おいてけぼりの鍛冶師④
「えへへ」
「あの、エイミーさん?」
「はぁい?」
オレの腕を取って、朝から離れないエイミーを栞とイドが睨んでおります。
リアナとセーナは親指立てて祝福してます。
イリーナ、お前はまだ分からなくていいからね? あ、親指一緒に立てた。
「ちょっと歩きにくいから、助けて貰ってるだけですー」
「ほんっとごめんなさい!」
「みっちー節操無しだね」
「わたしのせいだけど、ちょっと腹立つ」
そう言いながら反対側の腕を取らないで下さい。
「あたしの場所がない……」
「イリーナでも抱いててくれ」
「ていっ!」
後ろから乗りかかってきた。
「お、おい栞おも、ぐえ」
「羽の様に軽い!」
「そうっすね」
栞自体が軽くても体重掛けられたら重いに決まってます!
「んと、みんなくっついてるけど……」
「ダンジョン行こうよ!」
「え、オレも?」
「ん」
「デート……」
「デートかぁ」
そう言って窓の外を見る。
たくさんの冒険者がわらわらと魔法の杖で遊んでるのが見えてとても外に出られる状況じゃなくなっているけど。
あとすっごい睨まれてます。すっごい睨まれてます! 女の子囲ってるからね! 羨ましいか! うはははははははは!
結界内の地面に刺した魔法剣にも手を延ばそうと頑張ってる人いるし。
「あの騒ぎじゃ無理じゃないかなぁ」
「蹴散らす」
「ぶっとばすー!」
「で、でーと出来るなら……私も本気を……」
「やめてあげてっ!?」
幻術使いと侮るなかれ、エイミーが本気で幻術を掛けたらそこらじゅうで同士討ちが始まるのだ。
前にダンジョン内の100体以上もの魔物がひしめくモンスターハウスでエイミーがやってみるって言ったら凄惨な状況になったんだ。
なんでもお互いを人間に見える様にしたって言ってたけど、殺し合いをし食い合いをし、数分で瀕死の魔物が数体いるだけの状態に陥っていた。
素材の回収も出来なくなるし、見ていて気持ちの良い物ではなかったが、なんか嬉しそうに『出来ました』とか言われると褒めるしか出来なかった。
人間の五感どころか魔物特有の感覚器官や魔力を感知する器官などすべての知覚を惑わすことの出来るエイミーが本気を出すのはとっても危険なのである。
「今日も連中の前で鍛冶をするから、ダメ」
「今日で3日目だよね? どうするの?」
「適当に大量生産して、1本づつオークションにかける」
「大量生産? そんな事していいの?」
「周りの領が力をつける前に、この都市に根付かせるつもりなんだ。この都市の上層部って、見た感じこの都市以外に手を伸ばす気がなさそうだから」
守人ギルドに所属しているこの都市の防衛を担う人材が扱える程度の剣を用意しまくる気だ。流石に全員分じゃないけど。
ダンジョン産とは比較する事も出来ない程レベルが低い武器だが、普通の鉄や鋼鉄製の武器を超える物をだ。
ただでさえ外の領の方が人が多いから。
その上武器の質で負けたらこの都市はすぐにでも国に併合されてしまうだろう。
ただ単純に国に併合されるだけならいいが、その前に戦争になる可能性が高い。
負けるにしても圧倒的な敗北になれば、この都市自体が滅びかねないのだ。
外で気軽に魔導炉を公開したのはオレだが、結果としてこの都市を危険に晒している。
放置するのは寝覚めが悪い。
「随分、気前がいい」
「そこまでやって、この都市が停滞を選んだら知らないけどね」
しかし工房の外では冒険者達が大騒ぎしている。
何かしら変化が起きるはずだ。
外音を完全に遮断した結界の中に身を躍らせ、鍛冶場に向かう。
昨日と比べると注目度がすごいことになっている。
最前列には相変わらずのドワーフの青年。
家に帰ってないのかな? ボサボサだ。
「さて、やりますかね」
なんか守人の群れが来て外の冒険者達と騒いでいるけど、こっちに向かってなんか叫んでいるけど、気にせずに新しく剣を作る。
昨日の夜は火を落とさず、魔鋼鉄とミスリルを溶かして混ぜておいたままだからすぐに作業に入れるのだ。
普通だとそれぞれで打って魔鋼鉄にミスリルをコーティングする形を取るんだけど、まあいいよね。
「さて、そろそろ出かけるかな」
騒ぎを起こしている自覚もあるのでフル装備だ。
流石に籠手は付けないけど。
「あるじー、だいじょうぶ?」
「どうだろうねぇ」
「付いてく」
「ん、わたしも」
「わ、私も行きます!」
「あはは、ありがとう。じゃあイドは最後列、栞とセーナは荷台の左右でエイミーはオレの横ね」
オレの言葉に全員が頷いてくれる。
「じゃあ、とりあえず荷台に積もうか」
結界を張る為に設置しておいた世界樹製の柵の内側、そこには鞘も作らずに地面に突き刺した大量の剣、短剣、杖、槍。
ここ数日オレが頑張った結果だ。
スキルをフルに使えばこれの倍以上の数が打てるが、とりあえず初回はこんなものだろう。
見た目はオレの紋章を付けた以外、ほとんど飾り気がない。性能も普通の鉄や鋼鉄製の物と比べて丈夫だったり、切れ味がよかったり、熱を持ったりといった具合の低性能の物だ。
それらを1本づつ抜いて布で土を落とし、荷台に無造作に積み上げていく。
普段と違う姿に外の見学人にどよめきが起きる。
「指、気を付けてね」
「だいじょうぶー」
最後の剣を積むと、荷台の上に布を乗せてロープで縛る。
だっちょんを連れてきて、荷台にロープを回して馬具(鳥具?)に固定したら準備完了だ。
全員隊列を組む。イドは勿論人間仕様だ。
ここで結界の遮音機能を切る。
ざわざわと声が聞こえている。ここのところ、オレが声に反応をしない事が知れ渡っているからか、話しかけてくる感じが無いのが幸いだ。
注目は既に集めているが、オレは右手を上げて更に注目を集めてざわめきが収まるのを待つ。
皆さんが静かになるまで、5分以上時間がかかりましたとかいいたい。
「これから商業ギルドまで行き、オークションの手続きを取りに行く。出品物はこれらの武器だ」
「おお」
「まじか!」
「オークションか!!」
「そりゃすげえ! すぐに仲間に連絡をっ!」
ざわめきと歓声が入り混じる声が辺りを包み込む。
再びオレは右手を上げて、オレの声が通る様に周りが静かになるのを待つ。
「それ、いる? 声の拡張の魔道具使えば?」
「近所迷惑だろ」
「今更じゃないかな……」
イドと栞からのツッコミが厳しい。
「邪魔する気の無い者は道を開けてくれ。それと道中邪魔が入るようならばオークションにも出せなくなるだろう。善意の護衛がいれば心強い」
「任せろっ!」
「うっしゃあ!」
「道あけろ!」
「邪魔だてめえら!」
荒々しい冒険者達は、荷車が通れる様に場所を開けてくれる。
こいつら、イドとかがダンジョン行ってるの知ってるよな……。魔法の袋あるの気づけよ。
「ありがとう。それでは移動をする。そこの装備が豪華な人」
「あ? 俺か?」
「ああ、先導してくれ」
オレが指名した男の冒険者がニヤリと笑い、声を張った。
「いいぜ。わかった! 聞いたなお前ら! Aランクが前方と後方! Bランクは左右に展開だっ! ランク関係なしに斥候職は屋根の上からの妨害に警戒だ! 関係ねぇ奴らは気になるなら後ろについてこい!」
「「「 おおおお!! 」」」
適当に声をかけた人だったが、そこそこカリスマのある人だったようだ。
彼の声で冒険者らしい人たちが次々に動き出す。
「助かるよ」
「なあ、あんたあれだけの武器が作れるんだ。専用のも打てるんだろ?」
「勿論できるよ」
先導し始める前に聞いてくる。
「だよな! 今度頼みたいんだが!」
「悪いが外様の人間でね、商売が出来ないんだ」
オレの言葉に苦々しい表情をする冒険者の男。
「面倒なシステムだよな」
「ああ、まったくだ。糞が……だからオークションか」
オレの言葉に冒険者の男が毒づく。
その後は黙って大人しく商業ギルドまで先導してくれた。
そして先導される途中、新たな問題が発生する。




