錬金術師と戦闘狂の里④
「あとは定着待ちだな。そっちはどう?」
「こんな感じ!」
「ここがわたしの部屋、こっちが栞、ここがエイミー」
「お、おう。全体的にでかいな……」
「奥がジェシカ、下の階にリアナ達」
1階がリビングやダイニング、キッチン。客間や会議室、そして半分近い広さに工房。工房は天井もある程度必要なので2階の半分まで進出している。
2階がホムンクルス達の部屋。それと空いたスペースに物置を作成。
3階がオレ達の部屋、なのだが。
「オレの部屋、でかいんだけど……」
「大きいベッドが必要と判断」
「こ、この間みたいな事もあるし……」
「あたしは違うよ!? あたしは、その、みっちーと、その、そーいうときには独り占めしたいし……」
「や、それは、その。えーっと」
「勘違いしない。それとライトも期待しない。これはそういう事をしなくても、みんなでお泊りとか、その。したいから」
ほっとしたような残念なような。
鼻の穴、大きくなっちゃってたり、そうじゃなかったり。
「地下に転移ルームとお風呂場とか水回り。リアナさんの希望により洗濯部屋も作成したよ。あ、トイレは各階にあるから安心して」
「リアナの部屋はチェイクもいるから大き目」
「あー、最近またでかくなったよなぁ」
何気にチェイクの脱皮した皮とかいい素材だったりするから助かるけど。
「冷蔵庫も倍化」
「それ作るのオレだよな」
「安心して、どれもこれも全部作るのみっちーだから!」
安心できない!
「了解、取り合えず形にするからちょっと場所貸して」
あくまでも栞達は配置をしただけで、床や壁はガバガバなのだ。大きさや天井の高さも考慮して作成をしないといけないし、手直しも必要だ。
魔核を仕込む場所も必要なので、積み上げられている世界樹の板の枚数なんかを調整していく。
ついでに接着剤でそれぞれを固定。もちろん接着剤もきっちりと錬金術で作られた【拡大・縮小】対応の接着剤である。
しっかり全体に付けないと隙間風が入るから丁寧に、それでいてはみ出た部分を拭わないと拡大した時に不格好になるから注意が必要である。
釘? 面倒なのでパスである。
丸型とかめんどいけど、目をキラキラさせている栞がいるから我慢だ。
デッドスペース出来るから嫌いなんですけど。
世界樹の板を並べて魔力熱で伸ばし棒に巻きつけて曲線の板を作成し、それを同じように積み上げる。世界樹の板はオレの腕力程度では曲がらないし折れないので、こういった処理が必要だ。ちなみにイドが全力でやると折れる。
そうこうしつつ、高さや間取りを調整。階ごとに分けて作るので階段の位置なんかがズレるとやり直しになるから丁寧に長さや角度を測って黙々と作り続ける。
「よし、出来た」
「いいね! 可愛い!」
「屋根忘れてたね。赤い屋根のおうち、可愛い」
エイミーのギリギリな発言である。
各階それぞれを一度合わせて外してを繰り返し、問題がなさそうか確認。特に階段や廊下のつなぎ目にズレがないか、ハメている床や壁の木材に歪みがないかなどを改めて確認。
換気口、上下水を通す管なんかもこの時に一緒に取り付ける。
窓や家具や浴槽、トイレなんかは後だ。
窓は拡大すると気泡が残ってたら目立ってしまうので実物大の物を用意するに限る。 家具類は魔法の袋に入れて運べば問題ないから後でだ。
「まあ拡大させればただのデカイ家だけどな。小さいから可愛く見えるだけだよ」
「えー、そうかなぁ?」
「ん、良い出来。手伝った甲斐があった」
「おう、みんなありがとな」
ここまで組み立てれば、後は魔核を仕込むだけだ。
錬金窯の中で出来上がった魔核を取り出して、ヤスリを使い完全な球体に形を整える。
「魔核大きいね」
「ドッジボールくらいの大きさだからな」
ちなみにこの妖精の隠れ家、【拡大・縮小】の機能に問題が無ければ、生き物以外は同じ比率で【拡大・縮小】してくれるので忘れ物をしても安心である。
窓や換気口なんかの素材の違う部分もなんのそのだ。
形を整えた魔核にデザインナイフタイプの錬金刀で魔法陣を彫る。もちろんぶっつけ本番は嫌なので筆で下書きをした上で実施だ。
魔核に魔法陣を刻み終えたので、魔核だけで早速起動。
ドッジボールサイズだった魔核が指でつまむのも困難なサイズへと早変わりする。
問題無く起動したので、今度は階ごとに分けて作ったそれぞれの家を完全に固定しつつ、中心部に魔核をセット。
最後に屋根を取り付けて、魔核からの魔力が家を覆っているかを確認。
「よし、問題無いな。一応確認するか」
「「「 賛成! 」」」
勿論ヘイルダムで試すわけにはいかないので、旧港町で試す。
拡大、縮小が問題なかったのでそのまま最初の工房の横に設置しておく。
あとは全員の要望に合わせて家具やら生活用品やらを取り付ければ完成である。
え? 転移門だけを用意したもっと小さい家を作れば良かったじゃないかだって?
オレもそのつもりだったんだけど、色々と話し合いが持たれていたんです。オレのいないところでね!
つまり簡単に言うとだ。
それが出来れば苦労しないのですよ、男性諸君!
「待たせたね」
「いや、俺の方が無理を言っただけからな。国賓として丁重に扱う事を約束するよ」
栞とアーニャの感動的なお別れ会とか、オレとリックの友情を確かめ合うシーンとか、商業ギルドのばあさんの最後に金落としていきな攻撃とか。
うん、割愛。すぐ戻って来れるし。アーニャとリックはオレの工房の事知ってるもん。
改めて迎えに来たアラドバル殿下と合流し、簡単に挨拶をする。
向こうで馬車も用意してくれたが、そこまでアラドバル殿下を信用するわけにもいかない。
だっちょん馬車で我々は移動である。そもそもだっちょん馬車のが乗り心地いいし。
念のため栞とジェシカは錬金馬で並走。外の護衛替わりだ。栞は元々胸当てとブーツ、短剣くらいしかつけてないので軽装備。ジェシカは展開機能が付いている小手とベルト、ブーツをつけて腰に剣をさしている。
栞はリラックス気味、ジェシカはアラドバル殿下や騎士団の面々がいるのでガチガチだ。
二人は適当にセーナやイリーナと交代する予定である。
そして馬車の上にはチェイクも居座り、周りを警戒している。
現状出来る完璧な布陣である。
「それで、イドリアル様は」
「ん、いる」
馬車の窓を開けて顔だけイドが見せると、周りの騎士達から歓声が沸く。
それを聞いたイドは顔を顰めると、窓を閉めてカーテンもかけてしまう。
「むう、ご機嫌を損ねてしまったか?」
「言ったろ。照れ屋なんだって」
「そ、そうなのか」
御者台側の壁を蹴らないで下さいイドリアルさん。
「済まないな。騎士達は父を直接知らない代の者達ばかりなんだ。兄や上位の貴族達の政略もあってエルフはかなり神格化されてしまっている」
「まあ実際にエルフの戦闘能力は神懸かってるからなぁ」
戦争の折、多くのエルフ達の戦闘を見て来たからこそ、実感が沸く。
「それだけに、イドリアル様のお姿を一目見るだけであの有り様だ。まったく、栄えある第一騎士団の面々でこれではな」
「まあダベってないで動こう。オレ達が出発しないと、壁の上の連中が日常生活に戻れなくなるぞ」
「それもそうだな、ライトロード殿の言う通りだ。先導する。この先の3つ目の村で第一騎士団本隊と合流しつつ、王都へと向かう工程だ」
「ああ、それでいいよ。元々アラドバル殿下は少人数で来てると思ってなかったからな。ヘイルダムを刺激しないように配慮したんだろ?」
「分かってくれて嬉しいよ」
騎士の一人が殿下に視線を送って来たので、殿下が頷く。
騎士は馬を巧みに操り、無理のない速度で歩きだす。
それに合わせてアラドバル殿下も馬を動かしだしたので、御者台に座るオレもだっちょんに、というか同じく御者台に座るセーナに指示を出す。
こちらに顔を向けていただっちょんの顔を撫でていたセーナが、慌ててだっちょんに繋がる手綱を握り、だっちょんも動き出す。
栞や他の馬に乗っている騎士団の面々も同様だ。
誰も乗っていない馬車が引かれるのが若干間抜けにも見えるが、そこは指摘しないでおこう。




