通りすがりの錬金術師⑤
「何から何まで世話になった」
「乗りかかった船だ。それに放置するには後味が悪くなりそうだったからな」
炎竜を倒した翌日。
隊長さんを中心に兵士たち、そしてその後ろに村人達が並んでた。
兵達が使っていた馬車だろうか。子供たちは荷物と一緒にそこに乗せられている。
そして兵士達が松明を準備している。
「この村は正式に放棄することになった。家も、畑もな」
「そうか、残念な結果になったな」
「全滅するはずだった村の村人がこれだけ生き残れたんだ。残念な結果かもしれないが、最悪の結末は避けれた」
隊長の言葉に村人たちが頷く。その顔に悲壮感はあまり感じられない。
「意外と平気そうだな」
「先祖代々の土地ではあるが、こういう事態が起きれば区長の保護が受けれる」
「今の生活よりもよくなるかもしれんからな」
「死なずにすんだんだ。感謝してるよ旅人さん」
「子供たちを救ってくれて礼を言うよ」
口々に感謝の言葉を告げてくる村人たち。
「俺からも、お前のおかげで部下を死なせずにすんだ。それに村人たちも命を落とさずに。ミリオンマッシュと戦うことに死を覚悟していたが……」
解毒剤を作るために解毒剤のない毒をもつ魔物と戦う任務に就いた兵士。
まあ高確率で死ぬわな。
「まずこの紙を渡しておく」
「これは?」
「ミリオンマッシュの解毒剤のレシピと使い方だ……正確には除菌剤だがな。まあ材料が入手できるかどうかはわからんが」
「はぁ!?」
なんといってもダランベール側の素材でばかり作ったからなぁ。
「いいか、独占するな。必ずライナスのカリム区長に渡してくれ。それとお前の知っている限りの錬金術師や薬師にレシピを伝えるんだ」
「それは……いいのか? これだけで一生生活できるほどの財産だぞ」
「オレ一人で作っても必要な人間の手に渡らないかもしれないだろ。作れる人間は多いに限る」
「それはそうだが」
「オレはライトロードと言う。怪しく思われたらオレの名前を出せばいい」
「区長の知り合いか?」
「肩を組んで呑みあった仲だよ。オレ達は旅を続けなければならない、今さら領都には戻れない」
「そ、そうか」
あの区長は皇族の要請を無視して自分の領土を切り売りするような男だ。自分の領民を助ける為なら除菌剤のレシピを公表して量産するだろう。
「何から何まですまんな。これは必ず区長に渡そう」
「ああ、頼むよ」
そう言うと隊長は何枚もの紙を取り出した。
「世話になった、だが正直報いることはできない。最初に言った通り、私の権限内で渡せるだけの物資と討伐した魔物をすべて渡そう」
「これは?」
「権限内で渡せるといっても、隊の備品だ。こうして記録に残さなければならないんだ。こちらは受け渡しの契約書、それと受け渡し品のリストだ」
「リスト多いな」
「渡せるものすべてだからな。あちらに並べておいた」
そういって指をさすほうには地面に無造作に置かれた物資の数々。
「こいつらで全部っす」
「やっぱり多いな」
この兵士達、使い捨てにするには練度高くないか? 勿体ない。
「まあ貰えるものは全部貰っておきましょ」
栞軽いな。
「まあいいや。こんなにはいらんけど」
「貰ってくれ。荷物が減ればそれだけ村人の荷物が乗せられるしな」
なるほど。
「一応すべての価値を合わせれば5000万ケイルの価値になるはずだ……正直お前さんの功績を考えると足りないが、流石にこれ以上は村人を安全に護送する為に必要なものばかりだから渡すのは厳しい。だが領都まで共にきてくれればこの倍以上は支払える。御同行願えるか? それか別の機会で受け渡すように手続きをしておくか?」
「いや、大丈夫だよ。気持ちだけ受け取っておく」
たまたま通りかかって出来る事をしただけなのに、わざわざ領都まで戻って褒賞を貰う必要はないだろう。
人助けして気分よくなろう。
領都に戻ったら五月蠅そうだし。
「ではリストを確認してサインを」
「いいよ、契約書は確認した。しっかりしている。譲渡証明書としては上等すぎるくらいだ」
「そりゃそうだ」
兵士の備品の受け渡しの証明書だ。それさえ確認出来れば問題ない。領主や国に提出する書類だからしっかりできている。当たり前か。
オレはサインをすると、隊長もサインをしてくれた。
「村人達を護送せねばならん。早朝からで申し訳ないが、これで失礼する。出発だ!」
「ああ、縁があったらどこかで」
兵士達が胸に手を当て、こちらに敬礼をするとそれぞれ荷物などをもって移動を開始した。
何人かの兵士は残っている。オレに渡す荷物を管理している女性兵士と何か話した後、それぞれが松明を持って村に散らばり、その家を燃やして回っていった。
「何も知らない旅人が休んだり野盗や魔物の巣になるといけないっすから。でも村人の前でやるのは流石に……って事っす」
「なるほどな」
兵士達が建物に火をつけ終わると、すぐに村人達を追いかけると言い馬にのった。
「ジェシカ、またな!」
「かわいがってもらえよ!」
「ういー! みんなもお元気でっす!」
ジェシカ、と呼ばれた女性の兵士が一人だけ残る。
「ライトロード様、これからよろしくっす」
「は?」
兜を外したジェシカと呼ばれた女性兵士が、その短い緑色の髪の毛を掻きながらはにかんでいた。
え……え?




