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聖女ものが書いてみたくなって書いてしまいました!

少しでもお楽しみいただけたら幸いです。

「『シェリィ・ベルナールにグランゼにて12年間の奉仕活動を命じる』──か。結局、陛下も性悪女の嘘を見抜けなかった訳ね」


 3日前、王の御前で秘密裏に行われた査問会。いじめ、脅迫、私刑、賄賂、淫行、読み上げられる身に覚えのない罪状の数々──その結果がこれ。


「シェリィ、なんでこんなことに……」


 お母様が私を責めるでもなくそう言って縋りついてくる。あれからずっと泣いているのだろう。赤く腫れたまぶたが罪悪感を抉り、胸がぐっと締め付けられる。


 でも、泣いてはダメだ。こうなる可能性が高いことは分かっていた。陛下までひっぱり出してくるとは想定していなかったが、こうなったきっかけはあの女の悪事をしたためた一通の訴状を送ったことだから。


「お母様、私は──」


「──黙りなさい!」


 お父様が通達書を握りつぶし、顔を真っ赤にしてがなり立てた。


 こんなに激昂しているのを見るのはいつ以来だろう。……陛下の御前で娘が非道な悪役令嬢だとされたらそれも当然か。


 御前ではほとんど発言を許されなかった。あの場で無理に発言し、不敬罪やら侮辱罪まで上乗せされることは避けなければならなかった。でも、お父様にはちゃんと話しておかないと。


「……黙りません。査問会でも釈明した通り、私は何一つしておりません。それらは神に仕えるにも関わらず、いつもやたらと胸を強調する服を着ているあの女がやったことです」


「シェリィ、穢れ無き聖女様に対して何たる言い草だ」


「穢れ無きとは? まさか、お父様もあの色ボケ女のことを信じた訳ではないですよね?」


「御前で純潔を示した聖女様に、よくもそのようなことを……」


 純潔を示したって……マザーアンナがスカートの中に潜り込んで処女膜を確かめるっていう、あのいかれたパフォーマンスのこと?


「あの場に肝を冷していた者がいたのも知らずに呑気なものですね。マザーアンナが検める際、おどおどと挙動不審な姿は滑稽でしたよ」


 それに、あの女が出したわざとらしい嬌声。明らかな演技に、ゲスな目を向けてにやつく男ときたら……。


「馬鹿なことを言うな。どこにそんな態度を取る理由がある」

 

「ありますよ。あの場にいた男の中には、『自分が聖女の純潔を散らした』と思っていた輩もいたのですから」


「純潔を確かめたマザーアンナのことも信じられないのか?」


 いやいや、むしろマザーアンナが一番信じられないって表情だったじゃない。


「マザーアンナのことは信じています。しかし、関係を持ったすぐ後に自慢の回復魔法で治しているとあの女が言っていたのですよ。それで皆が純潔を信じたと」 


「そんな秘密があったとして、なぜ聖女様がお前に言うのだ? わざわざそんな弱みを言う理由がどこにある」


 よく分からない自慢でマウントを取ってくる奴って意外といるのよ……って言ってもお父様には分からないわよね。


「あの馬鹿女は勝ち誇った顔をしていましたけど、後ろめたいことがあるものたちは疑心暗鬼に駆られていますよ。彼女と寝たのはなんだったのかとね」


 それに、査問会が開かれることになった以上、教会や国の広告塔である聖女に勝つことなど初めから期待していない。


「相手は聖女だぞ? あの場にいた要職にある貴族が手をだす訳がないだろう」


 ああもう、序列五位のくせに側室ももたないし、お母さま一筋のお父様はこれだから! 相手が聖女と呼ばれてる女だからこそ、危ない橋を渡ってでも関係を持ちたいって思う貴族なんてそこら中にいるのに。


「でもこの話が事実だとしたら? 国の要職に付いている方々が一人の女を取り合ったら、大変なことになると思わない?」


「聖女様が『傾国』だと?」


「その通りです。学園時代のちゃちな嫌がらせとは違い、最近は明らかに度を越しています。嫌な胸騒ぎが止まらないの」


「証拠はないのだろう」


「ありません」


 カメラかボスレコーダーでもあればいくらでも証拠は揃えられたけど、この世界にそんな便利なものはない。


 私の真意を探るように、お父様はじっと私の瞳をのぞき込んでくる。私が目を逸らさずに見つめ返していると、やがてお父様は首を横に振った。


「…………胸騒ぎで人は裁けん。ここでいくら話しても仕方のないことだ。シェリィ、明日の朝にはここを発ちなさい」


 やっぱり、なんの証拠もない私がいくら吠えても信じてはもらえないか。お父様は他人の悪口を言うのを嫌うから、見放されちゃったかな。


「今まで育てて頂いた御恩は生涯忘れません」


 肩を落として部屋を出ていく父の背中に、そう声をかけることしかできない自分に吐き気がする。いっそ、全てを打ち明けられたらいいのに。


「シェリィ……」


「お母様、心配しないで。私は大丈夫。それに、良かったじゃない」


「良かった?」


「あの様子だど、お父様はあの女の毒牙にかかっていないわ」


「馬鹿っ! 貴女は自分がこれからどんな辛い目に合うかわかってるの!?」


 軽口を叩く私の肩を掴み、お母様が赤く腫れ上がった目を剥いた。


「わかっていないわ。でも、ちょっとだけ楽しみなの。私、小さい頃は幼稚園──いえ、孤児院のシスターになりたかったのよ。グランゼの文化省支部には孤児院が隣にあるんですって」


 お父様が政務次官を任されている文化省。その辺境支部に娘の私が送られるなんて思ってもみなかった。お父様はこれからどんな気持ちでグランゼからの報告書を読むんだろうか。


「シェリィ……12年、12年も辺境の地にいなければならないのよ? そしたらあなた30になっちゃうじゃない」


 12年……そういえば、妙に罰が軽い。あの罪状なら投獄や姓を取り上げて放逐するとか、もっと重い罰が妥当なはず。つまりは……陛下もあの女の全てを信じた訳ではない?


「何を笑ってるの!」


「少しだけ希望を持ってもいいのかと思って」


 それに、これは私が待ち焦がれた王都の外に出る機会でもあった。


「迷惑をかけてばかりでごめんなさい」


 そういう意味では、私は賭けに勝った──これから家族にかかる多大な迷惑というチップと引き換えに。それでも、私は外に出て何かを成さなければならなかった。


 それが、私に『祝福』というギフトをくれた女神様との約束だったから。

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