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通りすがりの錬金術師②

 戦闘音が鳴りやみ、巨大なキノコが移動していったので戦闘のあった場所に向かう。

 別に好き好んでいくわけじゃない。進行方向なのだ。

 さっき言ったが、あのキノコの胞子がどんな作用をもたらすか分からないので、オレと栞は状態異常を無効化するアクセサリーを装備した。

 ちなみに装備すればいくらでも無効化出来るものではなく、魔力を流し込まないと起動しないものだ。多めに入れれば一週間くらい持つが魔核は消耗品。

 魔核自体は小型なのでなんにでも入れられるのが便利だ。以前小太郎が宮廷で活動してた時に歯に仕込んでくれと言われて引いた。

 やったけど。


 進行方向の地面がマイタケでなだらかになっている場所まで着くころ、何人もの兵士が倒れている場に遭遇した。

 倒れているといっても、休憩しているだけの様だ。シルドニア皇国の兵士か?

 マイタケを回収している兵士もいる、食えるのか?


「こんにちは、無事ですか?」

「あ? ああ」


 あ、ゴーグルつけたままだった。下そう。


「でっかい魔物でしたね」

「ミリオンマッシュだぞ? 知らないのか?」

「この辺りの人間ではないもので」


 兵士の代表っぽい人がこっちに歩いてきた。


「この辺りは危険だ。戻りなさい」

「危険?」

「ああ、ミリオンマッシュの胞子は毒だ。それも広範囲に広がり、その口布……便利そうだなそれ。だがその程度では防げないぞ、皮膚からも入ってくる」

「ああ、そうなんですか」


 キノコ毒は結構強烈なものが多い。


「しかも個体によって毒に違いが出る厄介な魔物だ。解毒方法が発見できず、村や町が全滅した記録もある。お前達も、特にそこの娘のように軽装では危険だ。早く立ち去れ。我らにも時間がないのだ」

「……その言い方ですと、解毒剤の作成はこれからなんですね」

「そうだ。だから時間が無いと言っているんだ」


 見ると20人近い兵士が青い顔をしている。

 頭からあの量の胞子を浴びたんだ。仕方ない事だろう。離れた所にいる魔法使いの面々も合流してきた。


「リアナ、怪我人だ! 頼む!」

「畏まりました」


 チェイクを馬車の中に残し、リアナが救護箱を持って登場した。

 回復魔法でも回復させられるが、今回はポーションで回復をさせる事にしている。回復魔法の使い手がこの大陸には多くないらしく、貴重な存在らしい。

 いざこざに巻き込まれる可能性もあるから黙っておいた方がいい。

 でも怪我人はともかく、解毒薬もない人たちを放置するのは寝覚めが悪い。


「オレは毒の解析をする。イリーナ、手伝ってくれ」

「あい!」

「メイドだ」

「メイドだな。貴族か?」

「小さい」

「獣人? 初めて見た」

「子供だ」

「……あたしのことじゃないよね?」

「イリーナの事だろ。栞は念のため馬車で待機、あのキノコが戻ってきたら逃げるから」


 オレは言いながらイリーナに手提げからテーブルセットを出して渡す。

 その上に毒の解析を行う魔法陣を置いて、胞子のダマを置いて魔法陣を起動。

 毒の成分を抽出する。


「そこの足のキノコの傘部分をくれ」

「あ、ああ」


 兵士が3人がかりで太い木の幹くらいあるエノキを牽きづりながらもってきた。イリーナがそれを引っ張って、ナイフで先端の傘部分に切り取りオレに渡した。

 それも魔法陣に置いて、手提げから取り出した魔物図鑑から近い物を探す。


「これは厄介だな」


 今回の毒に近い成分を持つ魔物は、魔物図鑑に載って無かった。というか毒や呪いなどに反応する魔法陣の反応が非常に薄い。

 まあこの図鑑はダランベールのものだ。こちらの大陸の魔物が載っていなくても不思議はない。


 別の魔法陣を取り出し、そこにビーカーを置いて胞子を入れる。

 そこに水を注いで、上から解毒剤の緑化液を掛ける。

 これは解毒剤を作成する前段階の液体だ。これを振りかけると、どのタイプのどういった毒なのか方向性がわかるのだ。

 しかし反応はこちらも弱い。魔法陣は正常に作動しているのに。

 別のアプローチ方法を試す。


 素材の属性を調べる魔法陣だ。乗せてみると、土属性の反応を示す。しかもこの反応……。


「一般的なキノコ毒かと思ったが、違うな。こいつは小さい魔物の集まりだ」

「なんだと?」

「キノコの胞子ってのは繁殖のために飛ばすものだ。あの魔物は目に見えない程小さい自分の子供を大量に噴出しているみたいだな。これは普通の解毒剤が効かないのも頷ける」

「馬鹿な! ならば過去に解毒出来た物は……」

「たまたまこの小さな魔物に効いた成分だったんだろうな。そうなると、皮膚や肺に入った魔物を倒す形の薬か。皮膚から入るんじゃ下剤でも効かない。軟膏タイプかスプレーがいいか」


 持ち運び用の携帯窯を取り出して、赤の水溶液を注ぐ。これは強い火属性の水溶液だ。これにジエンタの樹液を流しこんで……どうするかな。植物系と考えると弱い酸の力も必要か?

 人に害を為さないレベルでかつ、キノコの胞子を除去できるレベルか。リーパープラントの鎌葉があるな。これを少しだけすりつぶして水溶液に入れる。

 あ、酸じゃないが太陽石も使おう。体内に入り込んだものを取り除くには体内に薬を吸収させないといけないからね。ほんの少し削って入れる。

 窯に魔力を込めていくと、赤の水溶液が熱を持ちつつそれらの素材と混ざり合う。


「こんなもんか?」


 オレは出来た液体を布に溶かして、自分の手の甲につけてみる。


「あるじ、できた?」

「パッチテスト中だ。まあ人体に悪影響を与える物は使ってないから大丈夫だろうが」


 恐らくミクロの世界の魔物だ。

 しかも自分では動けないタイプの。

 新しいビーカーを取り出して、傘から胞子を取り出してそこに作成した液体を数滴落とす。

 水滴をかけられた胞子が崩れていくのが見える。

 ああ、顕微鏡でも作っておけばよかった。


「問題なさそうだな。リアナ、この液体で栞の体を拭いてやってくれ。全身くまなく」

「はい? はい、分かりました」

「それと薬を香炉にいれて吸い込ませてくれ。お前も念のため栞が終わったら同じことをすること。二人が終わったらイリーナとだっちょんにもやってあげてくれ。チェイクにもだ。お前達が胞子を持って馬車に入るだろうからね」

「はい!」


 自力で動けるものにはポーションを自分で持って行かせて、足や腕が折れていた者の看護をしていたリアナに声をかける。


「隊長さん、隊長さんか? 一応解毒剤的なものが出来たが試してみるか? 自分らの伝手で作るか?」

「驚いたな、こんな短い時間で出来る物なのか……しかし」


 オレは自分の顔や手のひらや腕などの露出している部分を拭きながら兵士達の代表っぽい人に聞いた。


「いや、頼もう。お前達も毒の危険があるから使ったのだろう? 金は……払えんがこちらで渡せる軍の支給品、それと行軍中に入手した魔物の素材などをそちらに提供しよう」

「ああ、それでいいよ」


 タダでも良かったけど何か貰えるなら貰おう。


「追加で作成するから、とりあえず出来ている分を怪我人に使ってやってくれ。全身を拭き上げること。それと、なるべく密閉したテントか何かで沸騰させた湯気を吸わせるんだ。お香の様に」

「わかった。それと近くに村があるのだが、そこにも薬が必要なんだ」

「規模は? それといつぐらいから薬を待っている?」

「村人の数は、我らが出る段階で110人だ。ミリオンマッシュからの襲撃から今日で4日目。解毒剤を作成するためミリオンマッシュの体の一部が必要で、急ぎで我らがここまで来たのだが」

「決死の行軍だな。人の命の為に自分の命を懸けて、そこまで出来るあんた達を尊敬するよ」

「……嬉しい事を言ってくれる」


 オレの言葉が聞こえたのだろう。兵士の何人かが照れ笑いをし、何人かが誇らしげに顔を上げた。


「何をしている! ポーションを分けて貰ったから元気だろう! テントを立てろ! 男女に分かれて解毒剤を体に塗るぞ! 鍋も準備しろ! 火に気を付けろよ! グズグズするな!」

「「「 はっ!! 」」」


 隊長さんの一喝で兵士達が一斉に動き出した。

 追加の解毒剤をいくつか作り終えると、栞とリアナとイリーナにオレは連行される。

 馬車の中で隅々まで舐めまわすように洗われてしまいました。

 栞、お前は混ざんなよ。

すっげーでっかいキノコのお化けが胞子振りまきながら歩いてたら絶望しかないと思う。

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こんな作品を書いてます。買ってね~
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
― 新着の感想 ―
[一言] ちゃっかり栞さんに笑ったw
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