29話 勇者もいろいろ外道でした
うわぁ......前あった時とは雰囲気が全く違う。大樹の裏に隠れているけど......ひしひしと伝わってくるよ。それよりも、自分はエルフの森が本当にあった事に驚いてる。
「なんでついて来た! 見つかったら確実に殺されるぞ」
この魔王様が逃げる準備を怠ってるとでも言いたいのかな? その辺はバッチリだ。
「魔王さんよ。いざとなったら逃げてくれよ」
「やあやあ。君がここにいるのは分かっているよ。さっさと出てきたまえ」
「言われなくても出てくるさ。例の物持っていたぞ」
まるで自分が犯罪現場を見ているかのような状況になっている。500万を例の物と言うのがまた......
ていうか、本当に魔王城にズカズカ入ってきた子供勇者か? 筋肉モリモリ身長が高い。初めてあった時の面影が全く無い......
「ほう......本当に10億持ってくるとは。やはり勇者殺しの犯罪者は殺さなきゃか......」
殺す!? は? 殺す!? あいつまさか......最初から殺す気だったのか!?
「お前が持ってきた金は全部盗んだ物でしょ。やはり魔族は漫画の通り野蛮な生き物だな。まあ......この金はお前を殺した後に、王国に帰って、麻雀やカジノ、さらにポーカーの軍資金や、女を抱く用の金として使う。さあ、この世にお別れを告げる準備は出来たか!」
まあ......全部盗んだわけじゃないとは思うけど、大方略奪した金ですね。ていうか、この金を賭博に使う気か? この勇者。必死にみんなが集めた金を遊ぶためだけに......厨二野郎! ちょっと言ってやれ!
「すまねぇ魔王さん......闇は光には勝てない。殺される......確実に殺される......」
厨二野郎!? 脱水症状が出るくらい汗を出して怯えている!? なんだこれ? こんな厨二野郎は見たことが無い。
「そこの木に隠れているお前。そこにいるのは分かっているよ。出てきたまえ」
バレてる。ヤバイ......どうしよう。戦ってもすぐに消し炭になるのがオチだ。なんとか口話術でなんとかするしか......やるぞ。
「フフフ......初めましてかな? よくここがわかったね」
「お前はあの時のまおーーさん!? どうしてここに!?」
「違う! わ......ワシは前魔王の1000子ミチル•クジャンですね」
ゴメン。ミチル兄さん。ひきこもりのニートだから殺られる心配が無いと思っちゃって......咄嗟に偽名として使っちゃった......
「違うのか......凄い瓜二つだな。まるで双子みたいな......それで前魔王の子供が何しに来た?」
ああ......その後のこと考えてなかった。どうしましょうかね。どうやってこの状況を乗り切ろうか......
「そう身構えさんな。旅の人よ。なんで人間である君がここにいるのかな?」
「俺がただの人間だと思うか? いいや違う。俺は神に選ばれた天才勇者だ!」
天才ならなんで私が魔王ということが見抜けないんですかね......強さは本物だけど間抜けだろ。
「神に選ばれた? どういうこと?」
「おしゃべりが過ぎてしまった。これは秘密だ。それでなんであんたがここにいる。何しに来たんだ?」
え......えっと。どうしよう話そうかな。勇者が気を許そうな言葉を選ばないと......
「わ......ワシはな人間達と仲良くしたい。魔界反乱派の魔物デズ。たまたまエルフの森を通りかかったら勇者がいたので声をかけた次第でございまする」
「へーー。確か前世の記憶にあったな。魔物と協力して魔王を討ち倒すの......まさか俺に魔王討伐を手伝ってほしいのか?」
前世の記憶? そういえば神に選ばれたと言っていたな。ナルシストかな? 後で一応プリケンに聞いてみよう。
まあ......いろいろ気になる所はあるが、自分の話を聞いてくれる奴は多分そんなに悪い奴じゃないかもしれない。魔王討伐はダメだが......とりあえず厨二野郎を助けよう。
「いいや。今回は違う。そこにいる厨二野郎の命を奪わないでほしい。あいつとは旧来の仲だし」
厨二野郎は泡を吹きながら白目を剥いて倒れている。よほどこいつがトラウマなんだろうなぁ......
「え? あの犯罪者を? 助命ってことか? いいやダメだ」
だよね。なんとなくダメだと思ってた。厨二野郎が人類にやってきたこと(財産を略奪•勇者100人殺し)擁護できないもん。でもせっかくの四天王だし......どうにかなりませんかね。
「そうだ! なら一つ有益な情報と交換ならどう?」
厨二野郎との交換条件。てかもうこいつに10億支払っているから完璧に不平等だがな。
「情報ねぇ......魔王の身内ならなんか絞り出せそうか。なら魔王の強さ、性別、性格は?」
......はい? 情報......。え?
「夢だったんだ! 世界中の女を喰らい、美味い物を食い美味い酒に酔う。それは魔王だって例外じゃねぇ! 絶対に女だろ! さあ早く教えろ!」
自分は男なんだけど......いやまあ男っぽくない顔だとよくみんなに言われるけど......ええ......。こんな人間見たことがない。
ていうか確実に自分を狙っているよね、この勇者。なんなんだこの近年稀に見るド変態は。別の意味で命の危機を感じるよ......。本当にアレと同一人物か? いや多分違う。
「おーーい。早く教えてくれ。個人的に気になってたんだ」
「な、なんでそんなことを聞く?」
「ああ......少し話が長くなるが、少し前に魔王城に侵入したことが始まりだった」
この勇者が言うには魔王城に侵入する際勇者とバレないように子供になる魔法をかけていたらしい。最初は魔王を殺すつもりだったが、いざ行くと突然頭が真っ白になり口調がカタコトになったもよう。それで結果的に厨二野郎の居場所を聞き出す活動だけにとどまり、ズコズコと帰ってしまったらしい。
なんか思ったより複雑な状況になってんな。どうしてこうなった......。どう見てもおかしいでしょ。魔族と人間だし、男だし......。もうめんどくさいからホラを吹きまくるか!
「で、どうなんだ? 魔王の情報は! これだけ話したんだ。もちろん提供してくれるよな!」
「その前に! 情報を提供したらそこにいる厨二野郎の命を奪わないんだよな? 一応確認しとく」
「もちろん! さあ早く!」
「はいはい......魔王様の性別は女ですねーー。それはそれはとても強くてわた......ワシでも敵わないくらいですーー。さらに魔王様は気性が荒くてですねーーあんたでは手懐けるのは無理でしょうねーー」
まあ......自分男だし、厨二野郎に勝てるかわからないくらいに弱いし、気性は荒い方ではないでしょ。これで勇者が勝手に想像して、ドン引きしてくれるといいが......
「ほう......なかなか難しい女だな。落とすには少し時間がかかりそうだな。 そうだ、前魔王の子供! 魔王に忠告しといてくれ! 俺は絶対あんたを落としに行く! 絶対になぁ! よし、あんたありがとな! 魔界は案外悪い所でも無さそうだ! そんじゃあな!」
え......? 嵐のように去っていったけど......え? さっきの私の発言......思いっきり裏目に出てる!? なんで......は! まさか性別は女と言ったから?
まあいいや......この件は帰ってから考えよう。とりあえず厨二野郎を担いで魔王城に帰るか。
◇◇◇◇◇◇
次回に続く
投稿ペース上げていきたい




