弟子(?)をとる錬金術師①
そんなこんなで騒ぎながら工房に戻る。
さっき吹き飛ばされたドワーフの青年が戻ってきていて、魔導炉を見つめている。
姿を変えたオレ達が敷地に入るのに目を見開くが、姿が元に戻ると納得している様子だ。
別に変装してた訳じゃないが、幻術が解かれたので首をコキコキとならした。
「せっかく連れて来たってのに、こんな女たらしのトコに置いてって大丈夫かねぇ」
「あ? あ、商業ギルドのギルドマスター」
さっきまで話していたおばあちゃんが、護衛を伴って工房まで来ていた。
「あたしは入っていいのかい?」
「そうだな。護衛の人も含めてどうぞ」
入り口の結界を解除して中に入って貰う。
「イド、お客様が来たってリアナに……」
「もう動いてるわ」
「そうか」
そういえば戻ってきた時に一瞬ドアから出て来てたような。
「ああ、ちょっと待っておくれ。そろそろ来るはずさね。あの子よ」
そう言っておばあちゃんが待っていると、一人のボサボサのだぼだぼな女性が登場。おお、グルグル眼鏡だ! 初めて見た。
おばあちゃんが手招きをしたので、頷いて敷地内に入ってきた。
「何よ。変なところに呼び出して」
「こいつさね」
「変わり者の錬金術師?」
「あら? 私は薬を作らないから錬金術師じゃないんじゃないの?」
「……こういう感じじゃ。仕事が認められないから拗ねておる」
「ああ、そうですか……」
「な、なによ? てかなんで鍛冶工房に呼ばれたわけ?」
「魔核が作れるって本当か?」
「魔核? って何よ?」
「魔道具の中心にある魔石や属性石を加工した物だ」
「は? 何言ってるの? あんなもの作れるわけないじゃない。私がやってるのは割れたり欠けた魔道具の魔力の源に合う魔石の選別よ。一応ヤスリで丸くしたりするけど」
これは、基礎から教えないとダメだな。
「ポーションとかは作れるか?」
「当たり前じゃない。てか何なのこの質問? 私も暇じゃないんだけど」
「なるほど。オレの作業を見せて、理解出来るかどうかだな」
鍛冶設備の近くに置いてあるテーブルに、魔法の手提げから携帯用の錬金窯を出す。
横に置くのはランプの魔道具だ。魔道具ではあるが、ダランベールでは珍しい物ではない。
「これが何かわかるか?」
「照明の魔道具ね。でも見た事の無い形だわ、ここのダンジョンの物じゃないわね」
「手作りだからな」
「はぁ?」
中央の光を放つ魔核を取り出す。
ハンカチをテーブルに敷いて、そこに魔核を置く。
「見てろ」
携帯錬金窯に、黄色の水溶液を入れて窯の魔核に魔力を込める。
そして、小さな魔石を1個取り出す。
その魔石をハンマーで砕いて、錬金窯に落とす。
更に別の魔石を取り出して、その魔石の形を錬金刀で丸く形を簡単に整える。
「何その小さなナイフ……堅い魔石を簡単に削れるなんて」
「ミスリル製だ。魔力を少し込めながら使うと、こうやって魔石を加工出来る」
形を整えたら、次はその石にハンカチの上に置いておいた魔核を横に並べる。
魔核に描かれていた光を放つ紋章、一応魔法陣の一種だ。それを丸くした魔石に写すように彫る。
「また……」
「分かりやすく彫っているけど、ここまで深く彫る必要はない。簡単なものだからね」
彫り終えると、先ほど水溶液で満たした窯にその丸い魔石を落として、専用の混ぜ棒で軽くかき混ぜる。
窯の中の水溶液が光輝いて、魔石に力が吸い込まれていく様が良く分かる。
水溶液の中の砕けた魔石がドロドロと溶けでて丸い魔石に吸収されていく。
しばらくかき混ぜると、黄色がかっていた水溶液が透明になっていく。
「これで完成っと」
別に熱を持つ加工ではないので、窯の中に手を突っ込んでその丸い魔石を……魔核を取り出した。
先ほどのランプに最初に入れた魔核を入れて光るのを確認すると、それを取り出し新しく作った魔核を入れる。
ゴクリ、と呼び出されたボサボサの女性が生唾を飲み込んだ。
当然、新しく作った魔核を入れても光る。
むしろ先ほどよりも強い光を放っている。
「これが魔核の作成だ。お前達の窯にも魔核があるだろ?」
「……私たちが使うのは、魔石の原石よ」
「そうか。その窯の魔石もちゃんと魔核にすれば効率よく錬金術が行使できるぞ」
「出来ても、ミスリルの短剣なんか持ってないわよ!」
「魔導炉があれば作れる」
「魔導炉なんて」
「あれだ」
オレが指さした先には魔導炉。
「…………」
「……………」
魔導炉、オレ、ミスリルの短剣、窯、ランプ、魔核。
忙しく視線を変える女性。
「で……」
「で?」
「弟子にしてくださいいいいいいいいい!!」
話が早くて楽だが、服を引っ張らないでくれ。
手持ちの錬金道具を持ってくると言ったボサボサ頭の女性、アーニャがおばあちゃんの護衛と一緒に工房から離れていく。
言葉遣いが一気に丁寧になってた。
外で人と話をする時は、周りを警戒して無理したしゃべりをしていたらしい。
その間にオレはもう一つの用事を片付ける事にする。
「なああんた。中入っていいぞ」
「儂か!? ええのか!」
初日から熱烈に視線を浴びせてきていたドワーフの青年だ。
「うん。オレ、これからさっきの人に色々と道具を作るのを教えないといけないんだ」
「ヌシ様は鍛冶以外も出来るんじゃな」
「まあ人の作れるものは時間と道具があれば誰でも何でも作れるさ。それでだ、そっちにかかりきりになっちゃうから、あんたにこの炉を任せる」
「なんと!?」
「オレがやるのではなく、あんたがやるってなると個別でしか金属加工は出来ない。魔鋼鉄で芯を作って、周りにコーティングする形でミスリルの刃を……」
「わかるぞ! やらせてくれ! やらせるのじゃ!」
声でけえ!
「こ、これは儂の爺の爺の代から引き継がれる魔剣や魔法剣の作成の手引書じゃ! 見てくれ!」
「どれ、ほう。ほうほう」
渡されたボロボロの紙を紐で縛っただけの物を見る。
確かに魔導炉の使い方と、魔法剣の作成手順が書かれていた。
「魔導炉を2つ用意して芯を作る人間と刃を渡らせる人間とで分けてたのか」
「そのようじゃ。ヌシ様は一人でそれをやっていた。正直驚いたぞい」
「個別でやるとなると、毎回中身を片付けなきゃならなくなるがいいか?」
「構わん! それも修行じゃわい!」
「そ、そうか。ここにある道具で出来そうか?」
「見てたから平気じゃ! と言いたいが、ハンマーはグリップを巻き直したいし、トングは儂の指でも挟めるものが良い。あと台も欲しいの。その椅子じゃ高さが合わん」
おお、道具にこだわりが持てる人だな。
「ハンマーか。こっちを使ってくれ。持ち手はこの皮を」
「炎竜のなめし革か! 良いのか!」
「ああ、これで好きに作ってくれ。魔力の補充方法は分かるか?」
「見て来る!」
「お、おう」
オレの手にあった先祖伝来っぽい雑多な本を奪うと、素早く炉の内側に回り込んだ。
ふんふんふむふむ聞こえてきた後、満足気な表情でこちらに顔を出す。
「道具も自分のを一部持ってきてよいか? ハンマーは使えるものがある。出来れば何種類か欲しい」
「構わないよ。なんなら自分に使いやすい道具も作ればいい」
「助かる! 持ってくる!」
ご近所なのだろう。すぐに来た。
「さて、何を作ればいいのじゃ」
「作れるものなら何でもいいよ。オレがやってたみたいに完成品はそこの地面に適当に並べてくれ」
「わかったぞ! じゃがヌシ様ほど早くは作れんぞ」
「分かってるよ。あれは錬金術師の領分だ。鍛冶師には無理だよ」
「むう残念じゃ。む、錬金術師?」
「使うのは魔鉱石と鉄、地鉄、磁鉄、ミスリルなどなど。そこの奥に積んでおくから適当に取り出して使っていい。無くなったら誰かメイド組に言ってくれ。ああ、水も置いておくから適度に飲むように。一応マナポも置いておくな」
「い、至れり尽くせりじゃ! まずは短剣辺りからやるかのう。型もあるし」
「頑張ってくれ。ああそうだ、あんた名前は? オレはライトロード」
「リックじゃ」
髭もじゃのドワーフだが、意外と可愛い名前も持っていた。
「そうか。リック、よろしく頼む」
「こちらこそ感謝じゃ! 爺の爺に顔向けがようやくできるわい!」
ドワーフの青年、リックは嬉しそうに自分の作業道具を並べていく。
野ざらしだけど、頑張ってくれ。
「さて、アーニャはこっちだな」
「はい! お師匠様!」
「お待ちください、マスター」
「ん?」
ボサボサ頭のアーニャが来て、おばあちゃんは護衛を連れて帰っていった。
流石に魔力を行使する錬金術を人にやらせるのに外は不味い。よその魔力と合わさって成功率がガクンと落ちるからだ。
「彼女、家に上げるのには相応しくありません。清めます」
「リアナ、毎回それよね……」
「必要な事ですから」
「えっと?」
「まあ錬金術師だ、綺麗にしといて損はないか。任せた」
「わかりました。アーニャ様、こちらです」
「は、はあ」
工房の奥、多分風呂場だな。に連れてかれるアーニャ。
ジェシカが扱いが違うと文句を言っているけど、君は奴隷だからね?




