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きみと桜の木の下で  作者: 花音
第5章  バトル大会編
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第83の扉 仲間 VS 仲間

 翼と颯が自分のブロックへと向かい歩いていた時、Dブロックの試合会場では戦いが始まろうとしていた。



【Dブロック 1回戦第3試合 坂本太陽 VS 佐々木結愛】


「およよ? 一回戦から仲間と戦うのか」

「お手柔らかにお願いしますね、結愛さん」


 太陽は結愛ににっこりと微笑む。その笑顔を見て結愛もにっこりと微笑み返す。太陽の笑顔は普段と全く変わらない。これから戦いが始まるということも、全く感じさせない笑顔だった。


「それでは、試合開始!」


 審判の声が会場に響く。それと同時に太陽が腰の剣を抜いて構えた。今日の彼は普段の燕尾服ではなく、風花と同じ白色の魔法衣装。風でひらひらと、彼のローブがはためいていた。

 太陽はいつも細身の長剣を腰に刺している。普段は扉魔法を使い、異世界への冒険をサポートしてくれる彼だが、剣術は月の国のひかるも認めるほどの腕前。


「っ!?」


 結愛は剣を構えた太陽の表情を見て固まる。彼に先ほどの柔らかい雰囲気は一切なく、すさまじい威圧感が結愛を襲った。じっとりと結愛が杖を握る手に、汗が滲む。しかし、ここで怯んでいては実戦では使い物にならない。

 グッと杖を力強く握りなおし、結愛は呪文を唱える。


grand(グランド) shot(ショット)!」


 結愛は土の塊を何個も何個も太陽に放った。しかし、太陽は余裕の顔でそれらすべてを剣でさばいていく。結愛は手加減抜きで攻撃を放っているのだが、土の塊が彼に命中しない。彼の白い服を汚すことさえ叶わない。

 

「うっひょー」


 変な声を出しながらも、結愛は太陽の強さを改めて思い知る。今まで彼が戦闘に参加することは少なかったが、かなりの強さだ。自分の攻撃が全く効いていない。


「こちらからも行かせていただきますね」


 ニコリと笑った太陽が剣を振ろうと上に構える。鋭い目で結愛を射抜いたままに。彼のその動作、構えには一瞬の隙さえも見えなかった。結愛を更なる緊張感が包み込んだ。


「っ……grand(グランド) shield(シールド)!」


 彼の威圧に固まっていた結愛だが、シールドを展開して防御の姿勢を固める。彼女の前に分厚い土の盾が作り上げられた。結愛はこれから訪れる衝撃に備えて、腕にしっかりと力を込め、足を踏ん張る。


「よいしょっ!」


 結愛が盾を構えると同時に、太陽が思いっきり剣を振るった。びゅん、とものすごい風圧が繰り出され、結愛の後ろの観客席でも悲鳴があがる。


「っ! 一振りしただけでこの威力なの!?」


 結愛は足で踏ん張りながら太陽の攻撃に耐える。その威力はすさまじく、ズズッとだいぶ後ろに下がってしまった。


「ふぅ」


 それでも結愛が何とか耐えきり、盾の横からひょこっと顔を出した。太陽の様子をうかがうと、何やら困ったような顔で彼女のことを見つめている。結愛は疑問に思いながらも次の攻撃を考える。

 剣を一振りしただけであの威力。盾を持っていた手はびりびりと痺れてしまっていた。そう何度も食らっていてはこちらの体がもたない。しかし、太陽はあれだけの攻撃をしたにも関わらず、全く疲れている気配を見せない。どうやったら彼に勝てるのだろうか。

 結愛がくるくると頭の中で思考を巡らせていると、審判が宣言する。


「佐々木結愛選手、場外。坂本太陽の勝利!」

「およ!?」


 結愛が自分の位置を確認すると、思いっきり場外に吹き飛んでいた。先ほどの太陽の攻撃で追いやられてしまったらしい。審判に言われるまで気がつかなかった。


「ありゃ、出ちゃった。えへへ」







 一方その頃、Cブロックの会場では


【Cブロック 1回戦第4試合 成瀬優一 VS 本城彬人】


「ふ、負けても恨みっこなしだぞ」


 彬人はなぜかくるくると回転し、得意げな表情を貼り付けていた。彼が得意げな理由、それは彼らの魔法の相性である。


「相手が俺とはついていないな、優一」


 彬人の属性は自然、対して優一は水。属性だけで考えれば彼の言う通り、彬人に分がある。彼は余裕の表情を浮かべているのだが、その表情が優一の神経を逆なでた。


「足元すくわれても知らねーぞ?」

「ふ、やれるものならやってみるがいい。ふはははははは!」


 彬人は全く動じず、魔王のような笑いで返す。更に優一の苛立ちが募っていくことに、この時の彼は気がつかない。


「試合スタート!」


 そんな中、彬人の笑い声を遮って開始の合図が上がる。


「飲み込め、flood(フラッド)!」


 開始の合図と共に、優一は大量の水を出現させる。濁流となり彬人の元へ襲い掛かっていった。


「ふ、この程度の水、俺には効かん。leaf(リーフ) shield(シールド)!」


 彬人は葉の盾を作り出して防ぐ。葉が水を左右に弾いて彼の後ろに流れていった。葉が水を弾いてしまうので、大してダメージを負っていないように見える。


「ふはははは!」


 彬人は調子に乗って、再び魔王のような笑い声を響かせていた。その様子に飽きれながらも、優一は手を円を描くように動かす。高笑いをしている彼はその動きに気づけない。

 すると、優一の手の動きに合わせ、彬人の後ろに流れていった水が戻ってくる。くるくると彬人の足元に渦を作り始めた。


「む?」


 彬人が気づいたときにはもう遅い。渦巻きは彬人の足を持ち上げ、バランスを崩させる。そのタイミングで、優一は水が出ている自分の足元にぐっと力を込め、濁流の勢いを増した。


「うわ!」


 しかし、バランスを崩している彬人は盾をしっかりと抑えることができない。あっという間に濁流に押し流されてしまい、場外へとはじき出される。


「本城選手、場外。成瀬優一の勝利!」

「……不覚」

「な、足元すくわれるって言っただろう?」





※※※※


 油断してるお前が悪いんだぞ、彬人。

 悔しがる彬人をよそに俺は試合会場を後にし、トーナメント表を確認する。俺は第二試合に勝ち進んだ。その対戦相手はもう決まっている。


「成瀬さん」


 そう、目の前で微笑む、彼女だ。


「次の試合、お手柔らかにお願いしますわね」


 神崎うらら。彼女も一回戦を無事に勝ち上がった。


「お前とは一番戦いたくなかったよ」

「あら、光栄ですわ」

「……俺、お前のそういうところ嫌い」


 ほんと、こういうところだ。俺が戦いたくない理由は。


 こいつは頭がいい、すごくいい。それに加えて勘も鋭い。今までのこいつを見てきてもすごいなって思うことばっかりだ。鬼ごっこ戦からこの前の桜木の変化に対する対応まですべて。


 はぁ、憂鬱だ。


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