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行政区の外れ、商業区と冒険者区との境にある教会から、私たちは冒険者ギルドを探しに歩き始めた。
冒険者区の街並みは住宅街や宿屋街に近い。とはいえ、王都のそれよりも武器を携えた人が明らかに多く、どこか物々しい雰囲気をひしひしと感じる。
「にゃはは~。お嬢、町中で緊張しても仕方ないにゃ」
からからと笑ってそう言ったのは、頭の後ろで両手を組んでいるパステル。初めて感じる街の独特な気配に呑まれかけていた私が馬鹿に見えるほど自然体な彼女の姿に、肩の力が抜けていく。
「そうね。同僚になるわけだし」
「商売敵でもあるけどにゃ~。まあ、いきなり斬りつけてくる輩なんていないから、安心していいにゃ」
パステルは腰に差したショートソードをぽんぽんとたたいた。ルゥとパステルならいきなり斬り掛かられたとしても、なんとかしてくれそうな気もする。私がそんなことを考えていると、すぐ隣からノア君とルゥの声が聞こえてきた。
「冒険者って仲が悪いの?」
「大規模なクランなどでは依頼の受注で諍いになることもあるが、基本的には協力関係にある」
「他の人と一緒に魔物を狩ったりすることもある?」
「要請がない限り、狩りは不干渉が原則だ。緊急事態と判断した場合は介入できるが、介入した側に報酬を請求する権利はない」
「それで助けに行く人っているのかな?」
私もノア君と同じことを考えていた。狩りは命の危険を伴う。完全に善意だけで助けに行く人がどれだけいるのだろう。
「冒険者は金と名声を求め、恥を嫌うにゃ。だから暗黙のルールがあるのにゃ」
「「暗黙のルール?」」
私とノア君の声が重なった。視線が合い、顔をぱっと伏せるノア君。パステルはにまにましながら、私たちの問いに答える。
「助けられた側が行きつけの店で一杯奢るのにゃ」
「えっ、それだけ?」
ノア君は伏せていた顔を上げて驚いた様子で尋ねた。パステルがさっき言っていたことからすると……。
「……助けた側は名声を得ることができるし、助けられた側は恩知らずのそしりを受けずに済むということかしら」
「そういうことだにゃ。確かに私達は粗野だけど、粗暴じゃないんだにゃ」
パステルはそう言って頬を膨らませた。ん? 何で怒ってるの? 粗暴じゃなくて粗野? ……あ、さっきのフィーナ先輩の言葉にちょっと怒ってたんだ。
パステルの頭にそっと手を置き、大きな耳の付け根を軽くマッサージするように優しく触る。彼女は気持ちよさそうに表情を緩め、うっすら漏れていた殺気をすぐに霧散させた。
ペット扱いしているようで最初は抵抗があったけど、グルーミングの要求は獣人族からの信頼の証らしく、二人に対してはもう慣れたものだ。それに、喉を鳴らすこの姿見たさに、つい触りたくなるのはしょうがないと思う。
……でもね、街中で男性を触るのは恥ずかしいの。後でブラッシングするからそんなに見つめないで?
横顔に突き刺さるルゥからの視線をのらりくらりと躱しつつ、歩くこと数十分──私たちは『冒険者ギルド・グランゼ支部・管理部庁舎』という看板を掲げた建物の前にたどり着いた。
「いらっしゃいませ~」
ドアを押し開けると、ウェルカムベルの音とともに若い女性の声が私たちを迎えてくれた。ルゥはカウンターにいる女性の元へまっすぐ進み、私たちも彼の後に付いていく。
「二名の登録を頼む」
「承知しました。登録手数料銀貨一枚をお願いします」
ルゥが外套の内ポケットに手を差し込んだ隙に、私はカウンターと彼の間に体を滑り込ませる。そのまま腰に付けた革袋をカウンターの前に置き、銀貨を取り出した。まったく、ルゥはすぐに私を甘やかそうとしてくるんだから。
「どうぞ」
「ありがとうございます。登録名と職業をお聞かせください」
女性はそう言ってにこりと微笑んだ。とっても可愛い笑顔に癒される。私は隠れるようにパステルの後ろにいたノア君の手を引いてカウンターの前に出させる。
「私は白魔導士のシェリィ、この子は召喚士のノアです」
「シェリィ様が白魔導士、ノア様が召喚士ですね」
「はい」
女性は驚いた様子で目を見開いたが、すぐに表情を戻した。私の白魔導士もそこそこ珍しけれど、召喚士はそれどころではないため、この反応で済ませられるのは彼女がプロだからこそだろう。
「……ちなみに後ろのお二人は?」
「銀級のルゥ、獣騎士だ」
「銀級のパステル、兇手だにゃ」
ルゥとパステルが銀色に光るプレートを見せながら端的に答えると、女性は流れるような所作で深くお辞儀した。
「銀級冒険者の方々でしたか。失礼しました。今後はグランゼで活動を?」
「ああ、しばらく腰を据えるつもりだ」
「ありがとうございます。プレートに刻印して参りますので、あちらでしばらくお待ちください」
冒険者の序列は鉄、銅、銀、金、ミスリルの順に高くなり、銀級となれば一目置かれるようになると聞いたことがある。彼女の反応はまさにその通りで、上客を相手にする店員のようだった。それでも、私たちに視線を戻して説明したことには好感が持てる。
十分ほど待ち、私とノア君はドッグタグのような鉄製のプレートを受け取った。ギルドの説明は不要とルゥが断り、私たちは外に出る。
「中途半端な時間だけど、これからどうしよっか?」
「決まってるにゃ。まずは酒場で情報収集だにゃ」
これから十二年間もいる訳だし、情報は大事だよね。お腹もすいたし、グランゼ名物も食べてみたいな。




