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自由都市の錬金術師⑥

「まずは、魔導炉の中に火をくべて……魔力回路を走らせるっと」


 久しぶりの鍛冶仕事にテンションの上がるオレである。

 今日は昨日作成した魔導炉の試運転と金床の作成だ。

 せっかくだから金床も魔鋼鉄製ではなく、火竜。こっちじゃ炎竜か、の骨も混ぜ込んで熱に強く変形しにくい物を作ろう。


「そんじゃ、温まるまでに金床の型でも作るかな」


 型といっても魔鋼鉄と炎竜の骨を溶解させたものだ。普通の土の型ではダメになってしまう。

 そこで使うのは粘土人形(クレイマン)というゴーレム系のモンスターの一種だ。クレイマンのボディの一部を普通の粘土と同じように扱えるが、普通の粘土よりも火に強く、乾燥させてもヒビが入りにくい。

 ただ、流石に長時間熱して溶けた鉄の塊を押し付けられたらヒビが入ったり割れてしまったりするので青の水溶液を混ぜ込んで練り直し、火に強い物に作り変える。


「あの、ライト様」

「んー?」

「すっごい注目集めてるっすけど」

「気にしない気にしない」


 柱で囲われて屋根だけ乗っている、壁の無い状態に炉を置いて鍛冶仕事をしているんだ。そりゃあ注目されるだろう。

 実際にさっきから視線を感じる。

 しかもまだ準備段階。炉しかなく、オレ自身は粘土遊び中だ。


「ライト様がいいならいいっすけど、なんか向こうの人しゃべってる様に見えるっすけど……」

「防音結界だね。外の音が聞こえないようになってるんだ。これでよしっと」


 魔法の手提げから普通の金床を取り出して、粘土で型を作っていく。つなぎ目が無い様に一つにして作るのがコツである。

 中に鉄を流し込める様に下に穴を開けるのがポイントだ。


「金床囲っちゃいましたっすね」

「そうだね。でも下に穴を開けてあるから魔法の袋を使うと」

「中身だけ消えたっす!」

「便利でしょ」


 魔法の袋の便利なところだ。通常であれば中の金床を取り出す為に半分にしたりしないといけないのだが、こういう裏技を使えば問題ない。

 ついでにインゴットを作る為の枠もいくつか作成しておく。


「金床の枠を軽く火であぶってー」


 それらの枠を無造作に炉の中に投げ込む。軽く火に当てておけば、堅くなるのである。


 そこで待ってるのもなんなので、飲み物を持ってきたジェシカが立っていたのでそのまま目を向ける。


「えと、ライト様? そんな見つめられると恥ずかしいっすけど」

「うっさい」

「なんか扱い悪くないっすか?」


 無視である。

 余った粘土を使って伸ばし、形を整えていく。彫刻刀を取り出して余分な部分をはがして成形していくと。


「出来た、はい」

「うわぁ、すごいっすね! これ自分っすか! ライト様超器用っす!」

「そりゃあねぇ」


 粘土で作ったのは手のひらに乗る程度のサイズのメイド姿のジェシカだ。


「改めて見ると、すっごい綺麗な服を着せてもらってるんすね」

「リアナに感謝だな。その制服はリアナが縫ってくれてるから」


 布を作ったり染めたりしたのはオレだけど。


「リアナさんもすごいっすね……自分、今更ながらトンデモナイところに貰われた気がしてきたっす」

「まあ普通の人間なら一日で家を更地にしたり新しい家をすぐに作ったり、瞬間移動出来る機能の付いた馬車だったりを持ってたりしないからね」


 その辺の常識が違うのはオレも自覚しているのである。


 オレ達がダベり始めたのを見て、興味本位でこちらを覗いていた人間が徐々に減っていった。

 残っているのはドワーフの青年がジェシカ人形に熱い視線を送っているが無視である。


「あの、ライト様」

「んー?」

「自分、もう少し胸でっかくないっすか? それとクビレももうちょい」

「確かに、スカートももうちょい短かったか」

「……申し訳なかったっす」

「正直でよろしい」


 飲み物を貰い、ジェシカにも椅子を勧めて炉の熱が最高温度になるのを待った。






「さて、そろそろいいな」


 厚手の手袋をはめて、鉄鍬を使い枠をまず取り出す。

 自然に熱が下がるのを待った方がいいので、これは炉から離れた場所に置いておく。


「触るなよ? 火傷するからな」

「了解っす」


 流石に暑いので上着を脱ぎ、タンクトップ姿での作業だ。

 もちろんベルトインだ。

 耐熱仕様のシャツもあるけどコゲ目がついたりするのでタンクトップ。ちなみにコゲ目が付くとリアナが笑顔でワッペンを付けて来る。可愛いのを。そんなの着れない。


 炉の中の魔力回路が走っているのは確認出来たので、熱が落ちても問題ない。

 炉のサイド部分についている放出口に栓をして、放出口の手前に炎竜の骨を、奥に魔鋼鉄の原石、更に奥にミスリルの小さな原石をセッティングする。

 普通の鍛冶師の場合はそれぞれ独立して溶かして形を作って、コーティングするように鍛冶を行うのだが、オレは錬金術師である。

 炉の中の魔力回路がオレ専用の物になっている上に、合金を作れるように手前側に魔法陣を仕込んであるのでまとめてやるのである。


「ライト様、今度は何してるんすか?」

「さっき作った金床の型に流し込むから、溶かさないといけないんだ」


 耐熱の器も準備しているので、流出口から取り出した溶けた金属を受け取る準備も万端だ。


「とはいっても、すぐに溶ける訳じゃないんすよね?」

「すぐに溶かす事も出来るけど、今日はやらないかな」


 旧港町の工房でなら、それこそすぐに出来るのだ。

 なんなら窯でも溶かせる。風情がないけど。


「ほへー、それセットしてるのって……」

「魔鉱石」

「はい?」


 ジェシカが目を丸くしている。


「これ魔導炉だからね」

「ままままま!?」


 驚いてる驚いてる。


「え? でも、だってそれ。昔のドワーフ達の秘術の一つだったらしいじゃないっすか!? しかもそのドワーフ達の里が破壊されて、それで、それで」

「落ち着きなさい。ほら、お茶飲んで」

「ぐびぐび……」


 素直な子である。


「言ったでしょ? オレ、別の大陸の人間だって。向こうの大陸でも魔導炉の作成はドワーフが主にやっていたけど、人間でも作れるんだよ」

「ええー? いくらライト様でもそれは嘘っすよね? 自分騙されないっすよ~? だいたいその炉、元々この家にあった物じゃないっすか」

「ああ、ばれた?」


 オレもお茶を一口飲む。うん、冷たくて美味しい。


「やっぱ冗談っすか~、もう一瞬ライト様ならって思っちゃったじゃないっすか」

「そうだなぁ」


 おもむろに立って魔導炉の魔核部分の裏手側に手を置いて魔力を込める。

 外側でもこの部分は厚めに作っているので、熱はこちらまで来ない。

 オレの魔力に反応して魔導炉の中の炎と熱が魔力を帯び、うねり初めて轟音を放つ。

 空気の投入口から火の粉が少しだけ飛んできている。


「ジェシカ、空気送って」

「はえ?」

「そのふいごで風を送るの。それを踏み続けて」

「了解っす! いかにも奴隷にやらせる仕事っすね!」

「何で楽しそうなんだ? まあいいや。それ魔道具だから魔力込めながらやってね」

「うい!? こんなのも魔道具あるんすか!?」

「その方が何かと便利だから」

「やってみるっす!」


 ジェシカが足から魔力を込める事を意識して、踏み込む。


「意外と、魔力使うっすね」

「ああ、変なタイミングで止めると風戻ってくるから気を付けろよ」

「え? なんすか?」


 瞬間、風が逆流してくる。お約束である。


「あつっ! あつっ! 酷いっす!」

「パンツ見えるぞ」

「うひゃあ!」


 慌ててスカートを抑えるジェシカ。大丈夫ギリギリセーフだよ。

 声は聞こえない物の、少数残っていたギャラリーから感嘆の声が上がった気がする。


「ほら、リアナに手当して貰ってこい」

「うう。ライト様の作業を手伝える服が何かないかも聞いてくるっす……」

「ついでにお茶のお替りも頼む」

「了解っす……」


 足を一通り撫でた後、肩を落としてジェシカが家に戻っていった。

 なんか聞こえた後、入れ替わりでツナギを着たイリーナが出て来たので説教が始まったのであろう。






 魔鋼鉄とミスリルと炎竜の骨、それぞれが完全に溶けて来たので炉の中のセットしておいた魔法陣を使い綺麗に混ぜる。

 熱され、液化したそれらが均等に混ざるのを魔法陣を介して確認したので、放出口の栓を開けてそれらを器に流し込む。

 器には長い持ち手が付いているので、そこまで熱くない。まあズボンもシャツも耐熱仕様だから火傷の心配は無いが。


 放出口の栓の横にイリーナが立って準備OKとばかりに頷いたので、オレは合図をする。

 栓の上についたレバーをイリーナが下すと、放出口からダバダバと液化した魔鋼鉄の合金が流れ出て来る。

 それらを器で受け取り、手早く下に準備しておいた枠に流し込んでいく。

 器を動かす度にイリーナがレバーを上げて栓を閉めるので、流れっぱなしになる事は無い。


「とととととと……」


 まず金床の枠に流し込み、余った分はインゴットの枠に流し込む。

 勿体ないからね。

 インゴットも別に誰しもが想像するような長方形である必要は、実はない。

 ただ再度加工する時に楽だからすべて長方形である。

 あとイメージの問題だ。

 この辺りは魔法で誤魔化さずに手作業だ。

 マスタービルダーとしてのスキルを使いながら作業をすれば造形ももっと綺麗になるし、合金の合成純度も高くなるが、今回はそこまでする必要はない。

 まあ溶かす時間とか、そういうのは魔力でゴリ押ししているから本来の半分の時間で済ませているけど。


「イリーナ、もう大丈夫」

「はいです!」


 汗も流れないので、イリーナは綺麗なものだ。


「出来たです?」

「冷えるのを待たないとだな」


 オレはその間に、柵の仕掛けの部分に小さな木棚を設置した。

 これは中の物を持ち出せない様に防御の魔法がかかっている。もちろんこの木棚には柵と同じように結界魔法がかかっているので普通の人間には動かせない。

 それらが分かる様に一応看板も設置をしておく。文字が読めない人間もいるが、そこまでは面倒を見きれない。


 棚の後ろ側がスライドドアになっているので、そこに冷えたインゴットを置いておく。

 朝の作業からずっとこの場を動かずにこちらを眺めていたドワーフの青年がオレに視線を向けたので、笑顔を返す。

 スライドドア越しなら声が届くので開けておく。


 ドワーフの青年は、そのインゴットを手に取って目を見開いた。

 オレはその表情に満足。


「おい、待て! 待ってくれ! これは魔鋼鉄のインゴットだろ!」


 青年の叫び声に、周りを歩いていた通行人が目を見開き集まってくる。


「いや、それは魔鋼鉄とミスリル、それと炎竜の骨の合金だ。魔鋼鉄のインゴットという訳ではないぞ」

「合金だと!?」

「魔鋼鉄だけだと、単純に魔力の通りのいいだけの重い金属だからな。同じく魔力の通りやすいミスリル、それと熱した魔鋼鉄を叩きつけても簡単に変形しないように炎竜の骨を使っている。今回は金床を作るのが目的だったからな」

「金床……」

「魔導炉で扱う金床も、ハンマーも普通の物じゃだめだからな。流石にハンマーを1から作るのは面倒だから元々持っているものを使うが、金床を作るのを見るのも勉強だろ? 書いてある通り、そこの棚からはインゴットは出せないが存分に見てくれ。多少なら魔力を流してみてもいいぞ」

「なんと……本当に、本当に魔導炉なのか」

「いやいや、いくらなんでも嘘だろう?」

「儂は朝からこやつの作業をずっとみとったんじゃ! 間違いない!」

「いや、お前が間違いないって言っても魔導炉の現物が稼働しているの見た事あるのか? この都市には一つもないのに」

「うぐっ」

「人から見える位置で鍛冶なんかしている阿呆がいると思ったが、見ている人間も阿呆だったみたいだな」

「ははは」


 この辺りには鍛冶職人が集まっている地区だ。こいつらもガタイから見て、鍛冶を生業にしているように見えるが、流石に普通の人間でかつ、目の肥えてない鍛冶職人にはオレの作ったものがなんなのか判別出来ないのだろう。


 ふふふ、優越感優越感。


「明日から本格的に武器の作成に入る、暇があるなら見に来てくれ」

「もちろんじゃ! 明日も見ててよいのか!?」

「今のところ壁を作るつもりはないよ。今日と同じく音は遮断するけどね。うるさいから」

「むう、明日は叩きもするんじゃろうな!?」

「金床が出来たからね」

「ズルい! ズルいのじゃぁ!」

「んじゃお休み」


 棚裏の引き戸を閉めて声も遮断する。

 さて、明日以降はどうなるかな。

ジェシカはあほの子じゃないっすよ!

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こんな作品を書いてます。買ってね~
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
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