愛を誓う錬金術師③
「若いっていいわねぇ」
「はっはっはっはっ」
「すいませんすいませんすいません」
人んちのリビングで盛大にバカをしたオレ達は、生暖かいママさんの視線に気づき、大慌てで片づけをした。そして設置しておいた転移ドアを使って逃げる様に工房の風呂に行く。
妊婦のイドに無理させるなとリアナに怒られ、栞の子供の名前どうしようとセーナに本気で相談され、何故か大人モードのイリーナにどういう気持ちになるんだとコッソリ聞かれたりした。
お前達にそんな機能は付けてないぞ。諦めろイリーナ。
そしてイドの家に戻って平謝りだ。
「パパさん、どうしました?」
「何、気にする事ではない!」
ママさんがツヤツヤしてて、パパさんがやつれてますけど。
あ、もしかして? なんかすいません。
「さて、石化の回復薬はこれから作るとして。アラドバル殿下達はどうなってるんだろうか……」
これ以上掘り下げられない様に、話題の転換。
栞達は工房に逃げ込んだまま戻って来ていない。ずるい。
「ケンブリッジの家から戻ってないな。昨日の宴には参加していたが、行ってくるか」
「そっちもあんまり放置できないんですよね。石化の回復薬を優先したいけど」
「何、100年もそのままって言う訳じゃないんだ。こっちに顔を出せている間に作ってくれればいいさ。まあ気が付いたら戦いが終わっている状態で混乱はしたがな」
時間の感覚がおかしいでしょ。
「案内するよ。ついてきなさい」
パパさんの案内の元、ケンブリッジ邸へと向かう。他の家と同様に布張りの家だ。
「ライトロード殿」
「良く来てくれました」
薪割りをしていた護衛の二人がこちらに顔を向ける。
「あれ? 二人とも、殿下から離れていいの?」
「良くはないのですが……」
「神兵様達と比べれば、我らでは力が足りず……」
護衛の意味をなさないのね。
「この里はある意味、世界で1,2を争う安全地帯といえば安全地帯だから。問題ないかな? 世界で1,2を争う危険な人型生物がいるくらいで」
「ははは、ご冗談を」
「初代様の御生家に足を運ばせて頂き、あまつさえ宿泊までしてしまいました。同僚になんと言い訳をすればいいか、今からでも頭が痛いですわ」
彼らには『エルフ=英雄』の構図があるからね。こりゃ大事だ。
「それで、アラドバル殿下は?」
「裏です」
何やら剣撃の音が聞こえている方向に2人が目を向ける。
この里、どっかしらで戦いの音が聞こえてくるから気にしない様にしてたのに。
「何やってるの?」
「殿下が、お孫様が来て、初代様の御父上が大層張り切っておりまして……」
「改めて力を見て、愕然とされてしまい、鍛えなおしだとおっしゃって。ああ見えて殿下は我らが騎士団随一の使い手なのですが」
エルフ基準で考えてはいけない。
「たった2日ではありますが、耳が伸びて来たので、期待なされたんだと思います」
「あー、なるほど」
イドがエルフの里で1週間も生活すればエルフと同じような見た目になるだろうって言ってた。
1年で純血のエルフとなるって話だけど、戦闘力はともかく性格は周りの影響で変わるんじゃないか?
「ま、まあ少し話をしてくるか。向こうに戻らないといけないし」
「そうして頂けると助かります」
「大変恐縮ですが、お願いいたしますわライトロード様」
「がああああああっ!」
前から王子が飛んできたのでひょいと避ける。
うん、危ない。
「おお、救世主殿! 此度は孫を連れて来てくれて助かったぞい!」
「いえ、宴の席で何度も聞きましたから」
そこにいたのはアラドバル殿下をおじいさんにした感じのエルフだ。髪は短いが。
「ぐう、やはり強い」
「シルドニアの子にしては動けないのが残念だぞい」
「まあハーフですから、エルフみたいな化け物には簡単にはなれませんよ」
「そうかのー」
首を捻るこの人がケンブリッジさん。アラドバル殿下の祖父にして、シルドニア皇国の開祖、シルドニアの父親である。
まあ本人の知らない内に息子が国を作りましたっていってもピンと来ないだろうけど。
「ぐう、まだまだ!」
「気概だけは良いのー」
「お爺様に稽古をつけて貰える機会なんて、今後ないかも知れませんからね!」
「ほっほっほっほっ、嬉しいのー。じいちゃん感激だぞい」
そう言って剣を構えるアラドバル殿下と、素手のケンブリッジさん。
「あれ? ケンブリッジさん武器は?」
「最初は持っていたんだがのー」
「俺が未熟だったから、勝負にならなかったんだ! その後はナイフで、木剣で、木の枝で! まったく相手にされなかった! 流石は神兵!」
嬉しそうだな。殿下。
「ちなみに今は右手のみ縛りぞい」
こんなじいちゃんでもエルフは半端ないな。
「殿下、こっちで用事がまた増えたんだ。もうちょいこっちにいていいか?」
「ああ! 俺ももっと強くなりたい! それに見ろ! 耳が少し伸びた!」
イドのいうエルフパワーだな。世界樹の恩恵か何かだと思うが、確かに殿下の耳が髪の毛で隠れないくらい横に顔をだしている。
「少なくとも、完全に耳が伸びきるまでこっちにいるぞ!」
「まあ、殿下がいいならいいけど。護衛のどっちかに一度伝令させたほーが良くないか?」
石化の回復薬の素材は、エルフ達が嬉々として集めてきてくれるからそんなに時間がかからないかもしれないけど、1日2日で集まるものでもない。
「そうだな。後で手紙を書いて運ばせる事にする。移動のあの不思議な扉を借りたいが構わないか?」
「ああ、イドの家に新しく設置したからそっちから行ける様にしてあるぞ」
「エルフの技術はすごいんだな」
エルフのじゃないです。
「話は済んだか? ならば続きだぞぃ」
「ええ! お願いします!」
そこから、見るも耐えない一方的な戦いがあって思わず目をそむけたくなった。
パパさん、オレに期待した視線を向けないでくれ。オレはエルフどころか、あのボコられてる殿下より多分弱いから。
そっとポーションをいくつか置いて、ケンブリッジ邸を離れる事にした。
あ、エルフパワー勘違いしてる人がいたわ




