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1-19

 その後、私たちは来年の春にまた来ることを約束し、村長宅を辞した。預かってもらっていたベッセルたちに跨り、村人方に見送られながら村を出る。なお、ノア君は後ろを気にしながら、私の前にちょこんと座っている。


「さて、村を無事にでることができたが……どう出るか」


 村からある程度離れたところで、ルゥがそう呟いた。


「え? まだ不安なことがあるかしら? 長老様はぜひ来年もと言ってくれたじゃない」


 魔力ポーションをお返ししたことで、もうこの村には来ないつもりだと勘違いされてしまったけれど、ベアト君が魔導具を修理できるまでは毎年来ることを伝えたら涙を流して喜んでくれたのに。


「お嬢の引きが強すぎたにゃ。錬金術師がいれば、ポーションのことも職業のこともどうにでもなるにゃ。村の秘密と恥部を同時に闇に葬れるチャンスは今しかないにゃ」


「そんなまさか。パステルは疑いすぎよ」


 そう言いながら声がかかった方に視線を向けると、パステルはにやにやといたずらそうな笑みを浮かべていた。まったくもう、からかってるだけなのね。 


「にゃはは、護衛は最悪のことを考えて準備するものなんだにゃ。もしそんな意見が出ても、トラヌスのおっちゃんが上手く取りなしてくれるにゃ」


 パステルはそう言ってからからと笑った。ノア君の家族のような人もいたけれど、私たちの偽りない気持ちは長老方や村の皆さんに伝わってると思うからきっと大丈夫だよ。



 村を出て数時間後──とある約束のため、私たちは最初の迂回路がある川辺で人を待っていると、ルゥとパステルがほぼ同時に村の方向に耳を向けた。


「来たな。気配は……二名だけだ」


「だにゃ。ちゃんと約束を守って感心にゃ」


 二人の言葉に続き、森の中から武器を持った者たちが出てくる。


「ノア!」


「ベアト!」


 お互いに駆け寄り、抱き合うノア君とベアト君。その後ろから、手を上げたベアーズさんが近付いてくる。


「すまねえ。遅くなった」


「問題ありません。ちょうど食事の準備もできたところです」


 待っている間にパステルに頼んで獲ってもらった魚もいい具合に焼けている。昼食のついでに、ベアト君とノア君のお別れ会だ。


「お、いいマスだな。しかし、別れなら村の中でやりゃいいだろうに……」


 ベアーズさんはどこか納得のいかない表情でそう言った。ベアーズさんとしては当然よね。わざわざ魔物がいる魔の森でする理由なんて普通はないし。


「ごめんなさい。どうしても村の中ではできないことがあり、ベアト君と一緒のときがいいと言ってくれたので」


「おじさん、ごめんなさい」


 私の横に並び、頭を下げるノア君。ベアト君まで一緒に頭を下げているのが微笑ましい。それに、こんなちょっとした我儘を言ってくれるって何だか嬉しいもの。


「まあ、息子の友達だからな。いったい、何をするって言うんだ?」


「ノア君の本当の職業は聞きましたか?」


 ベアーズさんは驚いた顔でノア君を見る。ベアト君が話していないのであれば、彼もノア君の職業を【農民】だと勘違いしてるんだから仕方がないよね。


 私はベアーズさんに召喚士について説明し、ノア君の背中にそっと触れる。急に触れられた彼は身体を震わせるが、私だとわかると力を抜いて笑ってくれた。


「ノア君、いける?」


「ほんとに上手くいくかな?」


「ええ、きっと上手くいくわ。心配なのは魔力不足だけど、その場合は私の魔力を分けるから安心して」


 ノア君が安心するように微笑みかけ、彼に触れた右手に魔力を集める。久しぶりに使う、自らの魔力を対象に譲渡する白魔法【天使の息吹(アナイメア)】。触れてないと使えないけれど、服一枚くらいなら問題ない。


 目を閉じたノア君は、何かに集中し始める。おそらく、【召喚士】の声を聞いているんだろう。はっきりと教えてくれる訳ではないけれど、力の使い方がなんとなく分かるのはとても不思議な感覚だ。


「えっと……召喚するには何か捧げる物が足りないみたいです」


 召喚魔法のことは詳しく知らないけれど、ゲームの定番だと貴重な素材や魔石かしら。


「じゃあ、これは使える? イラトゥスエルクの魔石よ」


 差し出した魔石をノア君が受け取ろうとしたとき、パステルから待ったがかかった。


「お嬢、わざわざ初陣の記念を使わなくても私が持ってるにゃ」


「どうしたのこれ?」


「この前遊びにいったときに、魔石だけ取ってきてたのにゃ」


 パステルが出したのは小さな魔石が十個ほど詰まった革袋だった。彼女は、それをノア君に押し付けるように手渡す。


「……パステルさん、いいの?」


「弟分の門出のお祝いだにゃ。景気よく全部使うにゃ」


 ノア君の頭に手を置き、口をにぱっと開けたパステルはからからと笑う。髪をぐしゃぐしゃにされ、最初は戸惑っていたノア君だったが、最後には嬉しそうに微笑んでいた。


 受け取った魔石を地面に並べ、ノア君は再び目を閉じる。触れている右手を通して、彼の魔力が放出されていくのが分かり、私は【天使の息吹】を発動させて彼に魔力を送り込む。



 ……初めての魔法なのにまだいるのかな?


 十分ほど経っただろうか。私が送り込めば送り込むだけ、ノア君はその魔力を目の前に構築された魔法陣へと注ぎ込んでいた。


 えっと、もう解除した方がいい……あ、もっといるのね。


 私が誰でもない何かの意思に従ってさらに魔力を送り込むことしばらく、ついに魔力の放出が終わり、魔法陣が輝きを放ち始めた。


 まばゆい光に目を瞑り、恐るおそる目を開けた私たちの前に現れたのは──


「これは……」

 

 ──石で作られた巨大な身体を持つ魔導生命体【ゴーレム】だった。


「えっと……どうすればいいの?」


 三メートルはある巨体を見上げ立ち尽くしていたノア君が、縋るような視線を私に向けてくる。


「詳しくは私も……とりあえず、自己紹介してみたらどうかしら」


「僕は、ノア、です。あなたのお名前は?」


 ノア君の呼びかけに、ゴーレムは首を横に振って答えた。よかった、とりあえずノア君の言葉は通じてるみたい。


「名前を付けてあげたらどうかしら」


「えっと、じゃあ……アシュレって名前はどうかな?」


 ノア君が名付けた瞬間、それまで微動だにしなかったゴーレムが動き始めた。ゴーレムは巨体を揺らし、手足を振り回す。ほぼ同時に浮遊感を覚えた私は、ルゥから抱きかかえられていた。


 パステルがノア君を、ベアーズさんがベアト君を抱えて距離をとった私たちは、ゴーレムを遠目に眺める。その様子を見ていた私の口から、ぽつりと言葉がこぼれた。


「……踊ってるの?」


 無機質なはずのゴーレムの動きは、昨日見た村人たちの踊りとどこか似ている気がしていた。


これで一章が終了です。

次話では、この後の振り返りを書きつつ、シェリィたちがいよいよグランゼに到着します。

第二章もお楽しみいただけると幸いです。


まるぽろ

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