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きみと桜の木の下で  作者: 花音
第3章  言葉の重み
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第61の扉 移動姉弟編その2

「「と、いうことがありまして」」

「取られてしまったのですね……」

「「申し訳ない」」


 事情を理解した太陽が納得の声を漏らす。翼と優一が代表して頭を下げた。


「いえ、皆さんのせいではありません。今回の敵は魔法が厄介でした」


 瞬の魔法はmove(ムーブ)の魔法。自身の移動速度を変幻自在に操れる。目にも止まらぬ速さで移動し、しずくを奪ったのだろう。


「なるほど……」

「取り返しに行けそうか?」


 瞬は魔界にいるだろう。つまりそこには京也もいるはず。さらに……


「魔界四天王もいるでしょうね」


 魔界四天王とは、京也の組織している実力者4人組。先日鬼ごっこ戦で勝利した紅刃は、その一角である。

 京也だけでもかなり厄介なのに、それに加えて更なる戦力が待ち構えているかもしれないのだ。彼らを相手取り、こちらに勝機はあるのだろうか。


「瞬さんが一人で居てくれれば、何とかなりそうですが……」


 太陽は難しい顔をして考え込んでいる。

 太陽の扉魔法で奪われたしずくの目の前に飛べるようだ。風花が一度感知したから使える裏技。しかし、問題は……


「京也くんたちと一緒に居ると不味い」

「はい」


 残念ながら、しずくがある場の様子を見ることはできない。そのため、今誰の手に渡っているかが不明。京也ならまだしも、その父親である董魔の所まで渡っていれば、最悪である。


「急いで行った方がいいね」


 瞬が手にしているうちに取り返したい。少しでも早く向かった方がいいだろう。


「でも、アレどうするんだ」


 翼が気合いを入れているところに、優一の声が響く。彼が苦笑いしながら指さした先には


「風花、ほら元気出して」

「桜木さん、チョコもあるよぉ? あ、クッキーの方が好きぃ?」


 一葉と颯の励まし虚しく、どんより風花が継続していた。

 しずくが奪われてしまうのは初めて経験。取り戻せると思っていた記憶が奪われて、悲しいのだろう。しずく奪還に向かう前に、何とか彼女を回復させなければいけない。


「なんとかできそう?」

「……」


 太陽は風花が幼い時から使えている従者。彼で回復できなければもう成す術がない。翼たちは最後の望みを彼に託した。


「姫様」


 太陽がどんより風花の元にしゃがみこみ、声をかける。暖かな彼の声に風花の肩がピクリと動いた。


「悲しかったですね」

「……」

「見つけた時、嬉しかったですもんね」

「……」

「取り返しに行きましょうか」

「……ん」


 太陽の言葉に今まで動かなかった風花が顔をあげる。そして


「たいよぅ」


 手を広げている彼の胸にムギュっとしがみついた。流石は長年彼女に使えている従者。どんより風花を速攻で回復させた。太陽は頭を撫でて、彼女を優しく抱きしめている。













「作戦会議です!」


 太陽が暗い空気を軽くするように宣言する。風花はどんよりモードが治り、いつもの無表情に戻った。しかしまだショックは継続しているようで、太陽の服の裾をしっかりと握りしめている。そして……


「桜木さん、飴ちゃん食べるぅ?」

「食べる」


 颯にもらった飴をコロコロと舌で転がし、機嫌回復中。


「さて……」


 風花の頭を撫でながら、太陽が諸々説明してくれる。

 瞬の使用している魔法は、move(ムーブ)の魔法。この魔法は自身の移動速度を早くしたり、遅くしたりできる。


「しかし、通常目にも止まらない速さで動くことは、できないはずなのですが……」


 移動操作系の魔法は他にも存在する。瞬間移動、高速移動、平行移動、物質移動などなど。

 そして、瞬の扱う魔法は、最高でも車と同じくらいの速度だと言われている。彼がそれを遥かに上回る力を出せているのは、膨大な時間と練習量の賜物なのだろう。


「そう言えば、鬼ごっこの時に瞬間移動してくる鬼がいたけど」

「鬼は紅刃さんのコピー能力を使ったのだと思います」


 紅刃の魔法はコピー能力。これは相手の魔法をそのままコピーできる。しかも、彼女はコピーする能力の上位の能力を付与することもできるのだ。


「すっごぉ」


 紅刃の能力に颯が感動の声を漏らす。そのままコピーができるだけでも強力なのに、彼女は上位の能力に進化したものを使うことができる。紅刃が魔界四天王に抜擢されているのはこれ故だろう。


「あれ? 優一くんどうしたの?」


 話し合いの途中、何やら悲しい表情をしていた優一に翼が気がついた。


「上が優秀だと、下は大変だろうなって」

「あ……」


 確かに彼の言う通り、優秀な兄姉を持つとその下は大変だろう。そして、優一が悲しい顔をしている理由は、彼自身境遇が似ているからかもしれない。

 優一には兄がいる。名前は成瀬(けい)。彼は今日本一と言われる大学に通っており、成績優秀、スポーツ万能。一つも欠点がない完璧超人のような人だ。

 翼も一度会ったことがあるのだが、頭が良いことを鼻にかけるでもなく、優しくていい人だった。


「圭さん、いい人だよね」

「うん、俺の自慢の兄ちゃん」


 優一にもいつも優しいようだ。柔らかく微笑む彼だが、その笑顔には何か寂しさを感じなくもない。その感情の理由は何だろうか。


「あ、あのね……」


 翼が考え込んでいると、風花が何か考えついたようだ。目がキラキラとしている。そして、彼女の目線の先には


「えぇ……また俺?」

「私もですかね?」


 優一とうららがロックオンされている。優一は鬼ごっこの時に続き、二度目。彼女は何を考えついたのだろうか。


「そ、そのね、あの……」

「どうした、桜木?」

「あのぉ……」


 目はキラキラと輝いているのに、何やらモジモジと迷っている様子。優一が風花の瞳をよく見てみると、キラキラと輝く中に何やら黒い影が。あの感情は何だろうか。

 風花はなかなか口を開こうとしない。見かねた太陽が彼女を促し、何とか口を開いてくれた。












「「……」」


 今回風花が話した作戦はかなりの難易度。成功するか全く分からない。そして、その作戦の鍵になる人物は優一とうらら。

 これで、先ほど風花の瞳に浮かんでいた感情の意味が分かった。黒い感情、それは罪悪感。彼女は作戦の重要な鍵に二人を据えてしまうことが気がかりなのだろう。本来ならそのポジションに自分が行きたい。でも、彼女の魔法の特性上適役ではないのだ。


「んんー」


 風花はやはりその点が気がかりのようだ。彼女の瞳が罪悪感で埋め尽くされていく。

 風花は作戦の失敗を考えていない。彼女の瞳に不安の色は一切浮かんでいないのだ。あるのはただ、重役を担わせてしまう罪悪感のみ。


「大丈夫だよ」

「きっとできますわ」


 風花を安心させるように二人は微笑みかける。

 彼らは作戦の重役を担わなければならないということよりも、自分たちならできると信じて託してくれた風花の気持ちが嬉しかった。

 優一とうららの笑顔を眺めていた風花だが、やがてその瞳から罪悪感の色が消えていく。どうやら二人の気持ちが伝わったようだ。そして……


「成瀬くん、うららちゃんありがとう」

「「!?」」


 完全に罪悪感が消えた彼女の表情を見て、優一とうららは言葉を失う。この表情は正面に座っている彼ら二人にしか見えない光景。


「ん?」


 風花の隣に座る太陽が、優一たちの異変に気がつき彼女に目を向けるも、そこにはいつも通り無表情風花。彼らが見たものは分からない。一体何を見たのだろう。

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