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きみと桜の木の下で  作者: 花音
第5章  バトル大会編
91/230

第90の扉 決定戦の裏側

※怪我人が出ます。ご注意ください。

※※※※


「勝者、相原翼!!!」


 会場からは割れんばかりの拍手と歓声が響く。歓声の中、どこか遠くの騒ぎのように聞きながら僕は呟いた。


「勝ったの……」


 大きな歓声が僕を包み込む。解説の人もマイクを握りしめて、興奮気味に何やら話していた。

 勝ったんだ、僕が。


 僕の胸の中に熱い感情が沸き起こる。ぐっとそれを飲み込んで、ぎゅっと握りしめた拳を天に掲げた。ひと際大きな歓声が再び僕を包み込んでいく。

















「はぇ?」


 トーナメント表を見て、僕は目を見開く。一体何が起こっているんだ?

 僕の参加したブロックはBブロック。この後、Aブロックを勝ち抜いた勝者との対戦が待っているはずだ。


「どういうこと?」


 僕は目をゴシゴシとこすり、もう一度トーナメント表を確認する。しかし、目の前の事実は変わらない。見間違いではないようだ。



【相原翼、不戦勝。決勝戦進出決定】



 Aブロックの勝者がいないってことだよね? Aブロック代表戦には桜木さんが挑んでいるはずだ。僕の試合の前に颯くんが教えてくれた。

 それなのに、勝者がいない……?

 彼女の身に何か起こったのか? 無事なのか?



「ふ、俺が教えてやろう」

「彬人くん!」


 焦る僕が振り向くと、壁にもたれてかっこよくポーズを決めている彬人くんがいた。


「そう、事件はAブロックの第2試合……」




_____________





 彬人は1回戦で優一に負けてしまったため、自由に他のメンバーの試合の観戦をしていた。彼がAブロックに足を運ぶと、丁度美羽が試合を行う時だった。

 緊張の面持ちで会場内に立っている美羽。その様子を彬人は観客席から眺めていた。


「お隣よろしいですか?」

「む、太陽か」


 観客席で座っていると太陽が話しかけてきた。太陽も途中で負けてしまったので、他のみんなの試合を観戦していたようだ。二人仲良く試合を観戦することとなった。




「ここで勝ったら、次の試合は風ちゃんとだね」

「美羽ちゃん、頑張ってね」


 風花は緊張している美羽を励ます。彼女は無事第3試合へと駒を進めていた。美羽が次の戦いに勝てばAブロックの代表決勝戦で二人は戦うことになる。


「よし!」


 美羽は風花にグッと親指を立てて、競技会場へと向かっていった。




【Aブロック2回戦第2試合 横山美羽 VS パルト】


「……」


 美羽は対戦相手であるパルトの姿をとらえると、一気に緊張が上昇した。彼は何やら不気味な雰囲気を纏っている。その顔には不敵な笑顔を張り付けて。その威圧感、禍々しい気配は京也を彷彿させる。

 パルトは普通の人間のようだ。しかし、脅威的な身体能力を持つ。彼は第1試合の巨人相手に、頭までジャンプで飛んでいき倒していた。

 美羽は恐怖を押しのけるため、ぐっと拳を握った。


「試合開始!」


 審判の声が響く。美羽の緊張はピークに達していた。そして、審判の声と同時にパルトの空気が一瞬にして変わる。


「!?」


 先ほどとは比べ物にならないくらいの威圧感。ギロリと鋭い視線が彼女を射抜いた。その視線に美羽がたじろいでいると、パルトが動く。


「え?」


 パルトは一瞬にして美羽との距離を詰めてきた。突然の相手の行動に、美羽は構えることができず、鋭いパルトの一撃が、彼女の喉に炸裂する。


「ゲホッ、ゴホッ」


 咳とともに真っ赤な血が美羽の口から流れ出る。パルトは素手で美羽の喉を抉ったのだ。彼の手に真っ赤な血がついている。パルトはそれを観客によく見えるように掲げた後、ペロリとなめる。観客たちからは悲鳴が上がった。



「……血に捕らわれし者」

 訳)吸血鬼でしょうか?

「そうかもしれませんね」


 観客席で観戦していた彬人と太陽が、パルトの正体に気がつく。

 吸血鬼はその見た目はごく普通の人間とそう変わらないが、身体能力が極めて高い。素手で喉を抉ることができたのもそのためだ。そして、吸血鬼は闇に潜むことが多い。その闇の雰囲気が京也と似た雰囲気を感じさせていたのだろう。



「ゲホッ」


 美羽は一通り血を吐き出すと、反撃しようと立ち上がる。相当の激痛が彼女を襲っているようだ。立ち上がった足取りは今にも倒れてしまいそうなほど、不安定。それでも杖を構えて、呪文を唱えようと息を吸い込んだ。しかし……


(声が、出ない……)


 美羽がパクパクと口を動かすも、その口からは何も聞こえない。そして息を吸いこんだ時、また強烈な痛みが彼女を襲った。


「ゲホッ、ゴホッ」


 咳と共に真っ赤な血液が美羽の口からあふれ出る。喉を焼かれているかのような苦痛が、彼女を襲った。

 美羽がもがき苦しんでいる様子にパルトはにんまりと笑い、彼女に向って突進していく。彼の手にはキラリと光る短剣が。


(なんで……)


 今の美羽は声帯が潰されている。最初のパルトの一撃が抉ったのだ。しかし、混乱する美羽の頭ではそのことは考えられない。声が出ない恐怖と、目の前に迫ってくる敵でパニック状態は加速する。


「……っ!」


 美羽はパルトの剣を間一髪で防いだ。魔法を繰り出すことができないので、杖を当てて攻撃を防ぐしかない。しかし、パルトの攻撃の威力が強く、防いだと同時杖を遠くへ弾かれてしまった。


(まずい!)


 美羽は杖を拾おうとするが、その手をパルトが掴み、杖とは反対側へ彼女を放り投げる。地面に背中を擦りつけて、滑って行った。痛みに耐えながら起き上がろうとするが、パルトが彼女の体の上に馬乗りになって行動を防ぐ。

 


 そこからの惨劇に観客は目をつむった。



「っ!?」


 パルトは美羽の右腕を掴み、本来曲がるはずもない方向へ曲げた。何の迷いもなく、いとも簡単に。

 美羽は痛みに声をあげようとするが、声帯を潰されているためその声は悲鳴にならない。声にならない悲鳴が会場内に響き渡る。


「ぅ……ぁぁ!」


 次に美羽の足に手をかけた。ゴリッと骨が砕ける音がする。ペキッと腱が引きちぎられる音がする。観客はあまりにも残酷すぎる仕打ちと、むごすぎる音に耳を塞いだ。


「……」


 パルトはにんまり笑顔を張り付けたまま、攻撃の手を緩めない。美羽の無傷の左腕だけが彼を力なく叩くが、それもお構いなしで、痛めつける。

 体に何回も何回もパルトの強烈な拳が振り下ろされた。内臓が傷ついているのだろうか。彼女の口から血液が流れ出る。美羽の体はボロボロ、辛うじて意識があるような状態だ。


「ちょ、ちょっと」


 審判が仲裁しようと二人の元へ駆け寄た。このままでは美羽は殺されてしまうかもしれない。あまりにも残酷でむごすぎる。


「殺さなければいいんだろう? こいつは降参って言ってないぞ?」

「え、と」


 パルトが笑いながら言い放った言葉に、審判が戸惑いの声をあげる。

 確かに美羽は『降参』と言っていない。声が出ないのだから言えるはずもないのだが。そして、美羽にはまだ意識はある。パルトがわざと残した無傷の左腕で抵抗している。『戦闘不能』と言える状態だろうか。


「続けていいってことだよね?」


 審判の動きが止まっている間も、残酷な攻撃は美羽に降り注ぐ。そして、審判に見えないようにパルトは短剣を構え、不気味に瞳を光らせる。


「バイバイ」


 とどめをさそうとパルトの放った攻撃は、一直線に美羽へと振り下ろされた。



 グサリッ



 観客は目の前で起こった出来事に沈黙した。


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