2-5
「ここにしようにゃ!」
パステルの先導で進むこと数分──耳をぴくぴくと、鼻をひくひくとさせていた彼女は、一軒の店の前で立ち止まった。
何の変哲もない外観、『大衆食堂』と書かれた小さな看板がなければ、気づかずに素通りしていただろうお店。隠れ家的な店に当たりが多いというのは、前世からの鉄板だ。どんな料理が出てくるのかわくわくする。
「らっしゃっい!」
ドアを開けて中に入った私達に、威勢のいい声が浴びせられた。カウンターの奥では、三十歳前後のお兄さんがにかっといい笑顔をこちらに向けている。
軽く会釈してから四人掛けのテーブルに座って店内を眺めれば、掃除が行き届いた内装に期待が高まっていく。
紙のメニューらしきものはないけれど、壁に並べられている料理名が書かれた木の板が目に留まった。所どころ裏返っているのは、品切れってことかしら?
「なんにしましょう?」
数分たったころ、エプロン姿のお兄さんがカウンターの奥からやってきた。店は一人で切り盛りしているのか、他の店員はいないようだ。
「ノア君、何がいい? あの板に料理名が書いてあるわ」
「えっと……なんでもいいです」
この一週間ほどで大体わかってきた。ノア君は遠慮していつもこう言うけれど、食べたい料理があるとそこで少しだけ視線が止まるんだ。
今回はあれかな? オススメって書いてあるし、今日の私達にぴったり。
「じゃあ、ノア君と私が冒険者になった記念日だし、冒険者セットにしましょうか。飲み物は、何か果実水をお願いします」
ノア君の視線が釘付けになっていた冒険者セット、内容が書かれてないところもそれはそれで面白そう。
「ルゥとパステルはどうする?」
「ブルーブルのワイン煮込みとワインを頼む」
「あたしはマッドサーモンの岩塩焼きと蜂蜜酒にするにゃ」
「あいよっ!」
にっこりと笑った男性は勢いのある声で返事をし、厨房へと戻っていった。
「冒険者セットお待ちっ!」
わくわくしながら待っていた私とノア君の目の前に運ばれてきたのは一口大の肉の山。1ポンドステーキどころではないその量に、呆気にとられてしまう。
「……ノア君、私の分も食べる?」
「えっ?」
「こんなに食べられないの」
「じゃあ、うん。いただきます」
三分の一ほどをノア君の皿に載せてもまだ多い。とりあえず食べれるだけ食べてから考えようと思い、二股のフォークで肉を突き刺した。口に入れて咀嚼すれば、塩味とともに濃厚な肉な旨味が口の中に広がる。
「美味しい!」
「今のはロックバードの塩焼きだよ。脂肪が少ないが力強い肉の旨味が抜群だろう!」
まだ近くにいたお兄さんが元気よく肉の説明してくれた。この冒険者セットは、グランゼ近郊で冒険者が狩ってくる様々な獲物の盛り合わせだそうだ。うん、これはいいかも。シンプルな味付けで、お気に入りのお肉を見つけられるセットってなかなか粋じゃないかしら。
別のお客さんが入ってきたためお兄さんは注文を取ってから厨房へと戻っていき、ルゥとパステルにも分けつつ様々な種類の肉に舌鼓を打つのだった。
「は~、お腹いっぱいだね」
「苦しいです……」
店から出て、ノア君と私はぽっこりでたお腹をさする。結局ノア君は、冒険者セット二人前分ほどを食べきっていた。小さな身体からは想像できないほどたくさんのお肉と付け合わせの蒸した芋を食べていくノア君。そんな彼に気分をよくしたお兄さんが、別の種類のお肉を追加してくれたためだ。
「いいお店だったね。お客さんも優しかったし」
それに、周りにいたお客さんもこれも食え、あれも食うかなどと言ってノア君の前に取り分けた料理を置いていくものだから、私たちのテーブルはかつてテレビで見た大食い番組のようになっていた。
「……はい」
ノア君はなにか貰う度にぺこりと頭を下げながらも、一言も発することなく黙々と食べ続けたためこのありさまだ。
もちろん情報収集もちゃんとできた。ノア君がきっかけを作ってくれたから、お礼がてらデキャンタを持ってお酒を注いでまわり、色々な話を聞かせてもらった。
「明日はどうしようか? いくつか良さそうな狩場も教えてもらえたし、そのどこかに行ってみる?」
今日食べた獲物がいそうな場所はお客さんたちに教えてもらえた。地図がないから正確な場所が分かるわけではないけれど、ルゥとパステルには十分な情報だったらしい。
「時間があれば午後から行ってみるのもいいな」
「午前中は何をするの?」
「ノアの装備を整え、森に籠る準備だな」
えっと……ルゥ? 私たちって森に籠るの? なんで?




