絡まれるイドリアル
わたしの名前はイドリアル。
エルフの出稼ぎ組よ。
エルフっていうのは世界樹を守る一族の事。
人間と違い耳が尖っているのが特徴ね。あとは違いは、力とか魔力が少し高いくらい。
「っと」
そんなわたしは今、人間を一人投げ飛ばしたとこ。
あ、二人の方にいっちゃった。思わず目を向けるが、後ろのエイミーとリアナはうまくしゃがんで避けてくれてた。
良かった。
笑って手を振ってくれてる。
「まだやる? そっちも武器出してるし、こっちも武器だすよ?」
しおりが腰に付けている短剣を叩きながらこちらを睨みつけている男性に忠告をしている。
「じょ、嬢ちゃん方、そういうつもりはないんだ。俺達はあの鍛冶師の男が何をやってるのか知りたいだけで」
「何してるんだろうね?」
「知らねえのか! お前ら、あいつの女だろ!?」
「あいつのだなんて、そんな」
エイミー、顔を赤くするポイントが違わないかしら?
「ライトが何をするつもりなのかは、知らない。何をしたいかはなんとなく分かるけど」
「お、教えてくれ!」
「ダメ」
「なんでだよ!?」
「ライトが言っていいって言わないから」
「あ、そうだね。そういえば聞いてないや」
「確かに、道長くんが良いって言わないと私達も何も言えないよね……」
「マスターには深いお考えがあるはずです」
リアナ、深くはないと思うわ。
「そういう事だから、ダメ」
「っざけやがって……じゃあお前らを質にとってあいつをあの工房から……」
「あ、そういう事言い出しちゃう?」
「あ、や。その」
「ん、鍛冶師を自称するには大胆。実は盗賊?」
「そういう事なら加減はいらないよね?」
「そうね」
悪党は倒すとお財布がもらえるから嫌いじゃないわ。
「あの、あのお二人すごく強いっすね」
「イドさんは知っての通りだけど、栞ちゃんもイドさんと並びたてるくらい強いから」
「そのお二人を相手に勝利できるのがエイミー様でございます」
「そうなんすか!?」
「ジェシカちゃん、いっつも驚いてるよね。気持ちはわかるけど」
「ライト様に貰われてから驚きの連続っす。ライト様やイリーナちゃんはやべぇとこ見ましたけど、お二人以上っすか……」
「私はそんなんじゃないよ……戦闘向きじゃないし」
「ご謙遜を」
「えと、じゃあリアナさんも?」
「リアナは戦闘補助の能力しかありませんよ。力も普通の人間より少し強い程度ですから」
「ほんとっすか?」
後ろで盛り上がっているのがなんかズルい。
なんでわたしとしおりでこんな弱者の相手をしなければならないのか。
エイミーに強い幻術を掛けて貰ってから出れば良かったわ。失敗ね。
「で、どうするの? 道、開けてくれない? 開けてくれないなら、武器使うよ?」
「そうね、面倒。自発的に道を開けたくしてあげようかしら」
しおりが言う通り、わたしも武器に手をかける。
ほんの少しだけ威圧を混ぜるだけで、集まっていた何人かが道を開けてくれる。
「おいおい、こりゃなんの騒ぎだ?」
そこにまた、新しい男が来た。
冒険者かな。中の上くらいありそう。
「デューイさん」
「おめえら、こんな女の子を囲んでなにやってるんだよ。この街はいつから強盗の街になったんだ?」
「い、いや。俺達は話を聞きたかっただけで」
「それにしちゃナンパ下手すぎだろ? まずは自己紹介から始めろよ。お茶に誘ってゆっくり距離感を縮めるもんだぞ」
「「 ありえないわ 」」
思わず声が揃ってしまった。
しおりと顔を見合わせてしまう。
「ああ、俺も脈無しか……まあいいや。あんたら、すまなかったな。こいつらこう見えてまともな仕事についてる職人だ。すまなかった、相手の実力が分からない連中なんだ。殺さないでくれ」
「わたし達は迷宮に行きたいだけ。邪魔をしなければ、何もするつもりはないわ」
「でも喧嘩だよ売ってきたのそっちだよ?」
「舐められっぱなしでは引けない」
「わかった、わかった」
デューイと呼ばれた男が、わたし達に頭を下げた。
「俺の頭で勘弁してくれ」
「……首を差し出すってこと?」
「こわっ!? イドっち怖いよ!?」
「冗談、いらないわ。荷物になるもの」
この男の価値が分からないけど、周りが一目置いてるからまあ良しとしとする事にするわ。
それにこれから狩りなのに首とか装備とか剥いでも邪魔になるもの、
男の肩を叩いて、わたし達は彼らを置き去りにして迷宮に向かう事にする。
「あ、イド様とエイミー様は先に冒険者登録しないとダンジョンには入れないっすよ!」
「先に言いなさい」
「いひゃいでふ!」
結構伸びるわね。
イドも流石に街中で殺人を犯す気は(あんまり)なかったらしいです。




