自由都市の錬金術師②
双葉社様Mノベルスより2021/12/27発売です!
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宿に戻り、馬車を宿の丁稚に預けておく。
物が物だから一応防御の結界も張っておくけど。
「では、整えて参りますね」
「えっと、お手柔らかにお願いするっす」
ジェシカはリアナに連れられて馬車の中の転移門を使い、イド達がいる旧港町に連れていかれた。
ジェシカ自身に説明されていないが、大丈夫だろうか?
「とりあえず、だ。オレ達は買い物でもいくか」
「買い物! いいね! エイちゃんに声掛けて来ていい?」
「知らん土地だが大丈夫か?」
てか無人の馬車からそんなに人が出入りしていいのか?
「ああ、そっかぁ」
「この辺の治安状況とかまだ分からないからな。安全かどうかをきちんと調べてからの方がいいだろ」
まあ一番危険なのは一番弱いオレだけど。
「じゃああたしとイリーナとみっちーでお出かけだね」
「いちおう、リアねぇにつたえてくる」
「ああ、そうだな。戻って来ていなかったらリアナが騒ぐな」
「あ、イリーナ。ついでにさ……」
そういう話を通しておくのは大事だ。
「市場とかやってるかな? 普通は朝だろうが」
「ダンジョン見たい!」
「ああ、街の中にあるんだっけ。氾濫とか考えるとすごい考えだよな」
「すごいよね、怖い物知らずって感じ」
ダンジョンの中には魔物がいる。基本的に階層をまたぐような事はしないが、ダンジョン内の魔物の数が一定量を超えると階層内の大移動が始まるのだ。
そして、そうやって階層をまたいで移動する魔物が最終的に行きつくのは、ダンジョンの外である。
そんな魔物を吐き出すかもしれないダンジョンを街に組み込むのは正直言って驚きである。
「まあ外に置いとくと他所の領、元々は国か。に、併合されちゃうところだったって話だからな」
自由都市が自由都市であるために、ダンジョンを街の中に組み込むのは必須だったらしい。ジェシカが軽く教えてくれた。
確かにダンジョン資源というのは、一つの都市を潤すには十分なものである。
むしろ過剰な程だ。
「さて、とりあえず古くからある商店から見て回るかな」
このダンジョンでしか出ないお宝で、加工が必要な物などが雑多に眠っているお店があるはずだ。
この宿の主人と思しきおじいさんに紹介して貰ったお店をいくつか周るつもりである。
くくく、魔導炉でしか加工出来ないお宝がいくつ眠っていることやら。
多少は処分されてしまっているだろうが、いくつかは確保できるはずである。
「さて、楽しい楽しいお買い物の時間の始まりだ」
「ねえねえみっちー」
「何?」
「買った品物、その場で魔法の袋に入れるの? あんまり見られるのは危ないってジェシカ言ってたけど」
「ああ、そう言えばそうだったな。ここまで持ってきて支払って貰うようにしておくか」
主人に話を通しておいて、ついでにお金も預けておけばいいか? それともリアナ達を待った方がいいか……あー、あれだな待ってた方がいい気がしてきたな。
「リアナにお金を預けてここで待ってて貰うか……」
「うん。その方がいいと思う。絶対に」
お金の管理はリアナに任せるのが一番だからね。
「とは言っても、散財したら怒られるだろうが」
「だね!」
栞もオレと同じく、お金にあまり執着がないのである。必要な物はオレが渡しているし、それらの素材も栞とイドが獲ってくるから栞の方がお金に頓着しないかもしれない。
「ねえねえ、ここでも魔導炉の講習するんでしょ?」
「え?」
装備を外してラフな格好でくつろいでいたが、そろそろ出かけようかなと思った。そんな時に栞が言う。
なんでわかったの?
「だって、そういうの好きじゃないんでしょ? そもそも魔導炉の技術の失伝自体にいい顔してなかったじゃん」
「それはそうだけどさー」
「ウルクス領主からシルドニア皇国に技術が渡って、その技術の差でここみたいな自由都市が武器の差で領兵や国軍に侵略されるの嫌だもんね」
うっ。鋭い。
「そうだ! どうせならここでもお店やろうよ!」
「え? でも……」
「どうせ100年も150年も誰も到達していない旧王都に行くんだもの。ここで人間の戦力を増強させてもいいんじゃん?」
「んー、でもそれはこの自由都市に肩入れしすぎな気が」
「どっちにしても魔導炉の技術の流通は始まるでしょ? それはもうみっちーにも止められないよ? それが一部の領の秘匿技術になるか、シルドニア皇国の独占技術になるかはみっちーじゃどうしよもない事だし」
「それもそうなんだが……」
意外と賢い意見をだしおる。
「みっちー」
宿の室内で、栞がオレの手を取った。そしてオレの目をしっかり見て言う。
「あたし達はね、確かに日本に帰りたいと思っているよ? でも帰れるチャンスが出来たのはみっちーのおかげ。あたしたちは死んでたんだから」
「……ああ」
「あたしも、エイちゃんも、すごいみっちーに感謝してるんだよ? 危険を冒してまであたし達を迎えにきてくれた時、すっごい嬉しかったし。ああ、こっちの世界にもあたし達をちゃんと見てくれてる人がまだいたんだって安心もしたんだ」
「そう、かな」
「うん。でもさ、ダランベールで手がかりが見つからないってなった時から、みっちー焦りすぎだよ。あたし達は日本に確かに帰りたいと思ってるけど、ここでね、みっちーと一緒にエイちゃんやリアナ達がお店をして、イドっちやイリーナと冒険行って。そういうのも楽しいんだよ?」
確かに冒険にイドと行った後、これでもかという程冒険譚を語りたがるのは栞だ。
「それにね、偶にみっちーが一緒に行ってくれて。心配されたり、逆に心配したり、そういうの、すっごい良いんだ。こう、幸せだなって……そう感じるんだ」
オレの手を強く握ると、にっこりとほほ笑む。
「あのね、あたしは今、自分の好きな事を出来て。自分の好きな人たちといれて、あたしの事を好きになってくれてる人といて、幸せなんだ。だからさ、みっちーもやりたい事やりなよ。こっちの大陸に来る前とかさ、来てからとかさ、ダランベールの王族と交渉したり、シルドニア皇国の皇女様と交渉したり、区長さんと交渉したり。なんからしくないよ、そう言うのは全部とっきーの仕事だったじゃん」
「まあ、いないから……」
「こっちの王族の事はイドっちに任せればいいじゃん、イドっち崇拝されてるんだもん。台本かなんか持たせてしゃべらせればそれで万事解決だよ!」
「や、それはそれでイドが嫌がりそうだが……」
「大丈夫だよ! みっちーのお願いなら聞いてくれるもん! それで、夜に可愛がってあげればいいじゃん!」
「あー……」
「一緒に住んでるのに知らないと思ってた? そもそもイドっち、自慢してくるもん。わたしだけ愛されてるって」
「えー……」
何それ恥ずかしい。
顔を両手で隠したくなります。隠します。
「みっちー、いい男なんだから。もっと自分の好きにやりなよ! 向こうに戻るにしても、もう少し回り道でいいよ。エイちゃんもイドっちもあたしも、厳しい顔をしているみっちー見たくないもん。あたしたちが苦しそうな表情見たい?」
「見たくないに決まってるだろ……」
「あたし達も一緒、我慢してるみっちーを見たくない。みっちーは交渉より脅迫のが似合うよ!」
「おい」
「にはは。だからね、みっちーのやりたいようにやりなよ。あたしは、あたし達はそれに付き合ってあげるから」
「お、おう」
「その代り、あたし達がやりたい事に付き合ってね?」
「それは勿論だ」
「ほんと?」
「ああ」
「にひひ、そっかぁ。付き合ってくれるかぁ」
「おう。犯罪とかはダメだけどな」
「しないよ! でも、そうだね。じゃあ、早速お願いがあります」
「なんですか?」
嫌な予感がするんですけど。
「ちょっと、後ろ向いて目を瞑って! 着替えるから」
「は? や、別の部屋いくよ」
紹介された宿は、高級宿だ。いくつも部屋がある。
「いーからいーから」
ぐるん、と肩を回されたのでそのまま目を瞑る。
ごそごそと後ろから衣擦れの音が聞こえる。なんかエロいんですけど。栞のくせに。
「いいよ」
「はいはい、あ? おい!」
そこにいたのは、服をすべて脱ぎ捨てた、生まれたままの姿の栞だった。
流石に胸と、下の大事な部分は手で隠している。
「ていっ!」
「こらっ!」
勢いよく飛びついてくると、いきなり、キスを。しかも普段のように冗談でほっぺにではなく、口づけをしてきた。
「ん……」
「ぷふっ」
慌てて首を下げると、そこには蕩けた表情の栞。
「しちゃった」
「おい」
泣いてるじゃないか。
「や、これは違うよ! なんていうか、違うよ! その、嬉しくて、うん」
「だからって……」
「あのね、冥界に迎えにきてもらった時から。ずっと、ずーっと、惚れてました」
「……ああ、知ってる」
「やっぱり?」
「そりゃあ、な」
オレの手を離し、肩に右手を置いて左手で涙を拭う栞。
「イドっちが羨ましかったんだ」
「……ああ」
「でね、イドっちに色々聞いたの。出かける前にも。そしたらイドっちがね、あたしの背中を押してくれたんだ」
「そうなのか?」
意外だ、イドは結構独占欲が強いから。
「『ライトはいい男だから仕方ない、しおりもエイミーも抱かれるべきだ』って」
「ええ?」
「だよね? びっくりした。あたし達はやっぱり日本の価値観で動いてたから、みっちーとイドっちがそういう関係になっているなら我慢しなきゃって思ってたんだ。はむ」
「あの、しゃべりながら、耳を食べないで欲しいんだけど」
それとそのまま押し倒されて栞に馬乗りにされた。この姿勢、すごいマズいんですけど!
「そしたらイドっちびっくりしてた。イドっちはエルフ、長寿な一族だから子が出来にくいんだって。だから早く抱かれろって。推奨されまくり、ぺろぺろ」
「あの、栞さん?」
「我慢する必要、無いんだって。みっちーを独り占めにしたいともイドっちは言ってたけど、やっぱり同じ種族で交わるのが一番だって。手、どかして」
「や、脱がせるよね!?」
「抵抗は無駄だからやめたまえ、あたしの力はみっちーの10倍はあるよ。それに、あたしのお尻に当たってる元気なのはなーに?」
「そりゃ、オレは男だから! 栞みたいに可愛い子に伸し掛かられたら! キスされたら」
「にはは。可愛いだって、もう!」
「違う、今反応するところはそこじゃない!」
「そうだね、こっちだね」
「つつくな!」
「みっちー、我慢しなくていいって話したじゃない」
「あ、ああ」
「だからあたしも、我慢しないことにしたんだ。流石にリアナやイリーナ、ジェシカがいる時は恥ずかしかったから、二人きりになれるタイミングずっと待ってた。めっちゃ待ってた」
「い、イリーナはすぐに……」
「めっちゃ時間使って戻って、向こうの足止めをしてって言ってあるから平気」
「いつの間に!」
「大盗賊の川北栞様に不可能は無い!」
「あ、てめ! いつの間に上着を!?」
「盗んだ。はー、みっちーの匂いだ」
「変態っぽいっ!」
マジでオレのシャツで深呼吸してやがる!
「みっちーって、意外と逞しいよね。はむ」
「うひゃっ」
「お、男の人の、体って、逞しいね」
「そんなに顔を赤くする程恥ずかしいなら、痛いっ! どこ掴んでるんだ!?」
「みっちー」
「ああ?」
「あたしの覚悟、受け取ってね」
そう言って、栞は目に見えぬ速さでオレの服を奪い去った。大盗賊の本気、恐るべし。
「栞、オレはもうイドと関係を持っているんだ」
「うん、知ってる」
「でも、栞の綺麗な体を見て、興奮しちゃってるぞ」
「……うん、分かる」
興奮すると反応する場所に手を置いてますからね。
「いいんだな?」
「みっちー、あたしの初めてを。あたしのすべてを貰って下さい」
オレは上半身を持ち上げ、返事の代わりに栞に口づけをした。
「ん、んん……みっちーから口づけしてもらっちゃった。嬉しい」
短い口づけを終えると、オレの視界には栞の赤い顔しか映らなくなっていた。
色々と恥ずかしく、なんだかんだと話を逸らしたり、日本での話をしたり、こっちの世界の話をしたり。
お互いに緊張を解き合いながら。
お互いの顔を見て微笑みながら。
オレは栞と結ばれた。
お幸せに~




