錬金術師と戦闘狂の里⑥
「あー、ごめん。アラドバル殿下。色々問題が、違うな。問題じゃない。色々いい事が起きた。ちょっとエルフの里に行って来る」
「は? エルフの里?」
「そう。エルフの里」
「もう一度聞いていいか?」
「おうよ」
アラドバル殿下のみならず、騎士団の面々も目を驚かせている。
「どこに、行くって?」
「エルフの里。世界樹の麓」
「世界樹って、確か」
「ダランベール王国の北東の深い森の奥地だな」
「今から?」
「今から」
「何しに?」
「ケジメをつけに」
ご両親に挨拶したり、お子さんを授かった事を伝えたり、その上で結婚の許可を頂いたりしないといけない。
えと、役所とかに登録はいるのかな? 役所ってどこだろ。首都にあるかな?
でもその前にご両親に許可を貰わないといけない。
どうしよう。イドの両親って事はエルフだよな『お父さん、娘さんをください』っていったら、拳と蹴りと武器と魔法が全部飛んでくる未来しか見えない。
……よし、聖剣の出番だな。
絶対に貰う。
「ライトロード殿」
「なんだ?」
「熱で頭をやられたか?」
なんだとぅ、失礼な王子様だな。
「今は緊急を要するんだ。と言っても納得できないだろう、そこでアラドバル殿下も一緒に連れて行こうかと思っている」
「ほう?」
「アラドバル、ハーフエルフよね」
イドが窓から再び顔をだす。馬車が止まってしばらく経ったから顔色も幾分か落ち着いている。
「は! イドリアル様! そうであります!」
「ハーフなら、世界樹の村で半月も生活すれば純血のエルフとそう代わりのない見た目になる。1年も生活すれば寿命も、能力も純血のエルフと同様に。というか純血のエルフになる」
「ええ!? なにそれ!? エルフってそうなの?」
オレは驚いてイドを見る。
「ん、外から血を入れてもエルフにきちんと継承されるのは、そういう仕組み」
「あの、イドリアル様。とてつもないお話をされている様に感じるのですが」
「そう? エルフの中では一般常識」
「どういう仕組みだよそれ……」
「えるふぱわー?」
「「「 なるほど! 」」」
おい、納得するなよ騎士団諸君。
「何がどうしたいのか分からないが、第一騎士団の駐屯基地まではこのまま大人しくついてきてくれないか?」
「え、嫌だけど? それどころじゃないし」
「……お前達を首都まで送り届ける仕事が俺にはあるんだ。多少行程が遅延するのは構わないが、せめてそこまでは大人しくついてくてくれ」
「ライト、いいよ」
「え?」
「わたし、扉で工房行って休んでるから」
「そうか。わかった。じゃあリアナとセーナとエイミーと栞と」
「リアナだけでいい」
「あ、ハイ」
「どうせならアラドバルも連れて行く。シルドニアの家は、同じ里だった気がする」
「そうなのか?」
「逆に他の里のエルフ、覚えてないし」
尤もな理由だ。
「は? 父の生家のお話ですか!?」
「そう。えるふぱわーで里まで帰る」
「「「 なるほど! 」」」
便利だなそのえるふぱわーって奴は!
イドの世話をリアナに任せて、だっちょん馬車で3日程移動すると、アラドバル殿下の言う第一騎士団の駐屯地に到着した。
勿論野営の際には馬車の扉を使い、旧港町の工房に戻ってイドの顔を見に行っている。
鬱陶しいから毎日来なくていいと言われて地味にショックを受けたが、言っていたイドのその顔が少し照れていたので、毎日顔を出していいはずである。
やべぇ。イドさん超可愛い。
「やっと落ち着けるね……」
「本当にね……」
「やべぇっすね。ライト様」
「ご主人様にこんな面があるなんて知らなかったわ」
「あるじうれしいとイリーナもうれしい!」
凄まじく疲れた表情と声を出す一部の面々は放置である。
イリーナが癒し枠だな。
「して、ライトロード殿。本当にエルフの里へ行くのだな? その『えるふぱわー』とやらでエルフの里にいけるのはいいとして、首都に行ってからではダメなのか?」
「出来れば今すぐにでも行きたいくらいだ。そもそも首都に行けば魔導炉の技術提供やらで忙しくなるのが目に見えているからね。今のイドを人の多い所に連れて行きたくないし、そもそもオレが原因といえば原因なんだ。ここは譲れない」
「そう言うが……」
難色を示すアラドバル殿下
「ライトロード殿を連れてくるのに、既に2ヶ月の引き延ばしまでしたんだ。こちらとしてもこれ以上時間をかける訳には……」
「ダメ、ノー!」
今のオレは聞く耳持たないマンだ。
オレはそう言いながら、イリーナにぺったんこハンマーを取り出す。
「駐屯地の一角、借りるぞ」
「む? テントでも張るのか? こちらで宿を用意させているが」
「イリーナ、やっちゃって」
「はいです! ぺったんこ!」
掛け声をかけないと作動しない魔道具のハンマーが地面を叩き、大地をまっ平に作り替える。
アラドバル殿下や、騎士団の面々が目を広げて口を開けて驚く中、イリーナの体の3倍もの長さのあるハンマーが地面をスタンプしていく。
「ぺったんこ! ぺったんこ!」
「ラ、ライトロード殿、あの子は何を?」
「今から家を建てる。だから地面を平らにしているんだ」
妖精の工房は、真っすぐに作ったから地面もまっ平じゃないと設置した時に角度が付いて欠陥住宅になってしまうのだ。
まあ世界樹の板で作られているから歪んだりはしないけど。
「ぺったんぺったんぺったんこ!」
「これ、地味にダメージはいるのよ……」
「し、栞ちゃん、しっかりして!」
「栞、我慢よ?」
「ぺったん? あ、そういう話っすか! あはははは」
「むきー! じぇしかぁ!!」
「ひい、ごめんなさいっす栞様っ」
なんかコントが繰り広げられている中、イリーナがきっちりと地面を平らにしてくれた。
中央に妖精の工房を設置、離れてから起動すると、大きな建物がドカンと建った。
「おけー。セーナ、イリーナ。柵の設置を宜しく」
「わかったわ」
「はいです!」
工房自体に防御の結界は施してあるから守りとしての柵はいらないけど、窓の近くまできて来られて中を覗かれたりするの嫌だから設置。
「はーい、ただいまー」
「いいい、家が建ったぞ!!」
アラドバル殿下を中心に、騎士団の面々から驚きの声があがる。
「アラドバル殿下」
「ライトロード殿! これは一体!?」
「これが『えるふぱわー』の一環だ」
「「「 なるほど!! 」」」
「いや! 俺は騙されないぞ!? こんなこと父はしていなかった」
「まあ招待するから。そっちも色々あるだろ? 準備出来たら来るといい」
オレは早くイドの実家に行きたいのだ。




