表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/52

1-2:謎の魔導師

 (つむ)った目を開けると、『ゴーレム』たちが煙を上げた吹き飛んでいた。

 誰かが、魔法で攻撃したのだ!

 不意打ちに凍り付いた『ゴーレム』の(スキ)をついて、カラナは足に(から)んでいる個体を蹴り飛ばし、後方に飛び退く!


「カラナ! 良かった!」

 涙目ですがりつくリリオを抱き寄せ、体勢を立て直す。

 が、『ゴーレム』たちの興味はもはやカラナには無いようだった。

 そのすべての個体が、リーダーである『ハイゴーレム』までもが、明後日(あさつて)の方向を凝視(ぎようし)している。


「……どうしたの?」

 釣られて視線を同じ方向に向ける。向いた先は、村の入口方向だった。


 人影がひとつ、(たたず)んでいる。

 黒いぼろぼろの布切れの様なローブを身に(まと)い、フードで顔を隠している。手にした杖から薄く煙が立ち上り、攻撃したのがこの人物であることを物語っていた。


 『ゴーレム』がケタケタと一斉に笑う。

 まるで新しいオモチャを見つけた様に、獲物に群がる昆虫の様に、黒ずくめに突き進んで行く! 

 しかし、『ハイゴーレム』だけはあらぬ方向に飛び退き、林の奥へと走り去って行った!


 見抜いたのだろう。実力の差を。


 黒ずくめが杖を振り上げる!

 マスクで顔を(おお)っている為、“マギコード”は聞き取れなかったが、編み上げた魔力の構成が、杖の魔導石を通じて魔力に変換される(さま)がはっきり見て取れた。

 とてつもなく密度の高いコードが書き上げられて行く!


 地響きが村を覆い尽くし、大地が揺れる!

 髪を振り乱し、黒ずくめに飛び掛かる『ゴーレム』の群れ――”彼女”たちを、大地から生えた巨大な氷の槍が射抜(いぬ)いた!

「ぎゃああッ!」

 次々に地を破って突き出る氷の槍が、『ゴーレム』の痩身(そうしん)を撃ち抜いて行く!

 奇声とも悲鳴ともつかない(うめ)き声が木霊(こだま)する。飛び散った肉片や血液は、一瞬にして凝固(ぎようこ)し、凍り付いた!


 それに(とど)まらない。

 背後の民家のさらに向こう、視界の届かない路地の向こう、さらにはまったく村の反対側からも氷の槍が跳ね上がる!


 やがて、地鳴りが止み、土の雨がぱらぱら降り注ぐ中、一瞬でコラロ村には静寂(せいじやく)が戻っていた。

 おそらく、見えない範囲にいた個体も含め、すべての『ゴーレム』を一度に(ほうむ)ったに違いない。

「……こんなことが……」


 地面から突き出た氷の槍に串刺しにされ、ぴくりとも動かなくなった『ゴーレム』たちを見回す。

 ちょうど視線を一巡(ひとめぐ)りさせた瞬間――氷の槍は光の粒子(りゆうし)となって消え去った。

 術者が魔法を解いたか、射程範囲の外に去ったのだ。

「待って……!」

 我を取り戻し村の入口を見やるが、そこにいた黒ずくめの魔導師は姿を消した後だった。


 ***


「よく『ゴーレム』を退()けてくれた。流石(さすが)はカラナだ。……と言いたいところだが、えらく不満げだな?」


 襲撃から翌朝、カラナはコラロ村の村長ローレルの家に呼び出されていた。


 村の北西に位置する村長宅は、一番奥にあったこともあり、大きな被害は出ていない様子だった。もともと、石造りの立派な一軒家(いつけんや)である。『ゴーレム』の"光弾(キヤノン)"が直撃しても、そうそう崩れたりはしまい。


 リビングの窓際のテーブルを挟み、差し出された紅茶に一口つけるカラナ。

助っ人(すけつと)の活躍がありました」

「ほう? 誰だ?

 コラロ村にお前を支援出来(でき)る程の紅竜騎士(ドラゴンズナイト)がいたとは知らなかったな?」

 ローレルも同じく紅茶を飲む。


 村長と呼ばれるにはやや若い、初老の女性。白髪()じりの赤毛を巻き上げ、縁なし眼鏡をかけた知的な印象を持つ淑女(しゆくじよ)だ。


「いえ。乱入です。どこからともなくやって来た魔導師が、一瞬で全ての『ゴーレム』を(たお)しました。アイツの助けがなければあたしも危なかったわ」

「何者だ?」

 (いぶか)しげに目を細めるローレル。

「わかりません。顔は見えなかったし、すぐに姿を消してしまった……」

「ふむ……」

 ティーカップをテーブルに置き、ローレルがカーテン越しに窓の外を見やる。


 村を一望できる高台に位置した屋敷からは、村の復旧作業の様子が見て取れた。

 遠目に村人たちの傷を(いや)して回るリリオと衛生兵(ヒーラー)の姿も見える。


「懸念材料だな」

「……ですね」 

 同意するカラナ。


 昨日の黒ずくめの魔導師。敵でない保証はない。

 昨日はあの魔導師のお陰で窮地(きゆうち)(だつ)したが、なぜ戦いに乱入したのか? なぜ姿をくらましたのか? それが分からなければ、村にとって味方だと断定することが出来ない。


「あの『ゴーレム』の群れを一掃できる使い手がこの村の周辺を徘徊(はいかい)している。その不気味な事実が残った。おまけに『ハイゴーレム』の残骸(ざんがい)も確認出来(でき)ていない」

「追跡した方がよいと?」

「必要があるだろう。昨日の今日ですまないが、捜索隊を編成し村の周囲を警戒して欲しい」

「けれど、村の復旧もあります。あまり部下たちを捜索にあてがう事は出来ません」

「二、三日で良いだろう。それで特に足跡(そくせき)を発見できなければ……気味(きみ)は悪いが、村の周辺を去ったと考えられる」


 カラナは無言で(うなず)き、テーブルに視線を落とした。

 彼女は、出来ればあの魔導師と接触したいと考えていた。あれ程の腕を持った魔導師だ。さぞ名の通った人物の(ハズ)である。

 しかしそうした人物であれば、何故(なぜ)姿を消したのか?

 

「話は変わるが………」

 ローレルが、腕を組んで考え事を始めたカラナの思考を(さえぎ)った。

「お前は今年の戦勝記念日も、首都へ行くのか?」

「そのつもりですが?」


 戦勝記念日とは、勇者アコナイトと女神ローザが、魔女サイザリスを破った記念日だ。首都では毎年盛大(せいだい)なパレードが開かれる。その様子を見学に、村から首都へ出向(でむ)く者も少なくない。


 もっとも、カラナの場合は紅竜騎士団(ドラゴンズナイツ)としての任務で出向くのだが……。


 記念日は、混乱回避のために首都の警備体制が強化される。そのために各支部からも戦力が集められる。

 基本的には志願制である筈なのだが……


 ある事情から、カラナの意思に関係なくお呼びがかかるのが恒例(こうれい)であった。


「それがどうかしましたか?」

「どうせなら、首都へ行きがてら、村の現状を紅竜騎士団本部(ドラゴンズホーム)へも報告して欲しい」

 ローレルの要望に頷く。


「……あと、この騒ぎを起こしてくれた例の団体(・・・・)への抗議も……ですね?」

「その通りだ。その為にも、逃げた『ハイゴーレム』を捕縛(ほばく)出来るとありがたいな」

 カラナは、ぐっと紅茶を飲み干して、席を立った。

「分かりました。捜索隊を編成、村の周囲の捜索に当たります!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ