おいてけぼりの鍛冶師⑤
「待て」
集団で移動だったからゆっくり動いていたのだが、先導していた男が手で制したので動きが止まる。
小声でその男が教えてくれる。
「守人達だ」
オレ達の通行を妨げる様に、多くの人間が展開している。
そして、オレ達が動きを止めるのに合わせて一人の男が前に出て来た。
「私は守人ギルドのクラビッツだ。この騒ぎはなんだ?」
冒険者の男がオレの顔を見てどうするかと問いかけて来る。
オレは一歩だけ前に出て、クラビッツと名乗る男に声を掛ける。
「オレはライトロード。外から来た錬金術師だ。商業ギルドにオークションの手続きを取りにいくところだ。何か問題が?」
「問題ならあるさ、これだけの人数を引き連れて、人々が不安に思うだろう? 我々守人はこの都市の防衛が仕事だ。人々の不安を取り除かなければならない」
「オークションに出品すると言ったはずだ、当然運ぶものも貴重品。護衛もつけずにそれらを運ぶなんてありえないだろう?」
「なれば我らが代わりに運ぼう。商業ギルドまで運べばいいんだろう?」
「都市の防衛があんたらの仕事だろう? 余計な仕事を任せる訳にはいかないよ。ここにこれだけの守人が集まってること自体がこの都市には損害だ。そもそも個人個人への護衛は冒険者の仕事だろ」
オレは男の冒険者に問いかけを行う。
ニヤリと笑い、守人の代表者に顔を向ける。
「そうだな。こっちの仕事だ。それともあんたらがすべての護衛依頼を受けてくれるのかい? 都市を守るプロが守ってくれるってなれば商人達は大喜びだろうさ」
その言葉にクラビッツが表情を厳しくする。
「では別の権限を発動させて貰おう」
クラビッツが手をあげると、何人かの守人が前に出る。
「これより、強制調査を開始する」
「調査かぁ」
都市防衛を担っている以上、そういう事もしていいんだな。
「不審なものを運んでいる形跡がある以上、我々はお前達の荷物を調べる権限がある。」
「まあ武器って不審だよなぁ」
しかも数が多い。
「検めさせて貰おうか」
「護衛の皆さん、あの人たちって守人で間違いないですか?」
「ん?」
オレは改めて冒険者の男に声を掛ける。
「守人の制服を着ているだけの不審人物じゃないですかね? オレ外から来たので判断出来ないんですけど」
「なんだと!?」
「ああ、確かに。名乗られただけで身分証も何も提示されてねぇなぁ」
「ここで偽物に調査されて、武器は危険だからって取り上げられたらオークションにも出せないもんなぁ」
もうちょい煽ってみる。
「そりゃぁ問題だなぁ。おう、ここで守人の身分証見せられても俺たちゃ真贋も分かんねぇ。守るしかねえぞ! 護衛対象を守らずして何が護衛だ」
「「「 おお!! 」」」
「都市の中でふんぞり返っている雑魚共が偉そうにしやがって!」
「冒険者にもなれねぇ根性なしをぶっつぶせ!」
「エイミーちゃんを守るんだ!」
「イドリアル様を守るんだ!」
「しおりの姉御を守るんだ!」
「リアナ様をお守り致しますっ!」
「君達ダンジョンで何してたの?」
特にこの場にいないのに守られる宣言されてるリアナ。
「えへへ」
「てへ」
「えーっと?」
後方や左右に展開していた冒険者達が前に出てきて守人達ににらみを利かせる。
「武器なんざ必要ねぇ! ぶん殴れ!」
「守人に反抗する気か! 取り押さえろ!」
「「「「 おおおおおおおおおおおおおおおおお!! 」」」」
お互いの叫び声と共に、土煙をあげ、男達が正面からぶつかり合う!
冒険者だけじゃなくて鍛冶師の人たちも混ざってるけどいいの?
「冒険者舐めんなぁぁぁ!」
「鍛冶師も舐めんなぁぁぁ!」
「祭りだぁぁぁぁ!」
「ぶちかませぇぇぇぇ!」
いいか。
「これ、どうやって通ろうか」
「無理じゃない?」
「全部投げ飛ばせばなんとか」
「どうしましょう……」
「……収まるのを待つしかないかな」
守人の代表っぽい声を上げてた人がこちらを睨んでいる。が、こっちの代表っぽかった冒険者の男にぶん殴られてる。
一応籠手とか外してあげてるんだね。優しい。
「お前ら! 道を作るぞ!」
「うおおおおおおおおお!」
流石に人数が守人より多いから何とかなりそう。
「やべぇ! 応援がきやがった!」
「ちぃ! こっちからもだ!」
「絶対通すな! 俺たちは壁だぁぁ!」
流石に収拾付かなくなりそうだ。
「エイミー、お願いしていい?」
「いいけど、どうすればいい?」
「取り合えずオレ達の認識阻害を。イド、風の障壁で囲んで。面倒だから吹き飛ばしながら移動しよう」
「ん、いい案」
荷台を中心に、イドに障壁を張って貰い、守人、冒険者、鍛冶師関係なしに吹き飛ばしながら移動することにする。
誰かが吹き飛ばされるたびにエイミーが不憫そうな視線を相手に向けているが、気にしたら負けである。
あ、ドワーフの青年が飛んだ。
大騒ぎを起こしつつも、無事に商業ギルドまで到着。
オークションへの出品の手続きを行った。
職員の皆さんは頬を引きつらせながら手続きを行って、当日のオークションの参加も許可された。
別段何かを買うつもりはないけど。
ギルドマスターのおばあちゃんが話をしたいと言ってきたので、その席に着いた。
「しかし長生きするもんさねぇ、魔導炉がこの街に出来るなんて。驚きだよ」
「そうなんですか? 他の領では古い魔導炉が残っていた時期もあると聞きましたけど」
炉の内部のひび割れと共に魔力回路が壊れてしまった物だ。魔力回路は部分的な補修は技術を必要とするから新しく作ってしまった方が楽なのである、まあその技術が無くなっていたけど。
「この街はまだ100年程度の歴史しかないからね。黒竜王の襲来から人々が落ち着きつつも、新しい生活に馴染めなかった人間が新しく出来たダンジョンの周りに集まって出来た街さね」
「ああ、なるほど」
それじゃあこの土地では、昔からの魔導炉っていう物自体がなかったのね。
「最初は村みたいなもんだったそうさ、まあこれはどこでも同じさね。そこからダンジョンの資源を使い徐々に大きくなっていった街。それがこのヘイルダムさ」
「なるほどね」
未だに拡張工事しているもんね。
「なんでもかんでもダンジョン任せで広がった街だからねぇ」
「随分と都合のいいダンジョンが出来たんですね」
ダンジョンの作成は確かディープ様の眷属達が関わってるはずだ。
「そうさね、少量だが魔法の武器や魔道具が産出されるから外からの侵略には対抗出来る。いや、出来たというべきか……外では魔導炉をめぐってゴタゴタが発生してるみたいさね。なんでも別大陸から来た人間が今いて、魔導炉の技術をこの大陸にもたらしてくれたそうな」
「へえ」
訝し気な視線をオレに向けておばあちゃんが更に言葉を重ねる。
「一部の領では以前の様に技術の失伝を防ぐために、大々的に公表するべきだって言ってるね。逆に一部の領では国で独占するべきだって。もたらされた領は今注目の的さね」
「耳がいいね。国はどうするつもりなんだろ」
「そっちは流石に結論を出すのに慎重のようさね。ただ技術の失伝もあるけど、今まで倒すのが困難だった魔物と戦えるようになるのは大きい。魔武器の作成は急務だと思っているだろうさ」
「まあ普通に考えればそうだよな」
「今だに黒竜王の眷属が生きていて縄張りを張っている土地があるからねぇ。そういう土地を人間の手に取り戻す事が出来ればこの大陸は一挙に盛り上がるだろうさ」
「なんか言ってることと表情が合ってないですね」
大陸の明るい未来、そんな雰囲気の話をしているのに、おばあちゃんの表情は暗い。
「……はあ、魔導炉の技術。いくらで売ってくれるんだい?」
「ため息つきながら聞かないでくださいよ。そもそも売買はオレ、出来ないよ」
「そんなもん関係ないさね……このままじゃこの街は外に飲み込まれちまうのさ。あたしゃこの街が自由都市と呼ばれるのが好きだからねぇ」
このおばあちゃんは外の状況を知った上で、きちんと状況が見えているんだね。
「じゃあ最初に魔法の武具が必要な人たちって誰だと思う?」
「そりゃあ守人だろうさ」
「実際に魔法の武器がオークションに出すけど、守人の人間に周ると思う?」
「金を持ってるのは冒険者と商人さ。守人には回らないだろうね」
おばあちゃんの表情は真剣だ。
「でも守人の手に優先的に回るのも問題があるさね」
「あ、やっぱり?」
「ああ、守人の中には街を守るには手段を選ぶ必要はないって考えの人間もやっぱりいるんさ。そういう連中に限って守人の中で力があるから厄介なのさ」
「今日会った連中がそういう連中かな? 名前……なんだっけか、調査されそうになった。ぶった切ってきたけど」
「物騒な事はやめてくれよ?」
「大丈夫、善意の護衛が助けてくれたから。怪我人は多少出たかもしれないけどね。街の人間同士で殺し合いにまでは発展しないでしょ。大通りだし」
「だといいんだけどね」
これから帰るのが大変そうだけど。
「魔導炉の普及はしてもいいよ」
「本当かい!?」
「でもここの人間の技術レベルが合うかどうかだな。基礎が出来ていないととてもじゃないが魔導炉なんて大物の作成が出来ない」
「そうなのかい?」
「ああ」
鍛冶師は何人かオレのやっている事を見て理解出来ている人がいた。つまりレベル的には問題なさそうだ。
冒険者達が中心の街だ。魔導士も問題ないだろう。
問題があるとすれば、錬金術師だ。
回復薬ばっか作ってる錬金術師しかいないとか訳わかんない事言ってた。
これは問題だ。
「腕のいい錬金術師、それが問題だな」
「錬金術師、あまり表に出てこない連中さね。でもマナポーションやハイポーションを作っているのなら何人か知っている」
「どうかな。錬金術でも魔道具の魔導核が作れないといけないんだ。魔物の素材から色々作れる奴に心当たりは?」
「……一人、いる。変わり者だが、ダンジョン産の魔道具の修理が出来る女が。あれも錬金術師を名乗っていたね」
「そいつの協力が無いと、魔導炉の作成技術の継承は難しいだろうな。まあ魔導炉の完成品をいくつか販売する形は出来るから、そこから頑張ってくれ。でも魔導炉があっても魔剣は出来ても魔法剣と呼ばれる類の物は作れないぞ? 鍛冶師じゃ魔核は作成できないだろうから」
まあ一部の才能がある人間なら作れるかもだが。
「……前向きに考えていいのかい?」
「魔導炉の技術の継承と拡大。それを約束してくれるのであれば」
「わかった。なんとかしてみるよ」
おばあちゃんがしっかりと頷いてくれる。
こういうお祭り騒ぎって書いてて楽しい




