愛を誓う錬金術師⑤
「流石に3人掛かりでこられたら勝てなかった」
「昨日は栞ちゃん頑張ったからー、エイミーちゃんに頑張って貰いましたー」
「うう、腰が痛いよ……」
「私もだよ、道長くん……」
もう何も出ないっす。
「イーファンナちゃんがエイちゃんを介抱するって時点で気づくべきだった……」
「お姉ちゃんは策略家なのよー」
「リアナまで巻き込んで……抱きこんで?」
「マスターのお子様でしたら何人いても足りませんから」
カレーの後、なんかの直撃を受けたオレはリアナにベッドまで運ばれて治療を受けていたらしい。
そしてそのまま寝かされて、という流れだった。
「エイちゃんが連れてかれてから、私もしばらくしてから部屋に戻ったの。でもエイちゃんがいなくて、やられたって思って! 慌ててみっちーのトコにいこうとしたのに!」
「私たちが妨害しましたー」
名前の知らないエルフの女の子、爽やかな笑顔で帰っていった彼女ですが、彼女の父親と母親とイーラサーラさんの妨害に栞はあっていたらしい。
いくら栞が強いとはいえ、相手はエルフ。更に脚甲や短剣の装備が無い状態で、しかもイーラサーラさんも混じっていては下手に全力を出せず、結局朝まで戦う羽目になったそうだ。
朝まで呑んでたエルフ達の宴会の出し物扱いで。
「ん、昨日はちゃんと許可を取りに来た。ファンナえらい」
「えへへ」
「許可を出すな許可を……」
頭が痛い。
「道長くん。ちゃんと私を感じとってくれたよ」
「やめてくれ……」
小声で恥ずかしそうに言ってくるんじゃありません。
お前、絶対に流されただろ。
「エイミーお姉さん、すっごかったです! 尊敬します!」
「そ、そうかな」
「ん、初日からエイミーはすごかった。更に腕をあげているはず」
「ただ大きいだけじゃダメなんですね! 使い方ですね!」
「そ、そんなんじゃないよぅ」
そういう話は聞きたくありませんけどね!
「栞ちゃんって強いのねぇ、戦の時はそんなイメージなかったけど」
「あたし、集団戦よりも個人戦、個人戦より乱戦の方が力が発揮できるから。でも眠いー」
「ダメねぇ、栞ちゃん、戦う相手によっては3日も4日も戦い続けられる持久力が必要なのよ? もっと戦い以外の部分でも鍛えないと」
あの、みなさんの大好きな旦那さんが二日連続でズタボロにされてますよ? 何かないんですか?
「ライト、ご苦労様」
「いや、マジでしんどいですけど……」
「がんばれ、旦那様」
「お、おう」
イドに旦那様とか呼ばれるとドキっとする。
「仕方ない、わたしが連れて来ただけで、ライトは注目の的になる」
「そういや出稼ぎ組はエリートだからなぁ」
「そう。優秀なわたしが連れて来た男、それだけで一定の信頼がある」
「だろうなぁ」
エルフ的に言えば『戦闘能力が高い=優秀』だ枝の上の防衛の里にいくか、出稼ぎ組に選ばれるエルフはいわゆるエリートなのである。
「優秀な男は、みんなで分かち合うものだから」
「オレはイドや栞、エイミーだけで手いっぱいなんだよ。勘弁してよホント」
「例の子が出来やすい日が分かる薬を使ったから、きっと出来てる」
「はあ!?」
「ファンナと昨日の子がばっちり該当。大丈夫、里の子として育てられるから」
「マジで!? いいのかそれ……」
「むしろわたしや栞達の子と差別化しないといけないから。ある程度育つまで、ライトは気軽に会うのもダメ」
異世界難しいよ!
そんな事考えると、イドが寄りかかってきた。
「妻としての立ち位置はエルフではわたしだけの物、これは譲らないから大丈夫。するのは子に良くないとリアナが言ってたから、我慢」
「そうしてくれな」
頭を撫でてあげる。
「これからもライトの旅は続く。元気な子を産むまで、わたしはここに残った方がいい、かな?」
「……ああ、その方がオレも安心する」
「じゃあ、会いに来て」
「毎日来るさ」
「毎日は、うっとうしい」
「オレは会いたいが、ダメか?」
「……我慢できなくなる」
「お、おう。オレも、だな」
ごめんなさいだ。
「わたしが出来ない時に、他の女に取られるのも、ちょっと嫌だな、って。栞やエイミー、サーラやファンナなら別になんとも思わなかったのに」
「そうか」
良かった、そういう感情もあったんだな。でもイーラサーラさんとイーファンナちゃんはいいの?
「だからライトはここを離れた方がいい」
「オレもしみじみそう思うよ……」
「このままじゃ、最終的に監禁されて種馬の扱いを……」
「ひぃっ」
「そう言えば、30年前くらいに1人いたわね」
「うん、私は子供だったから顔も見た事ないけど」
「まあ大体は4,5年で腹上死するからなぁ」
なんか怖いんですけど!
「石化の回復薬が出来次第、離れるよ。素材は集まってきてるっぽいからな」
全然関係ないものも混じってるけど。アンデッドタイプのとか絶対違うと気づかないもんかね。
「ああ、それと子の出来やすい日を調べる薬もお願いねぇ。道長君なら作れるんでしょう?」
「子を授かりやすくなる薬とかもあるらしいじゃないか。頼むよ道長君」
だぁー! どんどん予定が積みあがっていく!!
「あ、旦那様。おかえりなさいっす」
「ああ、ただいま。ジェシカはずっとこっちにいたのか」
「旦那様とご家族の席に奴隷は不要っす」
「悪いな。しかし、旦那様?」
「はい! ご結婚されましたので。奥様方もお帰りなさいっす」
「お、おくさま……」
「ジェシカマジ良い子。でも長いから今まで通りでいいよ」
「そ、そうだね。奥様って呼ばれるのも3人いるわけだし」
「そうっすか。わかりましたっす! ルーテシア様も、ようこそっす」
「ええ」
イドの家から工房を経由して、駐屯地の新しい家まで戻ってきた。
ちなみにドアには厳重な封印を施しておいたのでオレの許可を得た人間以外自由に出入りは出来ない。エルフの活動範囲が増えるのは地獄だから。
向こうに残る、イド、リアナ、セーナ以外は使えない様になっている。
そこにいたのは、相変わらずのミニスカメイドなジェシカだ。なんかこいつも馴染んだなぁ。
ルーテシアさん、殿下の護衛の赤髪縦ロール。この女性は殿下からの手紙を預かってこちらに一緒に戻った。
彼女だけでなく、殿下やもう一人のザンネックさんも勝手には使う事が出来ないので一緒に移動だ。
「ちょうどいいタイミングっすね。駐屯地で問題が起きてたっす」
「何ですって? 貴女、報告を」
「じ、自分もあんま詳しくないっす。ただ外が騒がしくて、アンデッドが大量に沸いて来てて戦いが起きてるらしいっす。あ、旦那様。怪我人と救護人だけ柵の内側まで入るのを勝手に許可を出しましたっす、お仕置きなら、その、じ、自分が受けるっすので……」
尻をこちらに向けるな。
「いや、いい判断だ。ルーテシアさん、詳しくは……」
「ええ、外の者に話を聞きますわ」
ルーテシアさんが慌てて玄関口……とは逆方向に行こうとしたので修正したりして、外に出る。
言われた様に、さして広くない柵の内側に何人かの重傷者が並んでいた。
「……酷いな」
困ったな。昨日大量に上位回復薬を使ってしまったから手持ちにあんまりない。
「私、港町の工房から回復薬取ってくるね」
「ああ、頼む」
「どうした! 何があった!」
怪我人ではなく、治療している回復術師に聞いてる分理性が残っている様子。
「は! アンデッドの大群です! 東から突然現れました!」
「なんだと!?」
「皇都の近くでも発生しているそうです、その様な報告を続けて聞いております」
「分かった、治療を続けてくれ。ライトロード様!」
「ありゃ、殿から様になっちゃった」
「偉くなったね」
「神兵様達から救世主と呼ばれる存在だからです。それより、昨日、神兵様方に使われていらした回復薬、融通して頂きたく。代金は十分に支払います」
「いいよ。代金は殿下から貰うから数は控えておいてね」
「持ってきたよ!」
流石に素早い。エイミーがすぐ戻って来てくれた。
「さて、リアナもいないしオレが診るかな」
「外の敵はどうする?」
「怪我人が出てるにしては、あんまり悪い状況じゃなさそうだな」
号令や太鼓の音が響いている、アンデッドはこんなことはしないので、第一騎士団の面々が対応しているのだろう。
そして、統率が取れているからこそ、こういった音が響いているのだ。
統率が取れていなければ、この音は悲鳴に変わっているはずだ。
「アンデッドかぁ。エイちゃん、行ってこよう」
「そ、そうだね。私が頑張るよ」
「は? 大丈夫なのか?」
「うん、アンデッドはいっぱい相手をしたから、大丈夫」
「エイちゃんはアンデッドキラーだからねぃ」
冥界で女神ディープ様に召し上げられた過去を持つ二人、そういえば冥界で生き物の魂を残すのは、内部で自然発生するアンデッドや冥界特有の魔物を倒す為に召し上げられるんだったっけか。
そうなると、向こうで何度かアンデッドを相手にしているのかもしれないな。
「危なくなったらすぐ戻ってくれ。イリーナ、エイミーの警護を」
「だめ! あるじをおいていけない!」
「いや、しかし」
「自分にご命令を下さいっす」
オレを一人にするのを固辞したイリーナに変わり、ジェシカが声をあげる。
「自分も立派な鎧を頂いたっす。栞様とエイミー様、両方を守る事は出来ないっすけど、後衛のエイミー様だけなら自分の命に代えても守って見せるっす!」
「……栞、エイミー。ジェシカの命がかかる状況なら、オレは二人が戦闘にいくのを許可出来ないぞ」
「髑髏の魔術師やデュラハンや深淵の騎士……はいたらこっからでも見えるか。その辺は出た?」
「えっと……」
「しんえん、は倒した……我らはその際に怪我をしたんだ」
怪我人の一人が呻くように教えてくれる。
「流石に騎士様、強いっすね」
「だが、まだデュラハンがいる。はずだ」
「戦士タイプか、了解。エイちゃん、ジェシカ、行くよ!」
「うん」
「はいっす!」
「大丈夫か? 栞」
「よゆーよゆー、エイちゃんがいればアンデッドなんて何万いても……疲れるだけだよ」
疲れはするのか。
「お二人はアンデッドに、何か決定的な対抗策があるのですか?」
「ええ、ルーテシアさん。あたしというか、エイちゃんが」
「です」
「分かりました。エルフの救世主様の奥様方も、やはり普通ではないのですね。ライトロード様、私がお二人をお守りします。お借りしても?」
「無傷で返せ」
「ありがとうございます!」
オレは二人を改めて見てみる。
栞はいつも通り、余裕の表情だ。
それに対してエイミーは、戦闘というのに、普段の魔物を相手にしている時よりリラックスしている。
「みっち、行ってくる」
「行ってきます」
ルーテシアさんとジェシカを連れて、女性4人が戦闘音のする方向へと走っていく。
「あるじ、その。イリーナは」
「大丈夫だ。リアナとセーナがいないからな。お前の判断は正しい。治療が終わったら3人を待とう。お昼ご飯とお風呂、やっておいてやろうな」
オレの命令に反発しようとしたイリーナが、しょげた顔をしていたので頭をゆっくり撫でてあげる。
「はいです!」
「おう、とりあえず診察からすっかな」
怪我人は多い、柵の外にも何人かいる。
オレは久しぶりに白衣に身を包み、怪我人の治療にあたる事にした。




