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8話:感謝と提案

暫く更新開いて申し訳ありませんでした

 暫く歩いた後、ベアトリスの父親が足を止めたのは、大きな屋敷の前だった。


「私たちの家だ。入ってくれたまえ」


 鉄製の門が音を立てて開く。

 広い庭の、石畳の道の左右には豊かな芝生と美しい花々が広がっており、この家の経済力の高さを物語っていた。


「お、お邪魔します……」


 豪奢さは城に劣るとはいえ、趣味の良さでいえばこちらが格段に上だろう。

 いかにも高そうな調度品で整えられたエントランスホールを進み、招かれるまま食卓へ着く。

 急な来客にも慌てることなくきっちり一人前の食事が出てくるのに驚きつつ、合図に合わせてカトラリーを手に取った。


「さて恩人殿……改めて礼を言わせてくれ。ベアトリスのことを救ってくれて感謝する。ありがとう」


「いえ、そんな。俺は当然のことをしたまでです」


「それでも君が居てくれなかったらこの子は今頃どうなっていたか。……おっと失敬。すっかり名乗るのを忘れてしまっていたな。私はフラビオ。フェルテ家の当主を務めている」


「アルマです。間に合って本当に良かった」


 差し出された手を握り返す。

 俺が名乗ったとき、フラビオは微かに目を見開いたのが見えた。


 食事をしながら、俺たちは会話を続ける。

 それにしても流石は貴族といったところで、出てくる料理は絶品だ。


「アルマ殿は、何故この街に?君は確かアルシオンの……」


 勇者パーティの一人だったはず、と、視線で言うのに対して、俺は頷いた。


「ええ。でも"元"という形になります。その……俺はもうパーティの一員じゃないんです」


「なるほど。では今の君の身分は?」


「一介の冒険者に過ぎません」


 首から下げた銅色のプレートを掲げて見せる。


「なるほど、銅級冒険者と。出自を考えれば実力は十分だろうが、駆け出しの身では苦労することも出てくるだろう。何かあったら頼ってくれたまえ。できる限りの力になろう」


「ありがとうございます。しかし、良いのでしょうか」


 好意は素直に受け取りたいが、少し引っかかることがあってフラビオに尋ねる。


「む?娘の命に比べればこの程度のことなんともないが。……何か問題が?」


「俺がどうしてパーティを抜けたのか、お尋ねにならないんですね」


「ああ、そんなことか。……魔王討伐だ勇者だと言えど所詮は隣国のことだからな。指名手配犯でもない限り気にする者は居るまいよ」


「そういうものなのですね……」


 確かに、国外追放はされたが指名手配はされていない。

 カインが個人的に俺を殺しに来ないとも限らないが、並の兵ならあしらえるだろう。……たぶん。

 いざとなったら俺一人が逃げれば彼らにかかる迷惑は最小限で済むはずだ。他国の貴族に喧嘩なんて売ったらそれこそ国際問題に発展するしな。


 食後のデザートまできっちり頂いて、このまま帰るべきか考えていたら、今日は泊めてくれるとのことだったのでお言葉に甘えることにした。

 風呂まで使わせてくれるとは、貴族にしては珍しいと思う。冒険者などという野蛮な職業、それこそ高ランクでもない限り見下されて終わりだからだ。その手の話は城で散々聞いた。


 脱衣所で衣服を解きながら、幸運だったな、とぼんやり考える。

 貴族の後ろ盾なんてそう簡単に得られるものではないし、来たばかりの国で、なったばかりの冒険者という身で、このつながりを持てたのは本当に幸運だ。

 もちろん純粋な恩返しだけではないのだろうというのも理解はしているから、その分頑張って働かなければな、と強く心に思った。


 体を洗ってから、湯船へと身を沈める。

 少し熱めのお湯が、体の芯をじんわりと温めてくれてとても心地いい。


「はぁー……」


 長く深く息を吐きながら、ぐっと伸ばした腕をなんとなしに見る。

 常にローブを着ているから、外で旅をしていたというのに病気かと思うような白い肌。

 何度か無茶をしたこともあり、張った盾で防げなかった攻撃を受けたこともあり、お世辞にも綺麗とは言い難い、傷だらけの体。この体に刻まれていく傷の数は、たぶん今後も増えていくのだろう。戦って戦って戦う、今までと生き方自体は変わらないのだ。ただ、誰のために命を懸けるかが違うだけで。


 宿にはこんな立派な入浴設備はそろっていないので存分に堪能した後、俺は風呂から上がる。

 ふわふわのタオルにいつ用意したのか客人用の夜着をありがたく使わせてもらって、就寝の支度ができたところで使用人が部屋へ案内してくれる。

 どう考えてもただの冒険者に掛ける配慮ではないが、それが人柄なのかなと思った。


「こちらでございます」


「ありがとうございます」


「お休みなさいませ」


 お辞儀をして去っていく使用人を見送りながら、割り当てられた部屋へと入った。

 部屋の鍵は内側からかかる。窓の鍵もきちんと閉まっている。

 部屋に仕掛けられた罠がないか、クルスが必ず見てくれていたなと考えながら簡易的なチェックを済ませると、ふかふかのベッドにもぐりこんだ。いつも眠る時間よりは早いが、冒険者登録をして、初めてダンジョンに潜って、慣れないことをたくさんしたせいで気づかないうちにかなり疲れていたようで。

 強烈な眠気に襲われて目を閉じる。意識が温かな暗闇の中へと落ちていった。

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