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きみと桜の木の下で  作者: 花音
第1章  はじまり
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第6の扉 大切な友達

「……友達」


 風花は『友達』という言葉を、大切な宝物のように優しく呟いた。


「「あっ……」」


 美羽と一葉は風花の表情を見て、声を漏らす。今まで無表情で、にこりともしなかった風花が笑ったのだ。

 二人はその変化に驚き、お互いに顔を見合わせるも、胸の中に優しい感情が広がるのを感じていた。そして、風花に優しく話しかける。


「一緒に行こっか」


 その言葉を聞き、風花の目が嬉しそうに輝く。表情にはあまり感情が出ない彼女だが、目の中の感情は忙しいようだ。そんな風花を見ると、二人は頬が緩むのを感じた。


「ねえ、苗字じゃなくて名前で呼んでもいい?」

「うん」

「じゃあこれからよろしくね、風ちゃん」


 美羽に名前を呼ばれ、また風花の目の輝きが増す。遊びに誘ってもらえたこと、名前で呼んでくれたこと、そして何より二人と友達になれたことが嬉しかった。ぽっかりと開いた穴に何か暖かい物が入ってくる。







_________________









 キーンコーンカーンコーン


「バイバーイ」

「また月曜日な」


 鐘が鳴り響き、クラスメイト達が別れの挨拶をしながら、教室を後にしていく。そんな中……


「ふ、この戦いにもようやく終焉が訪れたな。次の戦いに備えよう」

 訳) 今週も1週間が無事に終わりました。来週も元気に会いましょう


 彬人が一人、教室の扉にもたれかかりながら呟いている。


「……」

「風花、大丈夫だよ。あれ毎日の恒例行事みたいなものだから」


 彬人の行動を理解できずポカンと見ていた風花に、一葉が説明してくれる。


「あれは帰りの挨拶。本人曰く『さようなら』って言ってるらしい。朝も同じ感じで入ってくるよ。つまり『おはよう』って言いたいみたいなんだけどね」


 一葉と彬人は1年生の時に同じクラスで、仲が良かったようだ。彬人の扱いに慣れている。

風花は一葉の説明を真剣に、こくこくと頷きながら聞いていた。


「本城くん、ばいばい」

「終焉おめでとう」

「ふっ」


 クラスから別れの挨拶やコメントが飛び、彬人は満足して教室を出ていった。


「それじゃあ、風ちゃんまた日曜日ね」

「うん、ばいばい」


 彬人の様子を眺めていた風花に、美羽と一葉が別れを告げる。

 美羽は帰宅、一葉は剣道部の練習へと向かうようだ。そんな二人の背中を見送った風花も、家に帰るために荷物をまとめていく。





_________________





「翼、明日暇か?」


 帰宅準備を進めていた翼に優一が話しかける。


「うん、大丈夫だよ」

「千歳公園行こうぜ!」


 千歳(ちとせ)公園は東中学校の近くにある。そこの池に主がいると噂になっているらしい。主を釣り上げたら有名人になれるかもしれない、と優一は張り切っている。


「僕、お父さんに釣り道具借りていくよ」

「よし、決まりだな。明日が楽しみだ」


 翼は妙に張り切っている優一を微笑ましく思いながらも、別れを告げ風花の家へと向かった。






_________________







 ピーンポーン


「いらっしゃい」


 呼び鈴を押すと、風花が出迎え、庭へと案内してくれる。庭を見た翼からほわー、と声が漏れた。


「塀に囲まれてるから、外から私たちのことは見えないし、どれだけ魔法の練習をしても大丈夫だよ」

「なるほど、だからこの広い家なんだね」


 風花の家は庭を高い塀に囲まれていた。加えて松の木やドングリの木などが植えられており、視界を遮る一因となっている。魔法を秘密にしなくてはいけない彼らにとっては最適の練習場だ。


「よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」


 お互いが向かい合い、ぺこりと挨拶をする。

 今日から二人は魔法の練習を行う。未知なる力の前に翼の体に力が入ったが、風花が緊張を取るように優しく話しかけてくれた。


「相原くん、一緒に頑張ろうね」

「あ、うん!」


 柔らかい口調と優しい声で、翼に入っていた力が抜けた。それを確認した風花が話を進める。


「まず、昨日の力の説明をするね」


 京也と戦えた翼の力は、精霊としずくが共鳴することで発揮されたもの。しかし、今後は手元にしずくがないため、翼自身が精霊の力を引き出さなくてはならない。

 翼の最初の課題は変身すること。精霊を意識し呼びかけることで、火練が力を貸してくれるらしい。


「この前の感覚を思い出しながら、変身の呪文を唱えてみて」


 風花が変身の呪文を教えてくれる。言葉に出すことで、精霊を意識しやすくなるらしい。


「やってみる……」


 翼は目を閉じ、手を祈るように組む。そして火練の暖かい声、炎の感覚を思い出しながら、呪文を唱えた。


「我に宿りし精霊よ、我と戦う剣となり、我を守りし盾となれ、火練!」


 グッと力を込めて呪文を唱えた。しかし……


「あれ?」


 恐る恐る目を開けるも、何も起きていない。この前のような炎も出ていないし、服も髪もそのまま。翼は風花に言われたように呪文を唱えた。何も間違えていないはずだ。それなのになぜ変身ができないのだろう。


「相原くん、魔法は想像力、イメージが大事なの。だから1回でできなくても大丈夫だよ」


 落ち込む翼に風花は声をかけ、少しの笑顔と共に励ましてくれた。翼はきちんとイメージができていなかったのだろう。

 その後、何度も何度もイメージをしながら変身の練習は続いていった。








_________________









 ボーンボーン

 

 リビングの時計の音が庭まで届く。


「今日はこれくらいにしよう。お疲れさまでした」

「はぁ、はぁ。ありがとう、ございました」


 あれから2時間。翼はずっと変身の呪文を唱え続けたのだが、結局成功しなかった。彼の周りに火の粉が出現することもなく、時間だけが過ぎてしまった。翼は体力を消耗したようで、肩で息をしている。


「どうしてできないんだろう。やっぱり僕が弱虫だから……」


 翼はため息をつく。風花が一生懸命練習に付き合ってくれているのに、その成果を全く出せていない。自分が情けなくなった。


「大丈夫、ちゃんとできるようになるよ。また一緒に練習しよう」


 風花は相変わらずの無表情でねぎらう。しかし、翼を見つめるその瞳に不安や不満の色は、全く浮かんでいなかった。

 翼は風花の目を確認すると、じんわりと目頭が熱くなるのを感じたが、ぐっと唇を噛んでこらえる。


「ありがとう、桜木さん」


 彼女のために強くなると決めたのだ。できるまで何度でも挑戦するしかない。翼は自分の中で、決意を固める。






 二人はリビングに戻り、休憩することになった。ふと翼は学校での風花たちのやり取りが気になり、質問してみる。


「今日、横山さんと藤咲さんと楽しそうに話してたね」

「うん、日曜日に出かけられることになったの。二人ともすごく優しくて、私の大事な友達」


 風花は大切な宝物のように話してくれた。二人のことが大好きなのだろう。翼は柔らかく話してくれる風花を見て、自分も頬が緩むのを感じた。







「またね」


 また月曜日に練習する約束をし、二人は分かれる。

 自分の家へと帰る途中、翼は風花に言われたことをずっと頭の中で繰り返していた。


「炎、火練さん、温かい、真っ赤……」


 ブツブツと声に出して、一人イメージトレーニングを続けていく。


お読みいただきありがとうございます。誤字報告ありがとうございます。お手を煩わせてしまい、申し訳ありません。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです(^^)/ キャラクターがみんなイキイキしてますね♪ 本城彬人くん最高に楽しーキャラo(*゜▽゜*)o♪ 風景や背景の描写がとても綺麗〜うっとりしました(o^^o) [気にな…
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