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きみと桜の木の下で  作者: 花音
第4章  本当の戦い
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第73の扉 水の国編その6

「騎士様……ご無事で」

「私は約束を必ず守ります」


 ふわりと降り立つ玲奈の手を取ったのは勝。負傷しているものの、命にかかわる怪我はしていない。カカシの言葉は玲奈の心を惑わすのための嘘だったのだ。


「本当に、良かった」


 玲奈は瞳を潤ませながら抱きつく。

 また騎士様に会えた。笑いかけてくださる、私を支えてくださる。この人となら私は歩いて行ける。


「無事で良かったよね」

「……うん」


 玲奈と勝の幸せそうな光景を見ながら、翼は風花に話しかける。しかし、風花は何やらぼんやりとしている様子。普段の彼女なら、キラキラと目を輝かせて柔らかく微笑みそうなのだが、今の彼女は無表情。瞳の中にも何の感情も映していない。


「桜木さん?」


 翼の声にも風花は反応しない。どうしたのだろうか。悩んでいると、彼の後ろから声がかかった。


「相原くん、すごく活躍してたね」

「やったじゃん!」


 翼の後ろには優一、美羽、一葉が。擦り傷程度の怪我を負ってはいるものの、彼らは無事。

 翼はニコリと微笑んでくれる美羽を見ると、目頭が熱くなるのを感じた。彼女が異変に気がついて対処してくれなければ、今頃自分は壊れていたかもしれない。翼はこみ上げてきたものを乱暴に手の甲でぬぐうと、美羽へとお礼を告げた。







「帰ってきたぞ!」「新しい巫女様の誕生だ!」


 玲奈が神殿の外に出ると、あっという間に囲まれた。汚染されていた水も浄化されており、水不足の危機は去ったようだ。国の人たちはニコニコ笑顔で新しい水巫女の誕生を喜んでいる。


「桜木さん、何かあった?」


 人混みから離れたところで、翼が風花に話しかける。風花のぼんやりはまだ続いているのだ。ニコニコ笑顔の水の国の人たちを見ても、その瞳に輝きが戻らない。何があったのだろうか。


「わっ!? 怪我してるじゃないか、大丈夫?」

「……うん、大丈夫だよ」


 翼が風花を観察していると、彼女の腕から血が流れているのが目に入った。傷はそんなに深くないが、出血が続いており彼女の白い服を赤く染めている。

 風花は翼の質問に答えたものの、心ここにあらず。回復魔法を展開しようともしない。彼女は太陽程の高度な治療はできないが、止血程度なら使用できる。それにも関わらず、流れる血をそのままにしていた。太陽に治療させる気だろうか。彼がこの怪我を見たら顔を真っ青にしそうな状況だ。


「太陽くんが、心配しそうだね」

「……あ、太陽。連絡しなくちゃ」


 風花は『太陽』の部分にだけ反応し、扉を開いてもらうために彼に連絡をとった。そして、彼は呼び出しにすぐ応じてやってくる。


「お迎えに上がりました。え、姫様!?」


 扉を開いた太陽は、翼の予想通り真っ青になって慌てる。すぐに回復魔法をかけ、治療を開始したのだが、依然風花はぼぅっとしている。


「何かありましたか?」

「戦いが終わってからずっとこんな感じで……」


 翼と太陽で首を傾げていたのだが、やはり原因は分からず。とりあえず日本に帰ろうということで、彼女の手を引き扉の中に誘導していくのだが……


「あ!」

「ぶっ!」


 扉をくぐろうとした途端、風花は突然その足を止める。いきなり止まったので後ろにいた翼がぶつかってしまった。


「っ……どうしたの、桜木さん」


 痛そうに鼻を押さえ、涙目の翼が尋ねるも、風花は答えず太陽を連れてどこかへ消えていく。いきなり彼の手を引っ張ったため、「姫様!?」と戸惑いの声が上がっていた。


「相原くん、大丈夫?」

「うん、ありがとう」

「何か、風花の様子おかしい?」


 一葉は風花の行動が気になったようで、声を漏らしていた。確かに彼女の様子は普段と異なる。いつもなら後ろに人がいると分かっていて、いきなり足を止めることはない。そして、何も言わずに太陽を無理やり引っ張っていくようなこともしない。

 風花は戦闘が終わってからぼんやりとしているようだ。戦闘の最中に何かあったのだろうか。


「よし、帰ろうか」


 考えている間に風花たちが帰ってきて、思考が中断される。風花はどこに行っていたのか告げることもなく、扉の中へと消えていった。やはり今日の彼女はおかしい。翼たちも風花の後を追おうとした時、玲奈が駆け寄ってきた。


「ありがとうございました! これから宴を用意します。ぜひ参加してください」

「お気持ちだけ受け取ります。もう帰らないと」

「そうですか……でも、またいつか来てください。その時はおもてなしさせていただきます」

「ありがとうございます」


 玲奈は扉の中に消えていく翼たちの背中に、ぺこりと頭を下げる。


「みなさんの旅にも、幸せが訪れますように」


 自分と同じように重い運命を背負う少女。彼女の旅はどんな結末を迎えるのだろうか。自分に勝が居てくれるように、彼女には頼もしい仲間たちがいる。きっと大丈夫だろう。

 玲奈は彼らの幸福を祈りながら、自分を待つ人たちの中へ帰っていった。




__________________




「今回の旅は良かったね。恋愛だったよね!」

「そう! あの二人は結婚するんじゃないかな」


 美羽と一葉はまた玲奈と勝のことで盛り上がっている。

 戦いの前にも盛り上がっていたが、怖さを紛らわせるためだったのだろう。あまり外には出していないが、心に相当の負担がかかっているようだ。


「恋愛か……」


 翼は一人小さく呟く。玲奈と勝はお互いに愛し合っているように見えた。あれが『恋』なのだ。自分が今抱いている感情はどうだろうか。翼はちらりと風花を見る。


「?」


 風花は普段と変わらず、美羽たちの話を真剣に聞いているように見えた。しかし、何かが違う。考えてみるも違和感の正体はつかめない。


「姫様、お疲れでしょう。そろそろ休まれますか?」

「うん」


 太陽が風花に声をかけると、彼女は素直に頷く。風花のぼんやりは戦いで疲れたせいだろうか。太陽に連れられて自室へと姿を消した。


「風花大丈夫かな?」

「疲れたのかね?」


 騒いでいた美羽と一葉も心配そうな様子。そんな中、優一だけが難しそうな顔をしていた。

誤字報告ありがとうございます。お手を煩わせてしまい申し訳ないです。

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