おいてけぼりの鍛冶師②
「ほんと、気に食わないわ」
「戦闘自体は面白かった」
「ここでのダンジョンのルールなんでしょ? しょうがないよ」
不貞腐れいるのは我が家の大盗賊、栞さんである。
ジェシカの耐えられるレベルの深い層まで潜った栞達は、様々な魔物の素材を回収してきてくれたし、ポーションやマナポーション、解毒剤などの素材も多く回収してくれた。
しかし、そこで不満を持つのは栞である。
「ぜーんぶ持ってかれちゃったんだもん!」
「ダンジョン潜る前に取り決めがあったから……」
栞が文句を言っていたのは、栞が自身の嗅覚で見つけた隠し部屋などのお宝である。
ダンジョン内で見つけたお宝は、普通のダンジョンでは冒険者の懐に入る物だが、この都市のルールは違う。
一度冒険者組合に提出をし、鑑定士に調べて貰わなければならないのだ。そして品物の大半はそこで買い叩かれてしまうらしい。
強力な結界魔法と、真偽を見抜く神聖魔法がダンジョンの入り口を覆う建物にかけられている為、普通であればそれを掻い潜るのは不可能である。
たぶん、エイミーが本気を出せば欺けるだろうが、エイミーがそれを良しとしなかったようだ。
「結局何を見つけたの?」
「魔法の短剣と、容量の小さい魔法の袋、それと魔法防御の高い盾と、良く分かんない羽のアクセサリー」
「羽のアクセサリーか」
「そう! 可愛かったのに!」
「ま、まあ落ち着けって、似たようなの作ってあげるから……」
「ホント!? 絶対だよ! このお金使っていいから!」
ドン! と金貨の詰まった革袋を机の上に乗せる栞。
「このお金は?」
「鑑定士がアイテムに付けた査定のお金だよ。神聖魔法がかかってるところだから嘘を言えないと思うけど、一応あたしも相手に確認したから正規のお値段が入ってる、らしい」
なるほど。隠し部屋のアイテムはギルド側で精算するシステムか。
「正直、ちょっと切れ味が良い程度の短剣に付く金額じゃないと思うわ」
「それだけ魔法の武具の価値が、こっちじゃ高いんだろ」
「ライトなら3分くらいで作れそうなものばっかりだったわ」
「そりゃ言い過ぎだろ」
「そうでも、ないかな?」
「マジで?」
「「「 マジで 」」」
栞とエイミーとイドが声を揃えて言う。
「いやいやいや、あんなもんですって! むしろ栞様の交渉エグかったんすから!」
「物品の値段だけで買い取られるところだったからね。安すぎて文句言うところだった。元の場所に戻してくるって言ったら値段乗せてくれたよ」
「どんだけ見つかりにくい場所にあったんだよ」
「栞ちゃん、すごいから」
「ふふーん、あ……」
胸を張るでない。
そしてエイミーの胸を見て凹むんじゃありません。
「でも、実際レベル低いよね。ここの冒険者。マジでダランベールに攻められたらあっさり陥落しそう」
「フリードリヒ陛下やシャル王子にその気がないのが幸いだな」
「イドっちだけで堕とせそう」
「ぶい」
「堕とすな堕とすな」
後が面倒だ。
「そんで、ジェシカはどうだった?」
「おお! 聞くっすか!? 自分の活躍をっ!」
「しょぼい」
「びみょー」
「が、頑張ってた、よ?」
「とてもマスターの守護を任せられる腕はありませんでした」
「エイミー様の優しさが染み渡るっす」
「まあドンマイだな。それで、どういう装備が合うと思う?」
その辺の目はイドが一番信頼できる。栞もエイミーも戦う事は出来るが、イドの様に戦いの専門家と言う訳ではないからだ。
「恐らく、騎士に似た戦いが一番合っていると思う。と言うかそういう指導を受けて来てたんだと思う」
「ふえ? そうなんすか?」
お前の事だろうが。
「ジェシカに指導をした人間が、そういう方向性に持って行ったんだと思う。いずれは兵士から騎士に取り立ててもらうつもりだったんじゃない?」
「ああ、それはあるかもしれないな」
ジェシカは元は貴族だ。そして騎士は貴族や貴族の血族が付く仕事だ。恐らくこの大陸でもそれは変わらないんだろう。
「確かに、隊長に何人か個人指導を受けてたっす。自分と同じように奴隷兵の中で」
「イドが言うんだ。間違いないだろう、そうなると……」
「指導は無理」
「そうかぁ」
「でも基礎は出来ている。あとは装備と、心構え」
「装備はどうとでもなるけど」
「そこでどうとでもなるって言うのがすごいっすよね」
じーっとジェシカを見つめる。緑色の髪の毛が栄える装備にしてやるか。ゲームの戦乙女みたいな感じにするか。
いっそフルプレート? や、見た感じパワー型じゃないから動きの阻害をさせるのは不味いかな。
「えと、なんすか。恥ずかしいっすけど」
「よし、向こうの工房に行こうか」
「え? え?」
「マスター、まず綺麗にしてからにしてください。全員ダンジョン帰りなんですから」
「そうだそうだー! 風呂はいらせろー!」
「そ、そうだね。なんだかんだ言って汗かいたし……」
「お風呂、いい」
「最近イドが一番お風呂気に入ってる気がする」
「……一緒に、入る?」
「や、流石に不味いっす」
「風呂だー!!」
「おあ、栞担ぐな!」
「栞ちゃん!?」
「そうですね、たまにはマスターにご奉仕したいですし」
「リアナさん!?」
「3対1」
「オレの意見入れようよ!?」
「ジェシカの裸を見ればよりいい装備が作れるんじゃない?」
「セーナさん!?」
「4対1」
「ふ、ふたりとも! だ、だめだって!」
「却下」
「イドさんっ!」
「エイミーもジェシカも覚悟を決める」
「自分もっすか!? ちょ、抱えないで欲しいっす!」
「私も!?」
「エイちゃんいかないの?」
「えるふぱわー」
この後、イリーナも加わり何故か全員で風呂に入る事に。
自分、ずっと目を瞑ってましたよ?
ホントっすよ!?
【補足】
管理されている迷宮での拾得物は、税として一部が徴収される仕組みになっています。
別口で魔道具や魔法武器といった魔導炉が無いと再現できない一部の道具は、冒険者ギルドで一括購入をおこなっています。
これらは冒険者ギルドで一度性能を解析し、より上位で信用できる冒険者ギルド所属の人間に渡してダンジョンの魔物の討伐に使われたり
街中で使われたりすると危険な魔道具を外に出さない様にするための処置です。
そしてその処置に極力不満がでないように、ショボい魔道具にも高額の金額がつけられて買取され、その金額に税はかからないシステムとなっております。




