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第16話 むらに がいせんする

「「「「かんぱぁぁぁぁぁぁああああいいいいいい!!」」」」


 威勢の良い声が上がる。

 集落の中では大きく、ある程度作りもしっかりしているソンチョー宅で、その声は地鳴りのように響いた。


 皆の手には、木の杯が握られている。

 中には、ブラムゴンの屋敷から奪取した麦酒が並々と注がれていた。

 しかも白い気泡が上がり、キィンキィンに冷えている。

 元サラリーマンとしては、有り難い限りだ。


「ぷはああああああああああああ!」


 仕事上がりの麦酒が格別だ。

 喉を突き抜けていく炭酸と、火照った胃が冷えていく感覚は、マナストリアに来ても変わらない。

 むしろ会社上がりで飲む麦酒よりもおいしいかもしれない。


 それほど、今日の美酒は別格なのだろう。

 俺だけの力じゃなくて、ここにいるみんなの力を結集して、あの首無し騎士デュラを倒し、食料庫を開放することができたのだから。


 その食料庫から持ってきたのは、麦酒だけではない。

 肉や卵、ジャガイモや大蒜まで、選り取り見取りだ。

 ブラムゴンは密かに人族を他の魔族たちにあてがう、という人身売買まがいのことをしていたらしい。

 こうして人族の口に合うような食料が食料庫にあったのは、やせ細った人族を見栄えよくするため、食事を定期的に与えるためだったらしい。


 目的は最悪。

 これをエヴノスが黙認していたというなら、義憤を感じずにはいられない。

 実際、人族に被害が出ていたことは確かだ。


 だが、今はこの食料を有り難く食べさせてもらおう。

 村を復興させ、今ここにいる人族たちの活力にするためにも。

 事実、ご飯を食べている時のみんなの顔は幸せそうだ。


「イタタタタタタタ!!」


 突如うなり声を上げたのは、ソンチョーだった。

 俺の側でうつぶせになり、ヒィヒィと悲鳴を上げている。

 背中には薬草が塗られた湿布が貼られていた。


「大丈夫、ソンチョー?」

「だ、大丈夫ですじゃ」


 剣豪のジョブを持つソンチョーは、見事デュラを討ち果たした。

 だが、その代償は大きいものだった。

 いくらステータスが高かろうと、ソンチョーは60歳だ。

 老人の肉体で、『居合い斬り』はかなりの負荷がかかったらしい。


 あの一刀の後、ソンチョーは動けなくなってしまい、皆に担がれ、そのまま村に凱旋した。


 ソンチョーの剣豪は、戦力としては喉から手が出るほどほしい。

 けど、一戦ごとに倒れていたら、そのうちに本当に天に召されてしまうかもしれない。

 とはいえ、いつかソンチョーの力が必要になる時が必ずある。

 予備戦力として、頑張ってもらおうと考えていた。


「る、ルナちゅあん(ヽヽヽヽ)。もう1回、もう1回だけ、わしに『大回復』をお願いできるかのぅ」

「え? ソンチョーさん、さっきも――――」

「うん。あとちょっとだけしてくれたら、よくなると思うんじゃ。あと、できれば背中をスリスリと撫でてくれたら――――」

「じゃあ、あたしがスリスリしてやるよ」


 ソンチョーの背中をさすったのは、カーチャだった。

 さするというよりは、ゴリゴリと骨がなるぐらい押し込んでいる。


「ギャアアアアアアア! 年増ババァのカサカサのお肌がぁぁぁあああ!!」

「誰が年増ババァだ!!」


 ベシッ、とカーチャはソンチョーの頭を叩く。

 すると、ドッと笑いが起こった。


 ソンチョーは相変わらずスケベじじいだな。

 後になってわかったことだが、ドリアードの裸を見て興奮してたのは、ソンチョーだったらしい。

 この村のムードメーカーのようになっていた。

 最初は、村に戻ってきたルナを責めたりしていたけど、それは多分村のことを思ってなのだろう。

 ブラムゴンと村人の間に挟まれ、難しい舵取りをしてきた。

 それが解放されて、元のスケベじじいに戻ったというわけだ。


「カーチャさん、ご苦労様。見ることはできなかったけど、大活躍だったらしいですね」

「頼りのない男共の尻拭いをしてやったのさ」


 アバカムを睨む。

 向こうはすでにできあがっていて、真っ赤な顔をしながら「え? なに?」と首を傾げた。その横にいた兄のトレジャーが軽く頭を小突くと、また笑いが漏れる。


「ダイチ様、あたしを褒めるより、ステノを褒めてやってちょうだいよ。あの子も頑張ったんだから」


 カーチャは宴会の片隅で縮こまっていたステノの手を取ると、俺の前に戻ってくる。

 背中を押し、ステノを俺の真正面に立たせた。


 ステノは黒髪に、黒目の少女だ。

 前髪が長くて、ちょっと影がある感じだけど、でも誰よりも頑張っていた。

 決して体力がある方じゃなかったけど、レベルアップに積極的だったし。

 向上心もある。


 加えて、この世界では珍しい黒髪と黒目だから、日本人の俺としてはとても親近感が沸く少女だった。


「ステノがいなかったら、屋敷に潜り込めたかどうかもわからなかったんだから」


 そうだ。

 ステノがいなければ、この作戦自体が成立しなかった。

 ルナやソンチョーのようなジョブはないけど、今回一番の活躍を見せたのは、ステノといっても過言ではない。


「ステノ……」

「は、はい!」

「怖くなかった?」


 ステノは一瞬キョトンと固まった。

 俺の質問を予想していなかったのだろう。

 やがて、ゆっくりと頭を振った。


「い、いいえ。信じていましたから」

「自分ならやれるって?」


 またステノは頭を振る。


「ダイチ様を……」

「俺?」

「何もないって思ってた私に、ダイチ様は『絶対強くなれるから。みんなの役に立てるから』って言い続けてくれました。私はまだ弱い私のことを信じられないけど……。ダイチ様は大魔王様だから、強くなれるって思ったんです」


 自分は信じられないけど、俺の言葉なら信じられるか。

 ちょっとおかしい気もするけど、出会った時、村の隅で蹲っていた彼女にとって、それはとても大きな1歩なのかもしれないな。


「ステノ、労いの言葉だけでいいのかい? 頭ぐらい撫でてもらいなよ」

「ふぇ! 頭、なで――――」


 キュゥ! とステノの顔が熱くなる。

 すると、カーチャはドンとステノの背中を突き押した。

 そのステノの頭が座っていた俺の両膝にちょうど収まる。

 まるで、それは頭を撫でてほしいとねだっているような気がした。


「す、すすすすすすすみません。ダイチ様。今すぐどいて」

「よく頑張ったね、ステノ」

「え?」


 俺はステノの頭を撫でる。

 ステノは固まった後、猛烈な勢いで顔を赤くしていった。


「いつか自分を信じることができたらいいね」

「…………はい。だから、もっと強くなります。その時はそ、そ、そのぅ……。わ、わ、私の――――」



 私の頭を撫でてください……!



 ステノは懇願する。

 俺は素直に応じた。


「うん。また頭を撫でてあげるよ」

「はい。ありがとうございます」


 ステノは立ち上がって、頭を下げる。

 顔が赤いまま、風のように宴席会場から立ち去っていった。


 い、一体何だったんだろうか。


 そして……。


「ソンチョー、カーチャ、なんで泣いてるの」

「ステノ、よく頑張ったよぉ」

「うーん。甘酸っぱいのぅ」


 何を言ってるんだろうか。

 若干気持ち悪いんだけど。


「ねぇ……。ルナはわかるかな?」


 俺はルナの方を振り返る。


「ゼンゼンワカリマセン」


 こ、ここここわっ!!

 なんか知らないけど、ルナが全然表情もなく答えたんだけど。


 お、俺……。なんか怒らせることしたっけ?


 俺は首を傾げるしかなかった。


次回はさらに新キャラが登場予定。

果たして、何角形になることやら……。


面白い、ステノ頑張れ、と思っていただけた方は、

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