新大陸の錬金術師③
「やーっと、見つけたよ! 集落の跡地、ちょっと離れてたけど。誰かの野営してた跡があった。こっちを監視してた感じだね」
「おお、とうとうか」
新大陸に到着して5日。
周辺の探索に足を延ばしていた栞がとうとう人のいた気配を発見。大盗賊の技能で痕跡を見つけてくれた。
「ある程度訓練された生き物、靴履いてたし足形が大きかったからゴブリンとかじゃないね。それが5人いたのが一番新しい形跡、馬の数も一緒。似たような足跡があったから入れ替わりで。多分あの大きな蛇の監視じゃないかな」
「なるほどなぁ」
人里があのような巨体で獰猛な蛇の行動範囲内にあるのであれば、監視役を置くのは当然だ。
「ここから西に向かっていった所だね。あたしらがこっちに来た時には監視にいたんだと思う。相当離れていたから気づかなかった」
「それはしょうがない、監視対象があの巨大なヘビならば離れていても気づけるだろうしね」
「多分更に西にいった所に人間か、獣人か、それに類するものの居住エリアがあるんだと思う」
「ああ。そうだろうな」
黒竜王が暴れた後で、無事に盛り返す事の出来た人々がいるようだ。
「よし。手紙を書くか」
「手紙?」
「ああ、お前の見つけた監視場所に置いておく。文字を読める人間ならそれを見て状況を確認出来るだろうし、読めない人間であっても読める人間に聞きに行ってくれるだろう? 上手くいけば一気に話を進める事が出来る」
「おー」
「あるじすごい!」
手紙を手紙と認識できない蛮族だったら嫌だけど。
紙だと濡れて読めなくなるかもしれないので、木の板っぱに文字をガリガリ彫って栞に渡す。
「ってな訳でこれをその監視ポイントにおいてきて。それとこの旗も立ててきて」
「ああ、ダランベールの」
「そ、国旗」
国交が無事だった時の時代から変わらないダランベール王国の国旗。これを一緒に設置しておけば、当時を知る者がいればオレが海の向こうから来たことも理解出来るはずである。
「色々考えてるんだねぇ」
「相手が何者か分からないと怖いからな。すくなくとも素性のヒントとなる物をおいておけば向こうも考えてくれる。友好的に接してくるか、敵対してくるかも分かるからな」
「危なくないならいいけど」
「危なくなる様なら逃げればいいさ、連中は空を飛べないだろうし」
「それもそっか」
拠点代わりにしているロードボードがあるのだ。やばくなったら飛んで逃げればいい。
一応当時の地図があるから、旧王国の位置も分かるし。
「さっくり飛んでいけばいいのに」
「物事には順番ってのがあるんだよ」
さくっと飛んで乗り込んで、誰もいなければ資料は読み放題だが、誰かがいてそれと交渉しなければいけなくなったら色々と面倒になるかもしれないし、資料を見せて貰えないかもしれない。
この世界、空から来るのは厄災ばかりだ。女の子が落ちてきても警戒が必要である。
オレの船が攻撃されても文句は言えない。
そもそもただ辿り着く事が目的ではないのだ。
元の世界に帰る為の手段、もしくはヒントを探すのが目的なんだ。調べ物をするにはそれなりの環境というものが必要なのである。
あと単純に空は怖い。
「まあいいや、イリーナいこ」
「あい」
栞は戻ってきた時と同じように、軽い足取りで柵を乗り越えて外に出ていく。
魔物が闊歩する世界で、軽装で軽快に歩いていくノースリーブのシャツに短パン姿はこの世界を舐めているとしか思えないが、ポシェットに色々仕込んでいるしブーツも履いているから問題ないはずである。
程なくして戻ってきた栞とイリーナ。
「こんぷりー」
「こんぷりー」
おう、お疲れさん。
大分早かった。
時間が余ったので3人でまったり物見櫓を作って登って遊んだりした。
こちらの櫓の上にもダランベール王国の旗をなびかせておく。
「おー、軍隊だ」
そして先日作った物見櫓の上から確認できたのは隊列を組んでいる人の群れ。
お手紙の木札を置いてから、その場所を栞に教えて貰い監視してたら木札のとこに人が来た。
どうなるかなぁと何日も待っていたら軍隊が来たでござる。
装備が統一されている事を考えても、冒険者や傭兵団のような集まりではない。
双眼鏡で眺めていると、中々豪華な装備を着込んでいる人間もいる。
「さて、指示を出しますか」
一応一昨日のうちに全員に配置を確認しておいたが、念のためもう一度全員を集めて改めて指示を出す。
櫓の上に置いてある鐘を何度か鳴らして、狩りに出ているイドや栞も集合させる。
「なんか来た」
「だな。上から見た感じ兵隊だ。50人もいる」
「おおー、大所帯!」
「な、なんか怖いね」
「向こうの出方が分からないけど、極力戦闘にならないようにしたいなぁ」
相手が武装しているのはしょうがない。ここまで来るまでに魔物と会うこともあるからね。
問題としてはこちらの武装レベルをどのレベルにするかだ。
「この間言った通り、船の警備にイドリアル」
「ん」
「セーナはいつでも船を出せる様に準備をしていてくれ」
「分かったわ」
生まれたばかりの蛇の子も船の中だ。
「エイミーは牽制出来るように船の上からこっちを注視しててくれ。やばそうなら援護を」
「うん。道長くん気を付けてね」
「ああ、イリーナはエイミーの護衛役」
「まかせるです!」
「栞はオレの護衛だな、やばそうになったらオレとリアナを抱えて逃げてくれ」
「乙女の仕事じゃないぞー」
不満を言うが、この中で一番早く動けるのは栞だ。仕方ないじゃないか。
「リアナはいつも通り」
「畏まりました」
相手に偉い人がいたら歓待をしなければならないし、歓待されるかもしれない。
そうなった時に、従者に見えるリアナがいるかいないかで相手の対応が変わる。
「で、交渉役がオレね」
「危険はない? ご主人様。セーナ心配よ」
「まあ、戦闘になっても死なない様に立ち回るさ」
「お怪我もダメですよマスター」
「あるじがけがしたら、イリーナおこる」
「はいはい、分かってるって」
ホムンクルス組が心配する。
「まああたしがついてるからへーきへーき」
「シオリがいれば、不意打ちは防げる」
「わ、私も! 道長くんが危ないようなら、すっごいの出すからね!」
「すっごいのはやめてくれ」
スーパー危ないから。
「向こう側がそろそろアクションを取り始めるだろうから、オレも前に出ないとな」
向こうは隊列を組んでるから移動が遅い。
しかし騎馬が旗を持ってこちらに走り込んでくる。
これは資料に残っていた『ハイランド王国』の旗とは別の旗に見える。
オレもダランベール王国の旗を持って、栞を供に前へと歩み出す。
「我らはシルドニア皇国ウルクス領軍! 代表者のミチナガ=ライトロード殿はおられるか!」
「ご指名だな」
まあ名前も彫っておいたので当然である。
名前を呼ばれたのでオレが先頭に立ち、栞が後方で控えてくれる。
「オレがライトロードだ。そちらの代表の名を教えて頂きたい」
「シルドニア皇国第二皇女殿下『エッセーナ=ハイナリック=シルドニア』殿下がお会いになられるそうだ」
「左様でしたか、ではこちらに参られるようにお伝えして頂きたい」
「我々の場所まで足を運んで頂きたい」
「交渉はこの場で行う。こちらにはあの大蛇を倒した戦士がいる事を忘れないで頂きたい」
オレは鞄から蛇の首を取り出して地面に転がす。
この頭だけで自動車くらいあるから迫力が凄い凄い。
「ひいっ!」
「さて、返答はいかに?」
「は、はい! ご、ご伝言として承らせて頂きますっ」
「よろしい」
オレは地面に旗を刺して、柵に用意しておいた扉を開ける。
「リアナ、テーブルセットを」
「畏まりました」
リアナが柵の内側にテーブルと茶台を用意し、お湯などの準備を行い始める。
準備が整った頃、今度は実戦一辺倒な鎧を着た女性と、豪華な鎧を着た男性が供を5人連れて馬でかけてきた。
大蛇って書くとアレだけど、単純にファンタジー規格にするだけで単位が頭おかしくなる
でも普通サイズの大蛇もキモ怖い