錬金術師と戦闘狂の里⑦
駐屯地の工房から地下の転移ルームのドアを経由して、旧港街の工房に移動。
そこの工房の地下の転移ルームのドアの一つを使い、世界樹の近くにある隠しておいた拠点に移動だ。
流石にこの拠点は妖精の隠れ家ではない、地面の下に半分ほど埋め込んである隠れ家だ。認識阻害の魔法がかかっており見つかりにくくなっている。
以前、世界樹のダンジョンに行くのにイドも使ったので、知らなかったのはジェシカとアラドバル殿下、そしてアラドバル殿下のお付きの護衛騎士2名、大柄のおじさんはザンネック、赤髪縦ロールの女性がルーテシアだ。
「これが、世界樹……」
「なんとも荘厳な」
「まるで視界が埋めつくされんばかりの大きさですね」
「でけえっす……」
ジェシカ、口を閉じなさい。
「イド、故郷の里の場所、ここからでも分かるか?」
「あっちがダンジョン。だからあっち。場所が変わってなければ」
世界樹の上や周りにはいくつものエルフの里が点在している。
全方位に里を置き、世界樹に近づく魔物をシャットアウトする為だ。空中戦の能力に秀でていたり、矢や魔法の腕が特にいいエルフは世界樹の枝の上の集落に移動する事が出来るらしい。
いわゆるスーパーエリート。
イドはそちらのに行くことが出来るレベルだったらしいが、出稼ぎ組だ。
出稼ぎ組は戦闘能力だけでなく、森やそれ以外の地域での生存能力の高い者がなれるため、枝の上の集落に行くよりも難しいらしい。
実はイドさん、エルフの中でもエリートの部類だったんや。
イドの先導の元、栞を先頭に森の中を移動する。
「待って」
栞の一言に、全員が臨戦態勢を取る。
オレは念のため、木製のエンブレムを出して首からぶら下げる。
「突然気配が湧いたと思ったら、勇者のとこのちびっこか」
「誰がちびっこか!」
「む、救世主道長も一緒か! 久しいな!」
「よっす」
2人のエルフの狩人に遭遇。
「か、神兵様が2人も……」
「イドリアル様もいるから3人ですわ!」
「ら、ライト様は滅茶苦茶っすけど、こういうのは初っすね」
ジェシカとアラドバル殿下の護衛の二人が興奮している。
「ん、里帰り」
「おお、えっと」
「あーっと、どっかで見た気が……」
「気にしない。わたしも覚えてない、外のイドリアル」
「なるほど。道案内は必要か?」
「多分大丈夫。ここ100年で移動あった? 南地区だけど」
「そっちは無いな、西地区や北西地区の移動はあったが。まあ迷ったら悲鳴矢を撃ってくれ。誰か迎えにいくだろう」
「ん」
イドは矢を受け取ると、そのままセーナに渡す。現在弓を付けてるのセーナだけだもんね。
「今は特に警戒する魔物は出ていない。ゆっくり進むといい」
「ありがとう。助かるよ」
「じゃあな」
エルフの狩人2人は、そういって指笛で音を鳴らし去っていった。
他の仲間に何かしら合図をしていたのだろう。
「ねえライト」
「ん?」
「救世主道長って何?」
「聞かないで……」
ただ戦闘支援してただけなのに、気が付いたらそう呼ばれるようになってたんす。
「イドリアル!」
「イド! 戻ったのね!」
森についてから野営も1度必要になったりもしたが、無事にイドの故郷に到着。
里の人間がイドの顔を見て挨拶をしてきた。
「ん、久しぶり」
「だなぁ。エインシャルも喜ぶぞ! 今日は宴だな」
「ん、楽しみ」
そんな挨拶を片手でうけつつ、イドがそのまま村をまっすぐ歩く。
「神兵様達の村……」
「全員神兵様だ」
「かかか、神の国っすね」
「まさしく」
「ですわね!」
「ただの田舎。そんな大層な物じゃない」
「イ、イドリアル様、私達も勝手に入ってしまっているが良いのでしょうか? どなたかに挨拶などをせねば……」
流石にアラドバル殿下は皇室の人間だけあって別の意味で緊張している。
「いらない、わたしが連れて来てるだけである程度信用されている」
「そ、そうなのですか?」
「そう。それに賊ならもっと歓迎される。ここは世界樹の内包エリアの内側、世界樹の守り里の一つエルフの里の中でも、強者が集ってるのに。なかなか強敵が来ない場所だから」
なんか頭の悪い意見が出て来た。
「あれが多分、わたしの家」
家がいくつも並んだ一つを指差すイド。
エルフの里の家は基本的に布張りだ。世界樹に攻め込んでくる魔物などの外敵が来たら、家ごと移動出来るように家も解体しやすくなっている。
世界樹はその性質上、多くの魔物を誘引する。時には厄災クラスの超強烈な魔物も来るらしいので、そういう時の対策らしい。
「あら、イドじゃない。おかえり」
「あ、サーナ。ただいま」
オレ達に声をかけてきた、イドに似た顔立ちの髪の長い女性。
「お客さんもつれてどしたの?」
「ん、子が出来た」
「ほんと!?」
「そう」
優しく自分のお腹を触って報告するイド。
え? なんか早くない?
「そうなんだ! やったじゃない! 相手は? 押し倒された?」
「残念ながら、押し倒した」
「あらそうなの? でもイドの目に適う男が外にいるのねぇ。やっぱ世界は広いわ」
「ん、連れて来た」
「ホント!? えっと、人族の男が2人にハーフ……まさか、そっちの鎧姿の方?」
少し照れた感じで、オレの袖を引っ張る。
力が強い。
「うお」
「わたしの婿、ライトロード。ライト、これ、姉のイーラサーナ」
「えっと、よろしくお願いします」
「へへぇ! 意外ね! もっと筋肉だるまみたいなの想像したのに」
「ライトは、力は強くないけど、それ以外が強い」
「そうなんだ?」
「ん、自慢の旦那」
「もう、早速のろけ? やーねぇ」
バンバンとオレの肩を叩くお姉さん。痛いっす。冗談抜きで。
「それと、同じくライトの嫁の栞とエイミー」
「よ、よめ!?」
「同じく!?」
「ちがうの?」
「えっと、みっちー。どうなの、かな?」
「みちながくん……」
「……はい、三人ともオレの大事な人、です」
「いいじゃないいいじゃない! 3人も面倒見れる男なんて人族じゃあそうそうお目に掛かれないわよ! イド~いい人見つけたじゃない。良かったわねぇ!」
「ん、自慢の旦那」
「そう! 道長君に栞ちゃんにエイミーちゃんね! そっちのハーフも気になるけど、とりあえず家に行こう。母さんに会わせないと! あ、レーベ! サンチュラータ! 今夜は宴よ! イドが男連れてきたわ!」
イドのお姉さんが仕切りつつも、周りの人間を沸き立たせる。
それに圧倒されるオレ達。
そのままの勢いで、オレ達は家に連れ込まれていった。




