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きみと桜の木の下で  作者: 花音
第3章  言葉の重み
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第56の扉 もう止まらない

ice(アイス) sword(ソード)!」


 一葉が剣を出し、大野へと向かっていく。彼女は剣道の実力者でスポーツ万能。加えて、精霊が身体機能を高めてくれるので、すさまじいスピードで切りかかった。


dark(ダーク) shield(シールド)


 大野は一葉の攻撃が届く前に、自分の前に闇の盾を出し防ぐ。受け止められた剣に一葉が体重を乗せて更に切り込もうとするも、盾は全く動かない。かなり力が強い。大野はその様子を涼し気な顔をして眺めていた。


「くっそ!」

lighting(ライトニング) shot(ショット)!」


 一葉が舌打ちをしていた頃、うららが無数の光の粒を発射し援護する。


「ふふっ。dark(ダーク) wall(ウォール)


 大野は闇の壁を自身の前に出現させ、光の粒を全て吸収してしまう。彼女は今盾と壁を二つ同時に出している状態。同時展開は魔力操作が難しく、かなりの高等技術なはずなのに、口元には余裕の微笑みを携えている。


「剣道部のエースさんと、神崎財閥ご令嬢様の実力はこの程度ですの?」

「このやろっ!」







 


「あぁ、ダメだよ、桜木さん」

「そうだぞ、桜木。ここで俺たちと待つのだ」


 その頃、我慢の限界が来た風花が、翼と彬人の手を振りほどこうと、もがき始めてしまった。しかし、風花は女の子。いくらもがいても、男子二人の手を振りほどくことはできない。


「んー、離してぇ」


 うららたちのことが心配なのだろう。止められても諦めずに、翼と彬人の間でモゾモゾしている。


「困った」

「困ったね」


 困りながらも風花の手を離すという選択肢は二人にはない。ここで離せば、ブラックうららに怒られ、一葉に殴られる。想像しただけでも恐ろしい事態だ。


「んんー」


 しかし、風花は一向に諦めてくれない。相変わらずモゾモゾが継続している。

 頑なな彼女の様子にため息をつきながらも、翼が説得を試みる。


「桜木さんは三人が怪我をしてしまうのが、怖いんだよね?」

「うん」

「僕たちは君が怪我をしてしまうのも、怖いんだ」


 翼の言葉に風花のモゾモゾが止まった。分かってくれたのだろうか。翼は風花の反応を待つ。すると……


「私は、いいの」

「桜木さん……」


 彼女の言葉に翼の顔が歪んだ。

 風花は自分が傷つくことは気にしない。その代わりに他者が傷つくことを、とことん嫌う。この考え方の底には、『風花がみんなを巻き込んでしまった』という考え方があるのだろう。

 風花はずっと、自分がみんなの日常を壊したことを気にしている。それで誰かが傷つくのが嫌なのだ。しかし、巻き込んだ自分はどうなってもいい。


「僕は嫌だな」

「俺も嫌だ」


 風花の悲しい言葉に翼と彬人が言葉を返す。誰も風花のせいだなんて思っていない。いつも他人を優先してしまう彼女だが、自分のことも大切にしてほしい。


「……」


 彼らの言葉に風花は瞳を揺らす。今、彼女は何を思っているのだろう。風花の心に少しは届いただろうか。


「そろそろかな」


 翼と彬人が反応を待っていた時、京也の声が耳に届く。言葉の意味が分からず、彼の方へと視線を映すと、自分の手のひらを大野に向けていた。


「何をしているのだ?」


 京也は先ほどまで、器用に空中に浮いて戦いを眺めていたのだが、何をしてるのだろうか。彼は普段はその手の平に禍々しい塊を形成し、攻撃をしてくる。しかし、今はその塊は出現していない。ただ手のひらを向けているだけ。

 そして、目線の先にはいまだ戦いを繰り広げている三人の姿が。


「ふふふっ、全く当たりませんわね」


 大野は二人がかりの攻撃を余裕の微笑みで避けていた。今の大野は京也から魔法を分けてもらっている状態なので、かなりの力がその身体に宿っている。

 京也の魔法は強力。それを容赦なく使ってくる彼女には歯が立たない。


「うらら、一緒に行くよ」


 乱れる息を整えながら、一葉がうららに声をかける。大野に勝てるか分からない。しかし、風花が不安げに見ている中、自分たちは負けるわけにはいかないのだ。


ice(アイス) fist(フィスト)!」

light(ライト) fist(フィスト)!」


 一葉とうららはそれぞれ拳に氷と光を纏わせて、余裕の笑みで微笑んでいる大野へと叩き付けようとする。しかし、その瞬間、京也が動いた。


absorb(アブソーブ)

「!?」


 彼が呪文を整えると共に、大野の身体から闇が吹きだして京也へと吸収される。そして、彼女が身に着けていた真っ黒の衣装が解け、普段通りの制服姿に戻った。どうやら京也が彼女に渡した闇魔法を回収したようだ。


「何、が?」


 しかし、当の本人は状況が理解できない。そして目の前には迫りくる一葉とうららの拳が。魔法を這わせた二人の拳をノーガードで食らってはひとたまりもないだろう。






 びゅん!


 大野の顔に優しい風が当たった。二人の拳は大野に触れる直前で停止している。

 彼女の魔法が解けたことに気がついた二人が、攻撃を中止したのだ。


「ちょっと、京也! あんた何考えてんの!」

「私たちが対応できたからいいものを!」


 一歩間違えれば、怪我では済まない話だ。大野はその事実に腰が抜けて、ぺたんとしゃがみこんでしまう。


「ふんっ! なんで止めるんだよ、そのまま吹き飛ばせばいいだろう」

「はぁ!? あんた自分が何言っているか分かってんの!」


 京也は攻撃が当たらなかったことが不服そう。彼が何をしたいのか分からない。一葉とうららが文句を言っていると、


「「っと!?」」


 風花が二人に抱き着いた。戦いが終わったので翼たちが彼女を解放したのだ。そして、一目散に二人の元へと走って行った。

 一葉とうららは少々のかすり傷を負ってはいるものの、それ以外は無事。大野は先ほどの衝撃で座り込んでいるが、特に怪我は負っていない。三人とも無事である。


「良かった」


 余程怖かったのだろう。風花の声は震えていた。一葉とうららは風花を抱きしめ返し、頭を撫でてくれる。彼女たちの暖かい手で、風花の震えは治まっていった。


「大野さん大丈夫?」


 座り込んでしまった大野の元に翼が駆けつける。彼女は何が起きたのか分からず放心状態だったが、翼の声で現実に戻ってきた。


「大丈夫に決まっていますわ! あなたの手なんかお借りしたくありません」

「あぁ……」


 翼が差し出していた手はぺシンと、はたかれてしまった。彼女は一人で立ち上がり、すたすたと歩いて行く。


「んー、これはいいのかな?」

「まぁ、何回でもぶっ飛ばすから大丈夫!」


 彼女の態度が心配だった翼だが、一葉が逞しいことを呟いている。おそらく大丈夫だろう。










 京也と謎の少女は一葉たちの注目が逸れた隙に、屋上へとやってきていた。


「良かったのですか?」

「まぁ、一応目的は達成できたしいいかな。お前も満足だろう?」

「……」


 京也に尋ねられた少女は何も答えず、少しだけ悲しそうな表情を見せた。彼女の表情の意味は何だろう。


「ほんとに優しいねぇ」


 京也はそう言うと、少女の頭をポンポンと撫でる。結局京也は何をしたかったのだろうか。全く分からない。


「……」


 しかし、頭を撫でられている少女はほんの少し嬉しそう。彼女には彼の行動の意味が伝わったようだ。

 そんな穏やかな空気の中、遮るように近づいてくる足音が一つ。京也はその気配に気がつくと、少女を自分の後ろへ隠して、対峙する。


「お前か? 黒田京也って」

「あぁ、そうだ。何か用か?」


 その人物は京也に自分の来訪の理由を告げる。それを聞いた京也の顔が不敵な笑みを携えていった。

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