4話:隣国への出立
今回はかなりほのぼのしてます
翌朝、荷物をまとめた俺は、王城を後にした。
荷物といってもせいぜい、杖などの装備一式と筆記用具、それからいくばくかの薬草類やポーションとお金くらいのものだが。
「さてと。陛下の気が変わらないうちに国を出るかな」
カインのことは国王が釘を刺してくれているらしく、遠くから俺の事を睨むにとどまっている。
だが国王自身も、カインの命を救ったという事実が無ければ、いや、あったとしても俺の事を処刑しようとした程度には俺に対して嫌悪……恐怖といった方が正しいだろうか。を抱いている。
荷物をまとめ次第と言っていたし、国を出るなら早いに越したことはない。
「グラシア行きの馬車は──っと、あったあった」
国外追放だからといってどこかに放り出してくれる……というわけでもなく、行先は何処か勝手に決めていいようだった。ただ、俺がきちんと国から出たか、出たふりをして引き返さないかは、騎士を一人つけてそれで監視するらしい。
事実俺の少し後ろを王城付きの騎士がついてきている。
「すみません、グラシアまで二人お願いします」
「あいよ。二人で銀貨4枚だ」
御者に声をかけ、提示された金額を渡し、俺たち二人は馬車に乗り込む。
大きい馬車の中には数人の先客が座っていた。冒険者らしき若者、荷物を抱えた男、老婆など様々だ。
暫く待った後、数人の乗客が来て、そして馬車は走り始めた。
隣国グラシア行きの馬車だからと言っても、必ずしも全員が全員、グラシアまで行くわけではない。
あくまでもそちらの方面だというだけで、途中で下車していく者も居る。逆も然りで、途中から乗ってくる者だって居る。
馬車の中の人数が減ったり増えたりするのを眺めながら、俺と騎士は特に会話をすることもなく馬車に揺られていたのであった。
夜になった。
王都から隣の国へ走るのだ。朝早くに出発しても一日ではたどり着けない。
幸い今日は襲撃もなく、予定通り途中の街まで来ることができた。これが狂うと野宿する羽目になるので、屋根の下で寝られるというだけで嬉しいものだ。
馬車から降りてぐっと伸びをする。後ろからついて降りてきた騎士は相変わらず俺の事を睨むように見ていて、押し黙ったまま何も言う気配はない。
彼にとってもきっと不本意な仕事なのだろう。あえて話しかけることはせず、俺は宿屋へと向かった。
「二部屋取りたいんですが……空きはありますか?」
「いや、一部屋だ」
ひとまず部屋を確保してしまおうとカウンターに立つ愛想の良さげな女性に声をかける。
すると今まで一言も発さなかった騎士が、強めの語調で口を挟んできた。
「一部屋で二人は狭くないか」
「貴様は自分が監視されているというのを忘れているのか?」
じとり、半ば呆れたような睨むような視線で彼が言う。
「……そうだった」
確かに目を盗んで逃げる可能性があるか。この国に執着するメリットは特にないので、完全にそのことは考えていなかった。
本当に忘れていた俺の様子に、騎士は今度こそ呆れた顔をしたのだった。
「一部屋でいいのね?」
「ああ、一部屋で頼みます」
無事に部屋の確保を終え、荷物を放り込んだ後、俺たちは夕食を摂るべく階下へと向かう。
この宿には酒場が併設されており、わざわざ食事処を探さなくていいのが嬉しい。
馬車で見かけた冒険者らしき若者が酒を飲んで盛り上がっているのを横目に席に着いた。
「あなたも何か食べるんです?騎士さん」
「当然だ。貴様を置いて食事中に逃げられても困る」
「逃げませんて……」
メニューを見ながら適当に注文を飛ばす。酒は……アルシオンを出るまでは控えておくことにする。
酔ったところをばっさり、という可能性も無いとは言い切れないからだった。
暫くして提供された食事はとても美味しかった。肉の臭みを香草で消すのは定番だが、料理人の腕が良いのだろう。その他、野菜の甘みの詰まったスープや、ふわふわ卵のオムレツなど、派手ではないが美味しい料理を堪能して、胃も心も満たされた。
騎士も心なしか満足そうな顔をしていた。なぜか彼の分の食事代もちゃっかり払わされた。
翌朝。
寝首を掻かれるかもしれないという心配は杞憂に終わり、俺たちを乗せた馬車はグラシアを目指し再び走り出す。
途中はぐれの魔物に遭遇するというアクシデントはあったものの、護衛──都市間の定期馬車にはほぼ必ずついているものだ──と冒険者集団の中の魔法使いがさっさと片づけてしまったので、俺の出る場面はなかった。
日も傾き落ちかけてきたところで、終点であるグラシア王国の一都市トレラ、へと馬車がたどり着く。
ここからグラシアの王都へ向かうにはさらに馬車を乗り継いでいかなければならないのだが、アルシオンを出る前に少しだけ考えていた「やりたいこと」をやるには、別に王都まで向かう必要は無い。
「さ、着きましたぜ旦那方」
「あなたのおかげで無事にたどり着けました。ありがとうございます」
「それが俺の仕事さねぇ、いいってことよ。それじゃ、いい旅を」
ここまで乗せてくれた御者へ礼を言いながら下車する。
騎士は今日また俺と一泊して、それからアルシオンへと引き返すらしい。中々過酷な日程だ。
昨日と同じ様に宿を探し、一部屋に二人でぎゅうぎゅうになりながらその日は眠った。
「貴様、二度と戻ってくることの無いように」
「わかってますよ」
次の日、アルシオン行きの馬車に向かう騎士が俺を睨みながらそう言うのを、苦笑しつつ見送ってから、俺はとある場所……冒険者ギルドへと足を向けたのであった。
そう、俺は冒険者になる。小さな野望の為に。
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