炉をもたらす錬金術師⑧
「ライトロード! なぜ軍を引き入れた!」
翌日、皇女様が乗り込んできました。
天気が良かったのでお庭でご飯を食べていたら強襲してきたでござる。
「例の使節団ですね。王子もみえられてますよ?」
「先ほど挨拶をした!」
「え? 10日後って話でしたよね。あと3日はあると思いましたが」
「前もってお前から話を私は聞きたかったんだ!」
ではお話と洒落込みますか。
「取り合えず、ご飯一緒に食べますか? そこでお話をしましょう」
「食事など喉を通るものか」
「イドも準備手伝ったのになぁ」
「並べた」
「是非頂きますわ! それと並べたお皿も買い取らせて頂きますわ!」
「やめなさい、気持ち悪い」
食いついて来る方向が怖い。
「コホン。それで? どういうおつもりなのですか? いきなり他国の軍が自領に現れて、我々が黙っているとでも?」
「ここは私の土地です。皇女殿下も確認したでしょう?」
「たとえ貴方の土地であろうとも、です! あのような魔道具があるなどとは思いもよりませんでしたわ!」
「どちらにしても船で来られたでしょう」
「何日もかけてこちらに来るのと、扉一つで移動するのとでは訳が違います!」
「大丈夫。あの扉はいずれ動かなくなりますから」
「はい?」
「そういう物なんです。無限に人や物を転送し続けられるような仕組みなんて、オレが知っている限りはダンジョンにしかありません。それもダンジョンという巨大なエネルギーの塊の中にあるからです。あれはそういう物じゃないです」
嘘ですけど。
「そ、そうなんですの?」
「ええ。あの扉は設置してから3日もすれば機能しなくなる使い捨ての魔道具ですから。それにダランベール王国としても、扉を万が一奪われた時に備えて、常に内側の防御を固めておかねばなりません」
「確かにそれはそうですが……」
「今回あれを用意したのは、ダランベールの第2王子をこちらにお連れする為にございます。王族の為にああいう道具で安全にこちらにお連れする事に問題はないと思いますが?」
「そ、その……」
「それとも命懸けの航海に王族に臨めと? 安全な手段があるのにも関わらず? それこそあり得ないお話だと思いませんか?」
この人も王族、皇族だからこそ理解出来るはずである。
「そ、それと軍を引き連れてくるのは違う話では!」
「あれは軍ではなく王子の護衛にございます。皇女殿下も護衛の方をお連れではありませんか」
「っ! ですが! あの者達はなんですかっ! 大工やらが働いている様に見えますけど!」
「王族の方が逗留されるのです、周辺を整えるのは当然ではありませんか」
「明らかに街の修繕を行っているようですけど!?」
「ああ、そっちはオレが雇った者達ですね。この港町の管理を受け持った者の責任として整備を行わせております」
「く~~~~~」
はっはっはっはっ、お姫様と口喧嘩では負けんよ。
「ぼ、冒険者もいるようですが」
「彼らはダランベールでは自由人扱いですから、どの国にも属しておりません。そのような者達の行動をオレは制限しませんよ。我が領土内への出入りの許可を出すだけです。どうやらこの国の法では、各区長や区長に任された代官にその権限が与えられるそうなのでオレでも問題ないでしょう?」
その辺は勉強しておきました!
「くっ!」
「むしろ、皇女殿下や皇族の方々がその権限内に口を出されるのは越権行為であると認識しておりますがそれに関してはどうお思いですか?」
「別に口を出している訳ではない! ただ質問をしただけである!」
「ええ、オレもそう思っておりました。皇女殿下」
意地悪はこれくらいにして、こちらの情報をある程度流しておこう。
「まあ冗談はこれくらいにして」
睨まないで欲しい。
「彼らが海を渡った本当の理由ですが」
「!」
「太陽神教の総本山、そこに到達する事ですね」
「は? 本気で言っているんですの?」
「ええ、こちらの内情を知りませんでしたから」
太陽神教の本拠地。それは旧ハイランド王国の王都にあった。
黒竜王により悉く破壊され、今もなお黒竜王の眷属によって守られているその王都はシルドニア皇国から見て決して手を出す事の出来ない禁忌の地となっている。
先日、ウルクスで情報収集をした結果だ。
この大陸の東側の大半を占めているシルドニア皇国だが、大陸の中心部に位置した旧ハイランド王都まで手が届いていない。
単純な話だが、魔物が守っているからだ。
しかもかなりの広範囲で、どのルートから向かおうとしても、魔物の群れに襲われるらしい。
「ダランベールの主教は月神教ですが、太陽神教の教えも根強く残っています。特に貴族などを中心に」
「それは素晴らしい事ですね」
「そして彼ら太陽神教の熱心な信者達の望みが、総本山への参拝。参拝でいいのか?」
こういう場合はお遍路? 巡拝?
「……そのお気持ちは痛い程分かります。わたくしたちもいずれは旧ハイランドを開放し、大聖堂を人の手に取り戻す事を常に考えておりますから」
「今までは誰も帰ってこれない海の向こうの話だったが、こうしてこちらに来れるルートが確立した以上この流れは止まらないだろうな」
「理解出来ます。出来ますが」
「まあ上手く調整をしてあげて下さい。魔導炉も復活させましたから戦力の増強も可能でしょう? シルドニア皇国とダランベール王国が共闘出来れば、いかに強力な魔物といえども討伐出来るはずですから」
そうして貰ったほうが、オレも旧ハイランド王都に行けるし。
「……一度戻ります」
「皇女殿下、こちらを」
オレは『遠目の水晶球』を2つ渡す。
「これは……例の遠くと話せる魔道具ですわね」
「ええ、進呈致します。おひとつは殿下がお使い下さい、もう一つは殿下の信頼できる方へどうぞ、使い方はこちらです」
めっちゃ魔力使うし、複数人で魔力が込められないけど頑張って。
「よろしいのですか?」
怪しい者を見るような目で見ないで欲しい。
「ええ。私はこちらの大陸に来る力がありましたので使者を任されましたが、私自身は公平でありたいと思っております。このままの交渉ではあまりにもシルドニア皇国が不利でございますから」
「……何が狙いなんです?」
「私も目指しておりますから」
「敬虔な信徒には見えないですが?」
「もちろんです。私には別の目的があります。ダランベールとシルドニア。国は違えど、手を取り合えると信じております。でないと……」
「でないと?」
「私達で総取りします」
オレの言葉に栞とイドが嬉しそうに頷いた。
その言葉に殿下は目を細めると、滅茶苦茶引くぐらいに丁寧な挨拶をイドにした後、退席していった。
次は章がかわるーよっ




