錬金術師と戦闘狂の里⑧
イドの家に連れてかれて、一番広いテントに通されると全員ようやく着席。
イドのお姉さんのイーナサーラさんは家族を呼びにいってくると言って離れた。
セーナがテキパキと全員にお茶を用意しはじめる。
「イド様、ご家族は何名ですか?」
「増えてなければさっきの入れて4人」
「はい、全員来られても良い様に準備しますね」
「セーナさん、わたくしも手伝いますわ」
アラドバル殿下の護衛の一人の女性が手を貸そうとする。
「いえ、セーナにお任せください」
それを首を振って断り、人の家で勝手に色々始めるセーナ。
「イド様、お茶はどうなされますか? こちらのご家庭のを使いますか?」
「いつものでいい。家のお茶よりセーナのお茶のがおいしい」
「! はい!」
ノリノリのセーナ。
「おまたせー」
「おかえりなさい、イドちゃん」
「イド姉さん!」
イーラサーナさんが連れてきたのはエルフの女性2人。
一人はふくよかなおばちゃんで、もう一人はほっそりとしつつも、胸の大きく背の高い女の子。
「ただいま、母さん」
「うふふ、イドちゃん聞いたわよ? 出来たって!」
「そう」
「良くやったわ、流石母さんの子ね」
なされるがまま頭を撫でられるイドが珍しい。
「あなたがお相手の? あら、見た顔ね」
「初めまして、イドのお母さん。光道長です。今は道長=ライトロードと名乗っていますが」
「イドの母のエインシャルだよ。しかし、あんたは救世主道長! やだ! イドちゃん! すんごいの捕まえたわね!」
「ん、ライトはすんごい」
「救世主道長……ほんものだ」
座っていたオレを覗き込んでくるのは胸の大きな女の子。
「えっと」
「イド姉さんの妹のイーファンナです。戦争の時はお世話になりました」
「いや、特に何も……」
「あの速度アップの付与が付いたポーションの味は忘れられないです」
「なんか美味しかったらしいね」
「ラ、ライトロード殿。ライトロード殿は神兵様達に救世主と呼ばれるほどの存在であったのですか……」
アラドバル殿下の護衛のザンネックさんが呟く。
「あら、ご存じない? 救世主道長伝説」
「母さん、わたしも知らない」
「あら、ダメよ道長ちゃん、嫁に隠し事なんて」
「いや、隠し事というか」
悲しいかな、気が付いたら定着した謎あだ名なのだが。
「道長さんは、この世界樹が危機に瀕した時に我らエルフの助けをしてくれた、偉大な錬金術師なんです」
「ほう?」
アラドバル殿下も興味津々の様子。
「あれは魔王軍を名乗る悪魔が指揮する魔物との戦いの話でした」
「おお!」
「や、本当に……」
「わ、私も聞きたいよ。道長くん」
「そういえばそんな風に呼ばれてたね、みっちー」
「栞は知ってるの?」
「うん。エルフ中に知れ渡るほどの名前だとは知らなかったけど『救世主道長』プププ」
笑うなや。
エルフの里、そして世界樹が魔王軍により攻撃を受けていた際に、その情報を手に入れたオレ達は、女神クリア様のいらっしゃる天界を守る為に、エルフ達の援護に加わった事がある。
女神クリアに害がなされれば、オレ達は帰れなくなる可能性もあったから必死だ。
幸い世界樹の防衛は、この世界でも特に戦闘力に定評のある『エルフ』達。そう簡単に倒されはしない。
悪魔が調伏させた大量の魔物を使い、エルフ達のいる世界樹に攻勢をしかけるも、この世界では数の戦力よりも、個の殲滅力が物をいう世界。エルフ達は圧倒的優位に立っていた。
しかし、数カ月もそれを続けられるとエルフ達も息切れが起きる。
無理矢理従わせた魔物達は、怪我をしようが腹が減ろうが、死なない限り進軍を続けて来る。
エルフ達は怪我をすれば回復が必要だし、腹が減ればメシを食いたくなる。
戦いはエルフ優位に見えても、エルフ達は防戦であったため、その物量に中々打開策が出なかった。魔王軍はダンジョンを制圧して、そこの魔物を外に連れ出して奴隷の様に扱っていたからね。
そんな時に現れたのは、自称魔王軍のNo.2、名前忘れた。鉄翼の悪魔とオレらが呼んだ悪魔と、その手下の悪魔達。
鉄翼の悪魔は、単純に強く、エルフ達も苦戦し多くの戦闘不能者を出した。当然死人も。
そして更に厄介だったのが、礫の悪魔と呼ばれていた悪魔だ。
こいつは、生き物を石化させて戦力外にする能力の持ち主だった。
エルフ達がこれらとの戦闘で戦力を落とす中、到着したオレ達。
戦闘能力に秀でた栞や、稲荷火、明穂、海東が鉄翼の悪魔と礫の悪魔を相手取った。
白部は重傷者を中心にエルフ達を回復。あいつ、部位欠損とかも平気で治すからな。
ダランベール王国からの食糧支援やオレとじじいが作ったポーションを配布した後、オレは礫の悪魔によって石化されたエルフ達を回復させる石化回復専門のポーションを作成し、多くのエルフ達を戦いに戻す事が出来た。
稲荷火が聖剣使って暴れて世界樹の枝が1本ほど切れてしまったが、鉄翼の悪魔や礫の悪魔の討伐。それと重症化して戦力外となっていたエルフ達や、石化から復帰したエルフ達が戦いに戻れたことにより、決着がついたのである。
「多くの怪我人や石化されたエルフ達を救ってすぐに前戦に戻れるように準備をしてくれた道長ちゃんは【救世主】って呼ばれたのよね」
救った方じゃなくて戦いに戻すほうが評価されてた!
いや、ほんと治した瞬間に『治った! 行って来る!』みたいな人が多かったから携帯出来るポーション準備したり、痛んだ武具を直したりしてただけなんだけど。
「あの暴れん坊の勇者の制御をしていたのも道長さ……お兄さん? でしたから。私も前戦で怪我を負った時に、ポーションで癒して貰いました」
「あー、ごめん。あんだけエルフいたから一人一人は……」
「大丈夫です、私も治ってすぐ戦いに出たので、後から聞いた話ですから」
そうなのね?
「ほほう。ライトロード殿はそのような活躍をされたのですか」
アラドバル殿下に尊敬の目で見られる。
「あ、母さん。これ、シルドニアの子だって」
「シルドニア? あの虫好きの?」
「そう」
「あんたも虫ばっか食って育ったのかい?」
「いえ、流石に毎回断っていました。物心つく前はわかりませんが……」
「そりゃ良かった! 確かに美味い虫もいるが、基本ゲテモノだからねぇ。シルドニアの子かい。それじゃあケンブリッジのトコに連れてってやるよ。どうせウチに全員泊められるほど広くないし、宿なんてこの里にはないからね」
「私が連れていく。母さんはイド姉さんと話してあげて」
イーファンナちゃんが席を立つと、アラドバル殿下も立ちあがり礼をする。
「ありがとうございます。そのケンブリッジ様というのが」
「シルドニアの父親」
「私の祖父に当る方か……是非お話をしたい、よろしくお願いします」
「気さくな人だから安心して」
イーファンナちゃんが案内するとの事で、アラドバル殿下と護衛の2人も付いていく。
そこでオレは気になっていた事があったが、先にイドが口にした。
「ねえ母さん、父さんは?」
「ああ、あの人ね……」
伏し目がちにエインシャルさんが口を開く。
「イド、あの人はね。魔王軍との戦いに参加をしてたんだ」
「当たり前。出てない方がおかしい」
「そう、そしてあの人は」
エインシャルさんは立ち上がり、壁の布を一枚剝がした。
「この通り、石化したままなんさね!」
「「「 ええええええええええ!? 」」」
そこには雄々しく口を開き、両手を前に広げたエルフの男性の石像が立っていた。




