幕間Ⅲ ドワーフの饗応
封印洞窟へは明日行くことになった。
エヴノスたちが戻ってくるまであまり時間がない。
武器の製作時間も考えれば、一刻も早く行きたいところだったけど、チンさん曰く明日封印の洞窟へ行って、火の精霊を見つけてきても、十分間に合うのだそうだ。
ドワーフの住み処を見つけるまでに時間はかかったし、地下だからわからなかったけど、外はもう夜だそうだ。
メーリンと族長の計らいもあって、俺たちはドワーフの城に泊まることになった。
まず出てきたのは、ご馳走だ。
大理石でできたテーブルを埋め尽くすぐらい、多種多様な料理が並んでいる。
暗黒大陸にこれだけの食糧があることに驚く。
この中の8割以上が、魔族から買ったものだという。
1番、目を引いたのは肉だ。
大きな獣の骨に、大きな肉の身が付いている。
そう――リアル漫画肉だ。
表面がこんがりと焼けていて、断面からは蜜のように脂が垂れていた。
漂ってくる香ばしい香りに、お腹が反応する。
ぐぅ……。
食卓に俺の腹の音が鳴る。
うっ……。ちょっと恥ずかしい。
「みゃははははは! ダイチのお腹は食欲旺盛みゃ!」
ぐぉおぉぉおぉぉお……。
また腹の音が鳴る。
反射的にお腹を隠したのは、ミャアだった。
いつもお腹を出しているからだろう。
服越しじゃないから、はっきりと聞こえた。
「ミャアもお腹空いてる」
と指摘するステノも――――。
ぐぐぅ……。
お腹を鳴らす。
「ステノだって、お腹を鳴らしたみゃ」
「今の違う。私じゃない。チッタ」
ステノは椅子の下で早速ご飯にありついていたチッタを抱き上げる。
何故責められているかわからないチッタは、「キィ?」とゆらりと尻尾を振った。
「チッタのせいにしないで下さい、ステノ」
チッタを取り上げたのは、実質飼い主であるルナだった。
ごごごごご……。
お腹が鳴る。
「ひゃっ!」と可愛い声を上げたのは、ルナだった。
取り上げたばかりのチッタを使って、お腹を隠す。
い、今のがルナのお腹の音?
悲鳴は可愛かったけど……。
「今のルナのお腹の音……」
「まるで竜の嘶きみたいだったみゃ」
「つまり、あの馬鹿力はお腹に飼ってる竜のおかげというわけアルね」
饗応役を仰せつかったメーリンが、片眼鏡を釣り上げて、興味深そうにルナを見つめる。
「ちーーがーーいーーまーーすーー!!」
顔を真っ赤にして否定するルナも、可愛いかった。
「クロージット……」
乾杯をして、夕食は始まった。
今の台詞は忘れてくれ。
族長が考えついた乾杯の言葉らしい。
字面で見ると美味しそう甘味みたいに思える銀河帝国では、決してない。
最後にグラスも割ることもなかった。
両手で持って貪り食うのが、漫画肉の醍醐味だけど、今テーブルに載っているのは、そんなサイズからはかけ離れている。
みんなに見せるためにテーブルに置かれた肉は、1度下げられた後、食べやすいようにカッティングされて、俺の前へと戻ってきた。
肉には切れ目が入っていなかったけど、そんなことをしなくても十分柔らかい。
ナイフを入れると、その重みだけで肉がはだけていく。
こんな肉……日本にいた頃にも、お目にかかったことがないぞ。
早速、一口食べてみた。
「むっっっっっふうぅぅぅううううぅぅぅううぅ!!」
美味い!!
まず予想通り肉質が柔らかい。
食べるというよりは、柔らかすぎて、肉が吸える。
咀嚼したという感触はなく、肉の旨みがダイレクトに喉に流れていく。
脂も上質だ。
しつこくなく、舌に絡みつくようなねっとりした感触はない。
さらりとしているのに、体内から食欲が溢れてくる。
焼き方もいい。
焼き目の部分はカリッとして、柔らかい肉質を引き立てていた。
カンッ!!
もう1枚とばかりにナイフで切ろうとした瞬間、皿に何もないことに気付く。
いつの間にか完食してしまっていたらしい。
おそろしい……。
漫画肉、恐ろしい肉。
「これ? 何の肉なんですか?」
俺は族長に尋ねる。
族長はドワーフの地酒が入った杯を片手に、ほろ酔い気味だ。
さっき俺も呑んだが、アルコール度数が高くて遠慮した。
たぶん、お腹を壊すヤツだ。
「気に入っていただけて、何よりだ。それはアースドラゴンの肉だよ」
おお! ドラゴンの肉か。
そう言えば、食べたことがなかったな。
ドラゴン肉はファンタジーの定番料理の1つだ。
しかも、アースドラゴンなんて如何にも強そうな名前じゃないか。
そんなドラゴンを打ち倒す力が、ドワーフにあるなんて。
大砲で仕留めたのだろうか。
んん?
いや……待てよ。
アースドラゴン……。
日本語で言うと、「土」「竜」?
――って!!
土竜じゃないか。
というか、こんな大きな土竜が地下にいるのか。
さすが異世界ファンタジー。
スケールが違う。
こんな大空洞がある世界だからな。
然もありなんとは思うけど……。
でも、土竜って不味いんじゃなかったっけ?
「野生のアースドラゴンはとても不味いネ。でも、養殖のアースドラゴンはおいしい餌を与えているから、とても肉質がよくて絶品ヨ。餌がおいしいから、あいつら丸々太るネ」
メーリンは解説してくれる。
あえて土竜というけど、養殖しているのか。
確かに餌によって、肉の質や味が変わったりすることはよく聞く話だ。
しかし、よくドワーフがそんなこと知ってたな。
「大昔、人間に教えてもらったと聞く。その人間は力も弱くて、ほとんど無能力だったのだが、料理に関して世界一と呼ばれるほどの知識があったそうだよ」
族長は酒を片手に教えてくれた。
「まるで大魔王様みたいアル」
無能力の料理人か。
なんかどっかで聞いたことがあるような気がするけど……。
メーリンの言う通り、俺も似たようなものか。
まあ、何はともあれお腹がいっぱいだ。
料理人と食材に感謝。
ごちそうさまでした……。
◆◇◆◇◆
その夜……。
俺は宛がわれた部屋のベッドで寝ていた。
思ったよりも疲れていたらしい。
ベッドに寝っ転がるなり、すぐに睡魔が襲いかかってきた。
ハッと気付いた時には、部屋は真っ暗だ。
地下なのだから当たり前なのだが、俺は一瞬パニックになる。
部屋の中にある壁時計を見ると、丑三つ時を指していた。
弱ったな……。
早く寝てしまったからか。
変な時間に目が覚めてしまった。
「目が覚めたアルか?」
「メーリンか? ああ。地下だからかな。なんか時間の感覚が――――って!!」
なんでメーリンが俺の部屋にいるんだよ。
「むふふふ……」
次第に目が慣れてくる。
現れたのは、不敵な笑みを浮かべた、メーリンだ。
まず出現した場所がおかしい。
部屋の扉の前でもなければ、ベッドの側でもない。
何故かベッドの上で、馬乗りになっていた。
しかも、半裸の姿で。
「ギャ――――」
「静かにするネ。大丈夫ヨ。痛いことはしないネ。むしろ気持ちの良いことヨ」
俺の口を塞ぎ、メーリンは蠱惑的に微笑む。
気持ちのよいこと?
ま、まさか――――。
「むふふふ……。いい感じに硬くなってるアルね」
メーリンは頬を上気させながら、俺の下腹部をさする。
ああ! 逃れられない男のリビドー。
そりゃあ、ベッドの上に下着姿の女の子が馬乗りになってたら、その…………男の子として反応しちゃうのは必然でしょ!
そりゃあメーリンの身体は小さくて、小学生高学年という感じではあるのだけど、きちんと胸もあって、太股――――ダメだ、こりゃ。
喋れば喋るほど、ボロが出るヤツだ。
「メーリン、やめろ」
「何をやめるネ? よくわからないアルね」
「とりあえずベッドから降りてくれ」
「駄目アル。今から大魔王様と既成事実を作って、正室にしてもらえばドワーフ族は安泰アル」
この展開、すっごいデジャブ感がある。
「ダメダメ。そういうのはなしなし」
「何? わたしの身体に興味ないアルか? そりゃ人族の女と比べたら背丈は低いけど、これでも出るところ出てるアルよ」
「そ、それはわかったから」
「むふふふ……。大魔王様も男ネ。すけべヨ」
「ち、ちが――――」
そういうことじゃなくて!!
「それに人族の男の中には、小さい方がいいと――」
「断じて、俺にそっちの趣味はない!」
「でも、ルナもミャアもステノも、どっちかというと幼いアルよ」
あれは偶然なの!
「まあ、どうでもいいアル。さあ、大魔王様、観念するヨロシ……」
メーリンは身体を俺に預ける。
下着越しだから、ダイレクトに感触が伝わってきた。
やばい! 頭がぽぅっと……。
「「「そこまでです。メーリン!!」」」
突如、声が聞こえた。
バッとシーツが飛ぶ。
俺のシーツの中から現れたのは、ルナ、ミャア、ステノだった。
「それ以上は許しません」
「獣に代わってお仕置きみゃ!」
「殺す……」
いきなり3人の娘たちは殺気立っていた。
その気に当てられて、メーリンは怯む。
「さ、3人とは卑怯アル!」
一触即発の状態になる。
女性陣の間に大きく火花が散った。
その横で俺は固まり、戦況を見つめている。
ちょ! どういうこと!?
「なんで、3人が俺のシーツの中から出てくるんだよ!!」
俺のもの悲しい絶叫は、丑三つ時のドワーフ城に響く。
そのキャットファイトは出立する直前まで続いたという。
べ、別に羨ましいなんて思っていないんだからね!




