんとかして貰う事にした。
だってこっちのが緊急事態なんだもの。
『何しに来られたんだろうね』
『どうだろう。お菓子が尽きたとか?』
『や、ディグには半年分くらいまとめて渡したぞ? 流石にまだ無くならないはずだ』
こっちに来てまだ3ヶ月程度だったはずだ。多少多めに渡すタイミングがあったとしても、まだまだあるはずだ。
「ふむ、思念のみでの会話をこなすか。わらわを前に、余裕じゃの」
「っ! 失礼いたしました」
マジかー。指輪の機能でも聞かれるかぁ。
「ふ、中々の魔具じゃな。わらわの力をもってしても、会話しておるのは分かるが、話している内容まではわからん。お主が作ったか?」
「はい、私が作りました」
「うむ。見事である、じゃがわらわの前で使うのはちいと気に入らぬな」
「申し訳ございません、以後気を付けます」
「「 申し訳ございませんでした 」」
オレの謝罪に合わせて、栞とエイミーも一緒に頭を下げてくれた。
「うむうむ。素直に謝罪が出来るのであれば良い、不問とするのじゃ」
「ありがとうございます」
しかし、少し大き目に作ったとはいえ、うちのリビングのソファにドレス姿のディープ様がいるのは似合わないなぁ。
本人はご機嫌に足を組んでクッキーを口いっぱいに頬張ってるし。
「失礼致します」
お、セーナが来てくれた。
「セーナ、ディープ様の給仕と世話を頼んだ。オレは歓待の料理をするから。エイミー、手伝って」
「畏まりました」
「はい」
「栞」
「はいはい」
「……ディープ様のお相手を頼んだ」
「うええ!? っと、はい」
ごめん栞、料理出来ない自分を恨んでくれ。
「まあ待つのじゃ。女神たるわらわを歓迎したい気持ちも分かるが、その前に話がある」
「え!?」
く、適当に料理と酒を振舞って何かを言われる前に帰って貰おうと思ったのに。
「はぁ、えっと。こちらにいらした要件を教えて頂けると?」
「うむ、光栄に思うが良い。わらわが降臨までして生者に直接言葉を授けるのは、実に……実に、何年振りかの? まあとにかく光栄に思うのじゃ。思えるのじゃ? 思えるよのぅ」
「思えます、思えます」
なんだろう、この緊張感の無さは。
「ほれ、お主たちも席に着くが良いぞ。わらわと目線を合わせて話す事を許可するのじゃ」
「ありがとうございます」
脱力しつつも、オレは席に座り、栞とエイミーも両脇に座る。
「わらわな、ここのところ毎日、眷属の者達と会議を続けておったのじゃ」
「珍しい……」
「お仕事頑張ってたんですね」
珍しいのか栞よ。
「うむ、頑張っておったのじゃ。それで出た結論なんじゃがのう」
組んだ足を戻し、オレの目を見据えてこう言った。
「道長、お主、死なぬか?」
「え? 嫌ですけど」
「ちょっと、ディープ様!?」
「何をおっしゃるんですか!?」
「むう、やはり嫌かぁ。まあそう言うじゃろうと思ったぞ。正直わらわも、我らが大地で必死に生きる者の命を刈り取るつもりはないのじゃが……」
「で、ですよね」
「うむ、わらわのやってよい範囲を超えておる。しかしのぅ」
えー、まさかの冥界からのお誘いっすかぁ。死ぬつもりはないぞ?
「……もしも、そういう形を取るのでしたら、オレも抵抗しますよ?」
「わ、わかっとるのじゃ! 頭を掴まれたのは痛かったのじゃ! だいたいあの籠手はいったいなんなのじゃ? 血が出たのなんか生まれてこの方姉上と喧嘩して以来じゃぞ!」
慌てて首を振るディープ様。確かに女神様を傷付けるなんて行為普通しない。
……なんかすいません。
「わらわもその気はなかったのじゃが、どうにも眷属連中が納得しなくてのぅ」
「そちらの料理人には調理方法を仕込みましたよね? それを加えたうえで献上していたのですが」
「倒れたのじゃ。ちと酷使しすぎた」
りょ、料理人達どんまい! でも死後の世界で倒れる程働かせるってあれよね、死んでも楽にはなれないって事よね。
「眷属の方々はディープ様に忠実だったと思ったのですが……」
エイミー、ナイスな質問だ。
「うむ、確かに今までは忠実じゃった。じゃが突然配置換えの申請を出してきた奴が大量に出たのじゃ。こやつのせいじゃ」
「ぬおおおお! でぃぐうううう!?」
ディープさまがポケットから出したのは、ディグの頭蓋骨だった。
「すまねぇ兄弟、ぬかった」
「その状態でもしゃべれるんかお前」
骨なのに困り顔出来るってすごいなディグ。あと誰が兄弟だ。
「こやつ、お主から料理、菓子、酒の供給を受けおっておったであろう?」
「え、ええ」
「わらわへの献上品の中に、お主が教えて行かなかった料理もあったじゃろ?」
「すいません。時間が限られていたり、後で思い出したりで」
「良い良い、人は不完全な物じゃ、完璧にこなせとはわらわも言わぬ」
「ありがとうございます」
「じゃが、他の連中が気に入らんらしくてなぁ」
「ええ……」
だって毎回冥界にオレが行くのって大変だし!
「何よりこやつが酒を中心に中抜きしとったのがバレた」
「はぁ!?」
「まあバラしたのはわらわじゃが」
「さーせん、でもお酒美味しかっ、いだだだだだ!」
ヒビ! ヒビ入ってる!?
「そもそもこやつがこちらにいるのは、魂の移動が過度に起きない様に知恵ある生き物の動向をコントロールさせるためのものじゃ。人々は戦争を起こすであろう? それらの規模をコントロールさせたりするために配置しておるのじゃ」
「ボクがいたおかげでダランベールやハイランド王国、シルドニア皇国、それに他の大陸にも分体をおいてるからね。そういった大国や強国の統治が無理のない様に抑え込んでいたのさ! 外の魔物の活動範囲に干渉したり、時にはダンジョンを作ったりしてね! まあ平和過ぎてもダメだから戦争を起こさせたりもするけど」
「月神教の教皇ってそういう立ち位置だったのか……」
戦争をコントロールか。止めるのはすごいが起こしたり規模を広げたりもするのね? 思ってたよりも危険な存在なんだな。ディルグランデ様は。
「まあボク個人の力だけでは限界があるから、こういう教皇って立場を作って情報を集めたり、時には神託って形でネ」
確かに、実際に神様のいるこの世界は教会の力、影響力が強い。
「各国の統治が安定してる時は楽だけど、動乱の世になると大変なんだぜ? シルドニアが出来る時とか寝る間も惜しんで……あだだだだ!」
「やかましいわ」
そもそも寝るのか?
「まあこやつが中抜きしてた酒やら菓子が原因で、というか目当てでこやつの代わりの配置換えを希望してる阿呆が多くてな。そやつらが出撃もせんで神殿前で座り込みをしておる」
「ボイコットじゃねえか!?」
アンデッド軍団の発生ってそれが原因だろ!
「そうなのじゃ! のう道長よ! わらわを助けてくれ! あいつら言う事聞かぬのじゃ!! な? な? 死のう? 本人の了承があれば、わらわが直接魂を抜くから痛くないしの?」
「そんな理由で死ねるか!!」
自分らのメシの為に人の生き死にを決めるんじゃねぇ!
未だにアンデットなのかアンデッドなのかで混乱する。多分本文の中でもごちゃごちゃになってるかと。
アンデッドで統一しているつもりです




