炉をもたらす錬金術師①
オレの所にシルドニアの皇女とこのエリアの区長が来て5日程たったある日。
カリム区長から魔導炉の設置場所と指導する相手の準備が出来たからと、エリア:ウルクスへと招待を受けた。
元港町の倒壊した建物や、外壁を乗り越えて侵入してきていた樹海の木々。
それらの片づけはすべてウッドゴーレムに任せる。
ロードボートも魔法の袋にしまって、入れ替わりで馬と馬車を出した。
護衛の為と残ってくれていた兵士の皆さんは顔を引きつらせていたが気のせいだろう。
「全員で馬車で移動というのも珍しいですね」
「そうですね、今までは私やリアナさん、セーナさんは工房のお留守番が多かったですから」
「セーナはちょっと楽しい、かも」
「イリーナも!」
「わたしはちょっと憂鬱……」
外からは見えないが、中で女性陣が楽しそうに話している。
イドが憂鬱なのは、無駄にちやほやされるからだろう。
綺麗とか美しいとかは言われ慣れてると思うが、ダランベールのあった大陸ではエルフは畏怖の対象だ。
遠巻きに見つめられ、腫物の様に扱われる事を受け入れ、完全にその環境に慣れたイドが今や王族より上の存在として扱われる。
虫を払っただけで歓声が上がる程である。
「イドっち、大変そうだね」
「まあ驚きの環境の変化だものなぁ」
オレ達といる事で多少は慣れてたと思ったが、そうでもないらしい。
「まあオレも似たような理由で王城から逃げ出したから。分かるよ」
「そだねー、あたしもお城行ったときはヤバかった。イケメンに囲まれて求婚されまくった! チヤホヤされるのは好きだけど、貴族って連中は好きになれないからなー」
「あいつらは打算でしか動かないからな」
イドが人目を気にするので馬車に早々に逃げ込んだ。
ホムンクルス組は魔力の温存の為、馬車に。自然とオレか栞かエイミーが御者台に行く形になるので、オレが御者台に。
そして護衛役として栞が横に座った。
「まさか馬車はともかく馬が袋から出るとは思わなかったよ」
「便利だろ? 入れないけどリアナ達も入れられるんだぜ?」
荷物扱いみたいにするのは嫌だからやらないけど。緊急時にリアナを入れた事が一度だけあったなぁ。
「ああ。馬もホムンクルスなんだ?」
「そうだ。見た目は普通の馬だけど、飲み物も飲まないし食べ物も食べない。本体の魔力はそう多くないから手綱から魔力を流してあげないといけないけど、その代わり普通の馬と違って間違いなくオレの指示に従ってくれる」
「なんという優秀な子! すごいなー」
馬の尻を撫でるでない、危ないから。
「あ、魔物」
栞が顔を上げて目を細める。
「え? どこどこ?」
「左上、見えない?」
見えないけど?
「護衛の兵士さん達! 上から魔物が来る! 注意して!」
「上?」
「どこだ?」
「あれだ!」
「グールバードだ! 多いぞ!」
「敵!」
早々に反応したイドが馬車から顔を出す。
「おお神兵様の戦いが見れるぞ!」
「この戦いが伝説の幕開けか!」
「バカ! 既にベインでどでかい伝説をぶちあげてるだろう!」
「ああ、もう死んでもいい……」
「ライト」
「お、おう」
顔を出した途端注目を浴びたイドが不機嫌そうな声を上げた。
「……………………パス」
「わ、わかった」
戦闘狂が珍しい。流石にこんな注目された状態で戦うのは嫌らしい。
「仕方ない、セーナ」
「分かったわ!」
兵隊達に合わせて馬車を止めて、馬車からメイド服のセーナが出て来た。
オレは魔法の袋からセーナ用の弓と矢筒を渡す。
「ふふ、戦闘は久しぶりね」
「そういえばそうだな」
ここしばらく、素材集めなんかの時の戦闘は栞とイドが受け持っていた。
リハビリも兼ねてエイミーもやっていたが、やはり戦闘はまだ怖いらしく店舗の店員をしていたのであった。
人見知りなエイミーだが、店員としては大人気だった。
みんな若い娘が好き。
「あれ? ご主人様?」
「グレードアップしといた。せっかくだから試し撃ちしてくれ」
「はい!」
セーナは弦を確かめて頷くと、矢筒から普通の矢を構える。
相手はグールバード、アンデッドタイプの魔物だ。近くに冥界門でもあるのだろう。
冥界門の内側の魔物は冥界の偉人の方々が対処するが、門の外の魔物や門から出て行った魔物は基本的に対処しないから外でも見かける事はある魔物だ。
あの連中は目標に向かってまっしぐらだ。先行して2,3匹倒したところで撤退を選ぶような魔物ではない。
「行きます!」
「おいおい、まだ矢が届く距離じゃ……」
セーナはその言葉を無視して矢を放つと、その矢がグールバードの頭を粉砕させた。
「マジか!」
「すっげ!」
「おいおい、メイドだろあれ」
「ばっか、神兵様の従者だぞ。普通の人間な訳ないだろ」
や、普通の人間ではないけど、オレの従者です。
「続いていきます」
「おう。素材も要らないし魔石も小粒だ。どんどん倒せ」
「はい!」
セーナは腰に付けた魔法の矢筒から次々と矢を取り出して攻撃の回転を速めていく。
グールバードは飛びながらこちらに向かってきたのにも関わらず、セーナの手によって1匹もこちらに辿り着く事無く迎撃され落下していった。
「出番なかったぁ」
「いいだろ別に。腐肉を蹴りたかったか?」
「うひ、確かにそれは嫌だ!」
若干一名文句を言ったがすぐに引き下がった。
周りの兵士さん方、死体の回収と焼却ご苦労様でーす。
イドリアルさまばんざーいな群れ。




