愛を誓う錬金術師②
「道長君。男として、3人の夫としてしっかりと言葉にしておきなさい」
「パパさん」
「こういう時にこそ、覚悟を決める時だよ。イドちゃんの為に私達両親にきっちりと筋を通そうとした姿勢は素晴らしいと思うが、君はその前にやる事があったんじゃないか?」
「女ってのはね、ちゃんと言葉にしてもらわないと不安になるものなのよ? 私達は出かけてくるから、3人と話をしておやり? うちの残りの娘たちの事は後回しでいいからさ。あとこの人をパパさんって呼ぶんなら私はママさんって呼びなさいね?」
「準備しているのであれば、渡せばいい。彼女たちはそれを望んでいるんじゃないかな?」
パパさんの言葉に、オレは目を見開く。
そして横に座る3人に視線を送ると、にこやかに、そして少し照れた顔でそれぞれがうんうんと頷いている。
パパさんとママさんが笑って立ち上がり、3人の前にオレを引っ張って座らせた。
二人はオレの肩を叩くと、席を外してくる。
改めて、3人と向き合うオレ。
栞とエイミーはニコニコ顔、イドもどこか嬉しそうにこちらを見つめて来る。
うん、3人とも美人だし可愛いし。落ち着かない。
え? オレ今からここで改めて告白するの? マジで? なんも思い浮かばないんだけど!?
「ライト」
「ひゃい!?」
「ふふ、変な声。わたしは、きちんと言葉を貰った。同じように2人にもあげて? この2人はわたしの大事な仲間、大事な家族。同じ人を好きになった、大切な同士だから」
「う、うん」
「ここでヘタレちゃだめ」
「はい……」
大きく深呼吸をし、栞に向き合う。
「栞」
「はい」
栞が恥ずかしそうに、嬉しそうに返事をする。そして照れ始めた。
薄いピンク色に染めた髪を右手の指でくるくる弄りながら、それでも期待してこちらに視線を送ってくる。
子供っぽい顔立ちで、普段から言動が自由な栞だが、改めてみると、綺麗に整った顔立ちで可愛らしさと美人の中間の様な印象の誰しもに愛されられる愛嬌のある顔立ちだ。
「栞が、オレの目の前で死んだ。だからこそ、オレは必死になれたんだと思う。魔王との戦いで勝ち抜き続けられた事も、その後、こちらの世界で生き続けられたことも」
「みっちーなら、あたしとか関係無しに頑張れるよ」
栞がそんな事を言うが、オレは首を振る。
「もう一度、会いたい。会って、謝りたい、感謝したい。そういう気持ちが、二人の蘇生に繋がったんだと思う。二人の蘇生をやりきったから、不可能と思われた事が出来たから、向こうの世界に帰るっていう見当もつかない事にも諦めないで進んでいけるんだ、って」
「ん、そうかな……照れるな」
「お前の元気を分けて貰えたから、お前がお前でいてくれるから、もっと自分のしたい事に全力をかけて良いって、そう言って貰えたから、今のオレがいるんだと思う」
栞がオレに告白してきた時に、オレに言ってくれた言葉だ。
その時の事を思い出したか、栞の顔が赤くなる。
「お前には助けられてるし、お前がいない生活は、とても考えられないと思う。栞、お前と一緒にいたいんだ。オレと、その、結婚して、くれませんか?」
「わたしの方こそ、ずっと一緒にいてください」
栞とオレの距離が、自然と近づき、お互い触るか触らないかくらいの、そのくらいの小さなキスを交わす。
栞の顔は満面の笑みで、大きな瞳から大量の涙がこぼれる。
オレは指でその栞の涙をぬぐい、それでも拭いきれず、お互いに苦笑した。
以前から作っておいた指輪を取り出す。
ケースも日本式、高級に見える様に頑張って作った。
箱のふたを開けて栞に見える様に持ち上げる。
「受け取って、ください」
栞が左手を持ち上げたので、その手を取って左手の薬指にそっとはめ込む。
手を持ち上げて、何度も指輪を見つめ、オレの胸に飛び込んできた。
「大好き!!」
「! ああ、オレもだ」
ずっと抱き着いていては話が進まないね、と照れた顔で栞は後ろに戻りエイミーに笑顔を見せた。
そして、手を持ち上げて指輪を見つめている。
「エイミー」
「はい」
ブラウンの長い髪にブラウンの瞳のエイミー。大人の落ち着いた雰囲気を持った、街で歩けば誰しもが視線を向けそうなほどの美人さんだ。少なくともオレはそう思っている。
そんなエイミーは満面の笑顔だ。
ちょっと気圧される。
「ありがとう」
「え?」
「いつも、二人に気を使って、一歩下がった位置にいてくれてる。戦闘が苦手なのに、栞やイドに付き合って、ダンジョンに行ったり、知らない人がいる場所とか苦手なのに、リアナやセーナと店舗を手伝ってくれたり。セーナの食事の準備や、リアナやイリーナと一緒に掃除してくれてたり……朝、オレを起こしにきてくれたり。本当にありがとう」
「そんな事、ないよ」
栞やイドは好きな時間に寝て好きな時間に起きるスタイルだが、エイミーはきっちりしている。
それなのにオレが遅くまで起きて作業をしているときは、手伝ってくれたり、お茶を用意してくれたり、リビングで待っててくれたり。
その上で一緒に生活しているときは、ほぼ毎日起こしにきてくれていた。誰かと一緒の時を除く。
「オレが何かをやる時に、いつも隣にいてくれてありがとう。いつも、オレを見てくれて、ありがとう」
「お礼なんて。あのね、私は、道長くんがす、好き、だから。いつも見ていたいだけなんだから……」
「オレを好きでいてくれて、ありがとう」
「……それはズルいよ、道長くん」
「オレは、エイミーに甘えすぎだよな。エイミーにずっと支えられてる」
ダランベールで元の世界に帰る為の調査の進捗が思わしくない時にも、明らかに不機嫌なオレの横で優しく「頑張って」と「道長くんなら大丈夫」と、言い続けてくれていた。
「そんなことないよ。私なんか、栞ちゃんや道長くんがいないとダメダメなんだから」
「『オレがすごいって思ってるエイミー』を虐めて欲しくないな」
「っ、やっぱりズイいな。道長くんは」
口をとがらせて伏し目がちになるエイミー。
「冥界で、こう言ってくれたよな。あの言葉で、オレは吹っ切れたんだ。出来るか出来ないかじゃない、やるんだって」
「道長くんなら、なんだって出来るよ」
「ああ、エイミーが隣にいてくれれば、オレはなんだって出来る」
「!」
「だからエイミー、ずっとオレの隣にいて下さい。きっと甘えちゃうけど、エイミーの事が、好きだから。いいかな?」
「はい、私は道長くんが好きです。愛してます。だから、道長くんが嫌って言っても、ずっとずっと道長くんの隣にいます」
「ありがとう。結婚しよう、エイミー」
「はい、宜しくお願いします」
エイミーとも口づけを交わす。
そして先ほどの様に指輪をつける。
「ん」
しばらく指輪を見つめていたエイミーが、不意にこちらに視線を向けると、再び、今度は深いキスをしてきた。
そして、ゆっくりと最後に下唇を軽く嚙んできて、離す。
「栞ちゃんは1回だったから、私は2回」
「ずるいよ!」
「栞ちゃんは昨日、道長くんといっぱいしたんでしょ。私は2回でもいいの!」
そう言って後ろに戻ったエイミーは栞とお互いに指輪を見つめて破顔する。
そしてオレは、イドの分の指輪を取り出した。
「ねえライト」
「あ、ああ」
「やっぱり、わたしも、栞やエイミーみたいにして欲しい」
「え?」
「ずるい!」
「ずるいよ!」
「むしろ二人がずるい。こんなにライトを、独占するの」
「むう」
「仕方ない、かな」
「さあ、ライト」
どんとこいと言わんばかりに胸を張るイドさん。
短い金髪と、エルフ特有の整った顔でこちらを見つめて来る。この里にきてエルフをたくさんみたけど、やっぱりイドの顔が一番好きだ。
「どうしても?」
「どうしても」
「告白のやりなおしって、結構辛いんだけど……」
「わたしへの愛が、その程度であれば」
「ぐぬっ」
くそ、なんか考えないと。
「二人みたいに、思った事を言えばいい」
「そうなんだけど……」
「みっちー、覚悟を決めるのだ」
「イドさんにも、必要だよ」
二人からの追い打ちがキツい。
「わたしはライトを押し倒した、何度も何度も体を重ねて子供が出来た」
「あ、ああ」
「でも、それだけ」
「そんな事って……」
「子供が出来たから結婚しようって言った。子供が出来なかったら、言ってくれなかった?」
「それは無い」
絶対に。
「なら、それを言葉にして」
「ああ」
深呼吸。
「イド、イドリアルには、クルストの街からの付き合いだったな」
「ええ」
「正直、エルフってだけで警戒対象ではあった」
「まあ、普通」
「綺麗だなっとは思ってたし、家で視界に入るたびに気になってた」
「ん、いっぱい誘惑した。視線も感じてて、イケルって思ってたのにいけなかった」
「すいませんでした」
「いい、わたしの魅力不足」
そんな事はない。でも、そういう余裕が無かったんだ。
「イドは魅力的だよ。エルフの里に来て、他のエルフを見てもイド以上の美人はいないもの」
「っ」
一瞬にして耳まで赤くなるイド。こいつは実はかなりの照れ屋だ。
「子供が出来てってのもあったけど、遅かれ早かれイドとは一緒になったと思う。それくらい、一緒にいたから」
「たった数年なのに?」
「時間じゃないよ。気持ちの問題」
「ならよし」
いいらしい。
「イドにはいつも助けられてる。正直、面倒事はイドが関わってくれるだけで解決できるって安心感があるから」
「わたしは出来る女だから」
目を背けないで欲しい。
「でも、放っておけない部分もあるから、だから、ずっといた」
「そう」
「クルストを離れる時も、一緒に来てくれるって言ってくれて嬉しかった。そして、おいていかないといけないって言った時の顔が、今でも覚えている」
なんせ満面の笑みだったからね。
「わたしはわたしの自由にする。わたしはエルフだもの」
「ああ、そうだな」
そうだな。そうだ。
イドを置いていかないと、リアナ達を任せないと。そう考えてたけど。
「でも、オレは。オレがイドと一緒にいたい」
「うん」
「だから、そうだな。そうだな! 帰る方法じゃない! 向こうに戻って、更にこっちに戻ってこれる技術を作ればいいんじゃないか! そうだよな! そうすればイドを連れて行って! リアナ達も連れて行って! また戻ってくればいいんだもの!」
「え?」
「みっちー?」
「ライト?」
あれ? こんないい考えなのに理解されてない?
「そもそもだよ。こっちから日本に帰ってなんで終わりって思ってたんだよ! バカだよなオレ! 日本に帰れば終わり? んな訳あるか! オレ人生はそこで終了じゃないんだから!」
オレはイドの両肩を掴んだ。
「イド! 一緒に日本に行こう!」
「へ? いいの?」
「ああ! んで、またこっちに戻ってくればいい! そういう風にすればいいんだよ!」
「行って、戻って?」
「ああ!」
「それが出来れば、ずっとライトと」
「一緒にいられる! オレや栞、エイミーの育った街や家も案内出来るぞ!」
「ずっと、一緒?」
「ああ、一緒だ! あれ? イド?」
ポロポロと、イドの瞳から涙がこぼれ落ちていく。
「一緒にいて、いいのよね」
「そうだぞ? イド、どしたー」
「今まで、ライトといた中で、ヒク。ヒグ。一番、嬉しい、言葉」
両手で何度も涙をぬぐい、イドが言葉を捻りだす。
「だっで、じおりど、えいみーと、かえるって。そこに、わだし、いないって。おもってた、から、そごに、ヒグ、いられる! いられる!」
突然涙を流し、幼子の様に嗚咽を始めるイド。
「だがら、子供まで望んだ! 嫌われてもいいからって! でも! 行ける! 一緒に! あああああああああ!!」
「イドさん……」
「イドっち……」
オレは泣き続けるイドを抱き寄せて、頭にキスを落とす。
「ごめん、我慢させてたんだな」
「ううん、わだじが、かってに、わるいから、ううん、とまんないよ、ごめん」
「違う、オレが浅はかだったんだ。でも、絶対になんとかする」
「しんじる、ライトだもの。ライトはなんでも、づくれるもの」
「ありがとう。ずっとに一緒に、いてくれるか?」
「いる、ライトが好きだから、一緒にいる、離れたくない」
「オレもだ」
栞とエイミーも、イドの肩を抱いた。
そして、エイミーがイドの左手を取ってオレに預けてくれる。栞は指輪を箱から出してオレに渡してくれた。
「改めて、イド。結婚しよう」
「うん……」
二人と同様に、しかし二人の協力も受け、イドに指輪をはめてもらった。
そして、3人はオレの手を取り、最後のオレの指輪をオレに付けてくれる。
そのまま、何度も口づけを落とし、裸になり4人で愛を確かめあった。
……覗いている人がいる事も知らずに。
長めになりましたね。個別に分けるには文字数的に少ないし、内容が内容なので分割するのも違うかなと思って一つの話に入れちゃいました。順番はともかく、それぞれに優劣を付けたくなかったんです。




