炉をもたらす錬金術師⑦
壁面に巻いてあるホースを取り出して水を流し込んで熱の魔法陣を稼働させる。
この大きさなので中の温度が上がるのは時間がかかるから、他の作業を始める前に温めておかなくてはならない。
今回は人肌程度の熱でいい。
「血抜きは終わったかな」
ダシュピーパと同じように竜の内臓も取り除く。
「次は魔石の加工だな」
魔石を加工して魔核にしなければならない。
ダッシュピーパの魔石を中心にするので、竜の魔石は半分に割って一番小さな錬金窯にそれぞれ投入。生命の水溶液と魂の水溶液を入れ、毎度おなじみハクオウの角の粉を上から振りかける。
今回も紅の果実酒を上からかけるのは同じだ。更に知恵の実を絞って果汁を数滴中に入れる。
走らせるという意味合いで、風花の種を砕いたものも中に入れて風属性を強化。
魔石が融合するように魔力を込めてかき混ぜる。
「やりたい!」
「ほいほい、腕輪忘れるなよ」
「りっ!」
栞がやると言ってくれたので、錬金窯に魔力を込めれるだけ込めて場所を開ける。
栞に言った腕輪とは魔力の色をオレと同様の物に変換させる魔道具だ。以前は一人か、ホムンクルスのリアナとセーナしか工房に入らなかったが、栞、エイミー、イドも錬金術の作業を行うオレの手伝いを買って出るようになってくれたのだ。
だが魔力の混入は錬金術にとって弊害になる。
複数の人間の魔力が混ざり合う事で、イレギュラーな事態が発生する場合があるのだ。手間をかければ防げるが、時間がかかる。大がかりで大量の素材を使う場合はその手間をかけるが。
それを防ぐために作成したのがこの腕輪だ。
他人の魔力の色をオレの物に限りなく近づける魔道具。本来、こんなことは出来ないが、オレの作成した蘇生薬で復活した栞とエイミーの魔力はオレの魔力の影響を受けているので、この腕輪で魔力の色を修正出来るのである。
ぶっちゃけ栞達が窯をかき混ぜてくれるだけでもすごい助かるので、オレとしてもこの腕輪は素晴らしい発明だったと思う。
だって錬金術って、基本的に窯の素材をかき混ぜるんだぜ? 難易度の高い錬金や素材の多い錬金、一度に量を必要とする錬金をすると腕がパンパンになってしまうのだ。
栞が腕輪を付けたので、オレはその腕輪に魔力を通して起動させる。
「ふんふふんふーん♪ 名前どうしようっかー」
「鼻歌はいいけどツバ飛ばすなよ?」
「むうっ」
人型ではないとはいえホムンクルスの錬成だ。人の髪の毛やツバが少量入っただけで変な変化が起こる可能性がある。
一応抽出出来るけど、面倒な作業だからやりたくない。
栞にマスクを渡し、念のためオレ自身もつける。
栞がかき混ぜている間に、水槽側の水を培養液に変化させなければならない。
生命の水溶液と魂の水溶液を多目に流し込んで、ハクオウの角粉を少量と、ハクオウの鱗1枚分を粉末にしたものを入れて杖で混ぜる。
「こんなもん?」
「どれどれ? ああ、バッチリだ」
栞の受け持っていた窯の魔石が液状化した。
冥界で入手した魂石と呼ばれるアイテムに魔法の筆で小さく印をつけてゆっくりとその窯に落とす。
こうすることにより、魂石を中心に液体が渦を巻いて固形化されていく。
完全な球体になったら、窯に蓋をしておいておく。
「栞、その2匹水槽に入れて」
「ええ! 重いじゃん! 尻尾側持ってよ」
「ち」
圧倒的にオレより力の強い自称乙女に文句を言われたので二人でやる。
特別な紐で作成したネットに溶解石を入れて水槽に入れる。水槽が深いのでネットに入れて紐を付けておかないと溶解石が回収できなくなるのだ。
溶解石が効果を発揮し、2匹の魔物の体が溶けていく。細かい描写はあれなので、栞の顔がアワアワしているのだけ伝えておこう。
「こう、なんていうか生き物が溶けていく様って」
「やめておきなさい」
グロいから。
「あとでエイちゃんに語ろう」
「程々にな」
我が家の魔王様を怒らせないでくれ。
オレはその間に先ほど作成した魔核に、彫刻刀のような錬金刀で魔力を込めながら魔法陣を刻んでいく。
肉体の作成を促す陣だ。
単純に魔法陣を作成するのではなく、完成時の姿を想像しながら彫ると出来が良くなるような気がする。
まあチョ〇ボ。
「溶けたよー」
「ああ、こっちも出来た」
完全に溶けたところで、栞が厚手の手袋を付けて溶解石を取り出しておいてくれた。
素手で触ると危ないものだからね。
専用のケースにその石をしまう。
「さて、水槽から離れてくれ」
「わかった」
栞を下げて、水槽の下に置いてある魔法陣に魔力を思いっきり込める。
単純に大きいサイズの物を作成するので、持ってかれる量がかなり多い。
「ととっ」
「大丈夫?」
ふら付いたオレの体を栞が後ろから支えてくれた。
少しだけ心配そうにこちらを見つめてくる。
「悪い、エーテル飲むわ」
「ん、座ってて」
栞がそそくさとエーテルを注いでくれたので、それを飲んで休憩。
なんか嬉しそうにこっちを見ている栞が気になる。
「なに?」
「なんでもー? それより名前どうしよっか!」
「栞だけで決めていいのか?」
オレの頭にたぶんセーナの顔がよぎっているだろう。
「ダメだった!」
「だろ?」
たわいもない話をしながら、魔力の回復を待つ。
魔力が全快になったから、再び水槽に魔力を投入。
作成した魔核を水槽に沈めると、魔核を中心に人工筋肉や骨が生成され、最後に卵の殻が作成されてそれらを囲んだ。
オレが一抱えして持つ大きな卵が完成したので、それを取り出してリアナ達に与える時と同じ要領で魔力を注ぐ。
程なくして卵にひびが入り、大きなヒヨコが生まれた。
このまま工房で育つのを待つのもいいが、他のメンバーも気にしているらしいので外に出す。
こうして新しい仲間が生まれたのであった。
マスコットにはなりません




