エイミー無双①
閑話的な? 序盤は栞目線で進みますねー
「アンデッドの相手は久しぶりだね」
「そうだね! 強いのはいるかなぁ? やだなぁ」
エイちゃんが嫌がるのも分かる。だってあの連中臭いから。
アンデッドが相手だと言う事だから、冥界で散々相手にしてきた私とエイちゃんは自信満々だ。
私の出番はないと思うけど。
『あー、栞。エイミー、聞こえるか?』
「みっちー!?」
「道長くん!?」
なんで!? 近くにいないのに!
『言い忘れてた。その指輪に、お互いの場所や状態、それと心の声を届けられるように機能をつけておいたんだ』
わお! そうだったんだ!? みっちーすごいね!
『これで道長くんをいつでも感じられるんだ……ふふふ、嬉しい』
『……エイミー、心の声が漏れてる』
『ひゃう! イドさんまで!! え? エルフの里まで届くの!?』
うっそ!? すっごくない!?
『オンオフは感覚で分かるか? 何かあったら知らせてくれ』
『何か? 何かあるの?』
イドっちがこっちを気にかけてくれる。心なしか直接しゃべるよりも心配してくれている様子が伝わってくる気がするね。
『アンデッドの大群だとさ』
『ん、すぐ行く』
『『 ダメ! 』』
『むう、別に病人じゃないのに』
『適度な運動は妊婦さんにも必要だけど、イドさんはダメ』
『イドっちの戦闘は、適度な運動を超えるからダメ』
イドっちは戦闘時、ものすっごく動き回る。あたしもそれに合わせて動くから良く分かるけど、あんなの妊婦さんがやっていい動きじゃない。
『だとさ。イド、体の具合はどうだ?』
『さっきも言ったけど、病人じゃないから』
『じゃあリアナを借りれるか? 怪我は治せるが、呪いや瘴気の影響はポーションじゃ取り除けない、聖水はあるが連中に使うのは勿体ないからな』
『おお! 聖水、持ってるんだ?』
冥界には聖水が湧き出る噴水とかあったけど、こっちではあまり出回ってないとか聞いたことあったけど?
『小太郎と白部が作った奴だから阿呆みたいに強力な奴なんだよ。人によっては性格変わるレベルだ』
ああ、それは確かに問題だね。しかも2人はいないからもう手に入らないし。
『リアナに伝えた、すぐにそっちに着く』
『助かる。栞、エイミー気を付けて』
『うん、ありがとう。道長くん』
『おおぶねにのってまっていたまえー』
通信が切れると、エイちゃんと二人でニヤけた顔が止まらなくなった。
「お二人とも、どうしたっすか? ニヤニヤして」
「微量ですが、異質な魔力を感じましたわ。その指輪、普通じゃありませんわね」
「へへ、みっちーが、わたしの旦那さんが作ってくれたの」
「私達の旦那様は、すっごいんだ」
「うへぇ、惚気っすか。生涯奴隷の身としては辛いものがあるっす」
「綺麗な指輪。何で出来てるのかしら」
「さあ、エイちゃん聞いてる?」
「オリハルコンと、ミスリルを混ぜたって言ってたけど」
その言葉にルーテシアさんが噴き出す。
「ちょ!? オリハルコン!? ミスリル!? しかも混ぜた!?」
「魔導炉あるっすからねぇ」
「そんなのダンジョンからも出土されないわよ!」
「しかも素敵な機能が付いてるの」
「素敵な? それってすごい機能っすか?」
「そうだね! すんごいよ!」
いつでも、あたしの大好きな人達と繋がっていられる。素敵な機能だ。
「ライトロード様は、こう。控え目に言っても非常識ですわよね、昨日はフラフラしながら台所を作ってましたわ。そして非常に、異常に魔力を使って用意したのは食べ物でしたし……」
「食べれた? 美味しかったでしょ」
「遺憾ながらも……お替りが貰えずに涙を飲んだものです」
「あとで、作ってあげようか? 道長くんほどおいしくは出来ないけど……」
「是非! はっ!? こほん。そのお願いいたしますわ」
「はい、お願いされます」
エイちゃんがにこやかに返事をしている。
そんなこんなで走りながら、隊列を組んで敵に応戦している騎士団の面々が姿を見せる。
彼らの前にはかなりの量のアンデッドが転がっている。アンデッドはしぶといから、地面に転がっていても攻撃してくる可能性が油断できない。
でも流石は騎士団というべきかな? 地平線の彼方までとは言わないまでも、視界に映る範囲には千を超えるであろうスケルトンやらグールやらビーストゾンビやら。
それらを前にしても特別に動揺は見られず、陣形を守って近づかれない様に魔法や矢を放って距離を取っていた。
手練れっぽい人たちが10人程前に出て敵の数を減らしているのも見える。
「サンガッド卿!」
「おお、ルーテシ……すまん、ホーラウンド卿、殿下とオルグラム卿はどうした?」
「言付けと手紙を預かってきております。殿下はまだ例の天上の地です」
「興味深い話ではあるが、今はおらぬ殿下の話をする時ではないな」
「理解いたしております。相当な戦いをしているのですね」
「うむ、大規模魔法も何度も打ち、殲滅を続けていたがここまで押し込まれてしまった。深淵の騎士で一度隊列を乱されたのが痛かったな。だがあの大物は討伐出来た。魔導師達の回復を待ち次第攻勢に移れるだろう。今は守る時だ……そちらは?」
「イドリアル様の旦那様、ライトロード様の第二夫人のシオリ様と第三夫人のエイミー様です。アンデッドに対し決定打をお持ちとの事でしたのでお連れいたしました」
「ふうむ、この子供達が、か?」
「侮ってはなりません。ライトロード様は神兵様方より『救世主』と呼ばれるほどのお方でした」
「なんと!? 誠か! っと、先に詫びを、失礼した」
私とエイちゃんの見た目じゃしょうがないと思う。実際に子供だし。
二人揃っていえいえと首を振る。
「この目と耳でしかと。多くの神兵様方が集うかの地はまさに天上の地にございました。道を歩く小さな子が、私よりも強力な力を保持しておりました故」
その言葉にこちらを見つめるルーテシアさんが声をかけた偉い人。
その人が馬の上から、声を掛けてきた。
あたしも馬かだっちょんで来ればよかったかな。
「シオリ様、エイミー様。戦場につき馬上よりのご挨拶、ご無礼いたします。現戦場の責任者、カーネル=サンガッドと申します」
「こんにちは」
「ど、どうも」
「して、単刀直入に聞きます。あのアンデッドの群れ、途切れが見えませぬが……」
「敵が無限沸きだったらどうしよもないけど、全員が休憩できる時間は作れるよ。ね? エイちゃん」
「そ、そうです、ね。大丈夫、です」
エイちゃんが頼り無さげに言うが、既にみっちーお手製の『ビィラムの幻魔弓』を左手に取り付けているから問題ない。
というか、札弓を出しているからエイちゃんも本気だ。
「時間が、あまりないと、思うので、すぐ、やります」
小声でとぎれとぎれにエイちゃんが言いながら20センチほどの札を胸の前で持ち上げる。
エイちゃんの必殺技が久しぶりに見えるね。
「魂の混じりし、命失いし憐れなる者達よ」
消え入りそうな声で静かに詠唱を始めるエイちゃん。
その強大な魔力の奔流に、騎士達が一斉にこちらを向く。
ふふん、この程度で驚いちゃぁいかんぜよ。
「其方たちの喜びを、慈しみを、悲しみを、憎しみを、感情を、無くしたもの、すべてを見つめよ」
更にエイちゃんの魔力が引きあがる。
エイちゃん自身が謙遜してるけど、多分魔力量だけいえばイドっちや、下手すればみっちーよりもエイちゃんのが多いかもしれない。
「思い出せ! 見つめ直せ! 其方らの願いを! 其方らの怒りを! 死して失いしその心を! 取り戻せ!」
エイちゃんは最後の言葉と共に、胸に掲げた札を空へと放り投げる。
更に左手を前につき出し、弓から一度にお札が4枚飛び出した。
それぞれのお札が空中で静止し、巨大な魔法陣が浮き上がると、戦場もそれ以外も関係なしに、一気に広がってアンデッドたちを通り過ぎる。
その瞬間に、前進をしていたスケルトンが、グールが、アンデッドが、腐乱した動物達が身動きを止め、手に武器を持つ者は武器を下し、中には地面に落としていく。
視界内のアンデッド達はすべて呻くのも止めて動きを止めてフラフラしている。
「こ、これは?」
「エイちゃんは維持させるのにもうちょっと時間がかかるから代わりに説明するとですね」
エイちゃん、美味しいところをごめんなさいね。
「アンデッド系の魔物は、基本的に浄化されてない不浄な魂の残滓の塊なんだけど、分かりますか?」
「太陽神教の教えの一つにそのような文言があるのは存じております」
うん、知っているみたいだね。
「エイちゃんはそれらの魂に魔法をかけたんだ。正確には一定範囲にアンデッド系の魔物が足を踏み込めば、自動的にその魔法にかかるようにする魔法を」
「それが、この魔法陣ですか? しかし大きい……まだ広がっていく……」
「生き物に向かって真っすぐ進む、それを本能とするアンデッド達が足を止めるなんて……」
この魔法は、冥界にいた時に自称賢者っていう見た目が子供のおじいさんに、エイちゃんが教えてもらった魔法だ。
「アンデッド達はいま、幻に包まれているんです。それで足を止めてます」
「まぼろし?」
うんうん、いい反応ですよルーテシアさん。
「アンデッドは、魂の残滓の集合体、ですから。一つの体に多くの魂が入っているような、そんな状態なんです」
「ありゃ、もう終わり?」
「うん。力いっぱいかけたから、結構保つと思う」
相変わらず規格外な威力と範囲だと思う。どのくらいもつんだろ?
「アンデッドに、幻術? 利くのですか?」
「利くから、止まってくれるんだと、思います」
「じ、実際に目にしているものを見ると、そうなんですわね」
騎士団の面々がざわつき始めている。生者を前に足を止めるなど、アンデッドにあるまじき行為に困惑しているのだ。
「一つの体の中の、別々の魂の残滓が、それぞれ好き勝手に自分の見たい幻を見ているんです。生きてた頃に親しかった家族や恋人を、自分を殺した敵を、復讐したい相手を。アンデッドは一つの方向に魂が向くからこそ、動き周れるんですけど、そこをバラバラにされると」
「なるほど、中の統合性が崩れて身動きがとれなくなくなると」
「はい」
実際に目の前に広がる光景は、アンデッドの群れが足を止めている状況だ。
アンデッドという魔物の性質を知っている者には信じがたい光景だろう。
「……この状況で攻撃をかけたら幻術は解けますか?」
「解けません。アンデッドは痛覚が無いか鈍い魔物がほとんどですから」
「なるほど、確かに」
実際には、痛覚で目が覚める程『ぬるい』術をエイちゃんが使わないからだけど。
「ですが一部、魂が完全に同一化した上位アンデッド。皆さんの倒した『深淵の騎士』や有名なところだと『髑髏の魔術師』『エンペラーリッチ』そういった個体なら、幻術が解ける時があります」
「まあこのエイちゃんの魔法の範囲にいる限り、またかかっちゃうけどね」
「なんと」
そう、この魔法は持続する魔法なのが恐ろしいところである。
エイちゃんも通常は対象を選んで幻術をかける。しかし、この魔法は空間に作用する魔法だ。
『命失いし憐れなる者達』はアンデッドをさしており、この戦場にいる限りいつでも幻術はアンデッドに効果を及ぼすのだ。
難点としては、エイちゃんの最初に込めた魔力が切れるまでこの術は消えない事。
アンデッドみたいな相手なら問題ないが『四つの足で大地を蹴る獣達』や『天空をはばたく、翼を持つ自由なる者達』だと獣や鳥、竜なんかが延々と引っかかりつづけるのだ。
特に獣は不味い。旅人の連れた馬なんかが引っかかってしまうから。
「素晴らしい技術で御座います。流石は神兵様に認められし男の奥様」
「お、奥様だなんて、そんな」
頬を赤らめ、両手を添えるエイちゃん。
その仕草をすると、チチが盛り上がるから嫌いだ。
ほら、一部の騎士の男性陣が目を見開いてるよ。




