エイミー無双②
後半です。ここからはエイミーの視点で進みます
「じ、自分、もう二度とエイミー様に逆らわないようにするっす」
「もともと、ジェシカは奴隷だから逆らえないでしょ?」
「そうだったっす!」
そんな事を言いあう二人に苦笑しつつ、戦場に目を向けます。
ただただ佇むアンデッド達にトドメを刺すという作業に入った騎士さん達。
……トドメを刺すよりも、完全に活動停止になったか確認して、一か所に集めて焼く作業の方が大変そうです。頑張って下さい。
道長くんにウッドゴーレム出して貰った方がいいかもしれないね。
「この魔法の範囲は、どれくらいなのですか?」
「えと、ごめんなさい。適当に広く撃ったので……」
「さ、左様でございましたか」
すいません、ルーテシアさん。見える範囲をある程度って感じです。もちろん地平線の彼方までなんてすごい魔法じゃないです。多分ですが、半径3キロもないと思います
「すごい魔法でした……なんというか、その」
「ありがとうございます。でも、この弓、杖?のおかげなんですよ?」
左腕に取り付けているビィラムの幻魔弓。元々は幻覚作用のある麻薬の葉が作れる、とても危険な植物が原料です。
でも私の幻術と相性の良く、それでいて危険性のない様に素材を道長くんが、えっと。私だけの為に加工して、私だけの為に作ってくれた札を打ち出す弓。
自慢の、大切な一品です。
この弓を使わないと、効果範囲はこの半分も届きません。
冥界でこの術を使っていた時なんか、せいぜい半径50メートルくらいでしたし。
ふふ、このローブも、靴も、杖も、指輪も道長くんが私に、って作ってくれたもの。
栞ちゃんやイドさん、それに道長くんと一緒にいると簡単に『大切』が増えていきます。
すごいね。
「斥候よりの報告をいたします。第4波を確認いたしました。半日程で到着する模様です。ヒュージスケルトンも確認が取れました」
「……そうか。まだ終わらぬか」
「冥界門が近くにあるんだろうね」
「うん、こんなに普通アンデッドは出ないもん。冥界門の近くに瘴気からアンデッドを生み出せる魔物が生まれたんだろうね」
「む? どういう事ですかな?」
「え?」
何気なく言った言葉でしたけど、なんとかって偉い人が食い入るように聞いてきました。
思わず栞ちゃん、は私より小さいからジェシカさんの後ろに隠れます。
「うちの奥様、旦那様以外の男性は得意じゃないっす」
「む、それは申し訳ない事を。ホーラウンド卿」
「はっ! 申し訳ありませんでした、エイミー様!」
「その、こちらこそ、ごめんなさい」
あうあう。
「それで、その瘴気? とやらからアンデッドが、とは……」
「あの、マザースポーンっていうアンデッドの魔物がいるんです。黒くておっきくて、口がいっぱいある魔物が……」
「マザースポーン?」
「こ、こちらでは、別の名前かも知れません。とにかく、そういう魔物がいて、その瘴気から、マザースポーンが生まれて、漏れた瘴気を食べて、アンデッドを大量に生み出し、ます」
一度だけ見た事ありますが、とても怖い見た目の魔物です。魔物というかクリーチャーです。
「そ、それ自体は動き回らないですし、近くの瘴気を食べつくしたら、小さくなって消滅するんですけど、冥界側の瘴気は無限にあるので、アンデッドを、その、永遠に生み出しますから、その魔物が、現世にいたり、冥界門の近くにいて、えっと、そこから出てきて、るのかな、って」
冥界でマザースポーンが出た時は大変でした。
なんと言っても冥界は、ディープ様の宮殿の周りや眷属の人達の施設以外は基本的に瘴気の世界です。
瘴気が濃い場所でマザースポーンが生まれたので、マザースポーンが生み出す魔物もデュラハンや、死霊の騎士、髑髏神官など中級や上級でした。
マザースポーンもかなり巨大でしたし。最初のうちは、すごい戦いでした。
関西弁なケルドムさんが竜になってブレスで焼き払っても、ちょっと残るくらいです。
「そのような魔物が……」
「通常、冥界門が開いたり、傷ついたりしてもこんなに大量の魔物が、一度に生まれるのは、ありえません。おそらく、マザースポーンや、それに類似する魔物がいるのかと、思います」
「なるほど。しかし、その瘴気とは? その……」
えっと、どう説明すればいいでしょうか?
「実は、冥界門って結構傷つくし壊れて開きっぱなしになる事多いんです。死者の魂の出入り口です、不浄な魂の残滓が残りやすい場所ですから。アンデッド系の魔物が多く生まれます」
「我々騎士団もアンデッドの発生が多い地点はいくつか把握しておりますが。その様なものがあるのですね」
「い、生きている人には、基本的に見えない、そうです」
「なるほど」
死者の魂を受け入れる扉ですから、生者には見えないし通れません。
ディグ様のところや、ディープ様のお力の届きにくい場所では見えたり通れるところもあるそうですが、特殊なケースです。
「その、発生したアンデッドが扉を壊しちゃったり、その魔物を倒すために冥界の、ディープ様の眷属の方々が戦ってその余波で扉が壊れちゃったり。扉も、あまり強固に作ると弱く小さい魂が入れなくなるから簡単な物ばかりです。簡単に壊れちゃうんです」
冥界の錬金術師さんや木工職人さんはいつも扉を作っていました。
「お詳しいですね、流石です」
「い、いえ」
「エイミー様は、月神教の高位の神官様だったのですね。今までの無礼、お許し下さい」
「そ、そんな事ないですから! 普通で大丈夫ですから」
跪かないで下さい!
「お優しい言葉、ありがとう存じます。ですがそれだけの知識、一般には公開されておりませんよね? 分かっております。わたくしも、秘匿と致しますわ」
「ち、違うんです~!!」
本当に違うんです!!
「なるほど、であれば、その魔物を討伐せねばなりませんな」
「ええ、エイミー様はイドリアル様の信頼を得ている方です。その知識に間違いないでしょう。実力は見ての通りですし」
ルーテシアさん、通訳みたいな事をお願いしてごめんなさい。
「しかし、一度休息を入れねばなりませんな。この魔法陣、まだ起動しておりますが、どの程度の時間もつのでしょうか」
「えっと、1週間くらい、かな? お札が浮いてる、間は、大丈夫です」
「「「 はぁ? 」」」
「ひゃうっ!?」
ルーテシアさん以外からもそんな声が上がってしまいました。
「ご、ごめんなさい」
「いえ、謝る事では……しかし、これほどのアンデッドの動きを制限できる魔法を一週間……」
「まさに聖女ですわね」
「うむ、まさしく」
「そんな、聖女っていう人は、もっとすごいですから」
本物の聖女、白部さんは攻撃魔法も支援魔法もすごかったですから。
「ご謙遜を……やはり本物は違いますね」
「そんなこと、ないですから」
「しかし女性の神官様がご結婚……ですか。ああ、なるほど。『聖女』であってもやはり惚れた男性と共にいたかったんですね。素敵ですわ!」
「へ、変な事言わないで下さい!」
「あ、申し訳御座いません。こちらも秘匿すべきお話ですものね。ええ、ええ。こうして月神教の力が強くないこちらの大陸を選ばれるのは正解だと思いますわ」
ルーテシアさんの言葉がどんどん騎士さん達の中に広がっていきます!
「1週間だと? 1時間の間違いではないのか?」
「いや、1時間でもすげーけど」
「これが聖女の奇跡の御業か」
「神兵様と共に歩まれる方には、相応の力が必要なんだな」
「ああ、だが納得だ」
「あんな美人で聖女で人妻!? くぅ」
「やめとけ、人妻じゃなくてもお前に出番はない」
「てめーもだろ……」
ああああああ、どんどん広がっていってるぅぅぅぅ。
「あれ、いいの?」
「栞ちゃん、助けて……」
「もう無理じゃないっすかね。自分もエイミー様が神官様や聖女様、ディープ様の直接の眷属って言われても納得するっす」
元々眷属でしたけど! でも今は違うんですっ!
「はあ、もういいもん。これだけ人がいれば、アンデッドも勝手にこっちに来るし、道長くんのところに帰ろうよ」
――――― つけた。
「え?」
「んあ?」
―――――― 見つけた。
「何かしら、この声は……」
「空から声が降ってきてるっす!? こええっす!」
「ね、ねえ、エイちゃん。この声って……」
「うん、あの方だよね……」
私も、栞ちゃんも、一時期毎日の様に日本の話をしろとねだってきた、可愛らしくも美しい、私達の恩人にして神様。
「ディープ様って、現世に干渉出来るんだね……」
「うん、知らなかった……」
我らが女神、ディープ様のお声ですよね。




