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きみと桜の木の下で  作者: 花音
第3章  言葉の重み
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第49の扉 厨二病ネーム

「ふ、ついに、俺に秘められし力が解放されたのだ」

 訳)僕は魔法使いになりました


 教室では、彬人がカッコイイポーズを添えながら、くるくると回っていた。彬人はカッコイイ自分の力をひけらかしたくて、仕方がないのだろう。

 鬼ごっこの後、風花たちのことを良く思っていない輩も少なからずいるが、多くの生徒は協力を示してくれている。暖かい目線が彼女たちに注がれていた。


「本当に秘められた力があったんだね~」

「はいはーい! 結愛は新入りだから、みんなのことを詳しく教えてほしいの」

「ふ、良かろう」


 結愛の元気な声がかかり、彬人の回転が更に速くなる。彼は目が回らないのだろうか。物凄い速度で回転しているのだが、そのまま仲間たちの紹介を始めた。


「ふ、まず我らがリーダー、相原翼。彼は紅蓮(ぐれん)の炎を操りし者。日々の鍛錬を欠かさず、常日頃から敵の攻撃に備えている」


「成瀬優一、彼は聖なる水を操りし者。みなもご存じのとおり、頭脳明晰。我がチームの司令塔」


「鈴森颯、彼は雷鳴轟かせる雷の使い手。普段は眠りの国へと旅立つ彼だが、戦闘ではひらめきの天才」


「横山美羽、誰をも魅了する熱気を操りし者。戦場は彼女の独壇場と、かすだろう」


「藤咲一葉、何者も凍らせる氷の魔法使い。鋭いツッコミと氷のように冷たい笑顔で通称氷のじょお、ぶへっ!」

「誰が氷の女王よ!」


 言い終わる前に、鋭い一葉の拳が彬人の顔面に炸裂する。くるくると回っていた影響もあり、彼は教室の端まで飛ばされていった。鈍い音と共に壁に激突している。


「何をする! かっこいいではないか!」

「あんたの厨二病ネームをつけるな!」


 どうしても自分の考えたカッコイイ名前を名乗ってほしい彬人と、絶対に嫌だ、と拒否する一葉。バチバチと火花を散らす中……


「結愛も名前つけて!」


 結愛まで乱入し、カオスな空間が出来上がってしまった。もう止められないだろう。楽しそうにわちゃわちゃと騒ぎ始めた。


「ふふっ」


 その空間を見た風花から、また笑みがこぼれる。頬を緩ませながら彼らのやり取りを眺めていた。










「あら、ごめんあそばせ」


 教室の後ろが騒がしい中、愛梨の席ではまた大野が嫌がらせをしていた。愛梨の机にぶつかり(わざと)、上に乗っていた物が床に散らばる。


「……」


 以前の一件で表立ったいじめはないものの、誰にも気がつかれないように、陰湿な嫌がらせは続いていた。今日も大野の行為に気がつくものはいない。

 愛梨が大人しく落ちたものを拾っていると、満足したのか大野は教室を出て行った。今日はいつも隣にいる八神と長谷川はいない。こてんぱんにうららにやられたのをきっかけに、大野の元から離れたのだ。二人は大野が怖かったからすり寄っていただらしい。こういう事情も彼女の機嫌の悪さに拍車をかける。


「ふんっ、神崎さんと藤咲さんも覚えていなさいよ!」


 そして、そのきっかけを作ったうららと一葉への憎しみを募らせていった。ブツブツ言いながら廊下を歩いていると、近づいてくる足音が一つ。




__________________








「こんにちはー!」


 放課後、京也の誕生日パーティーのために翼、彬人、颯、美羽、結愛が集まった。優一、一葉、うららは部活動のため参加できないが、今日は美羽の仕事もなく、彬人のQuest(クエスト)もない。颯も母親が休みということで、チビたちの面倒をみなくていいようだ。


「いらっしゃい」


 風花がにこやかに彼らを出迎える中、太陽からは合掌で出迎えられた。どういう意味だろうか。首を傾げる翼たちには気がつかずに、風花は準備を進めていく。


「相原くんたちは部屋の飾り付けしてほしいの。美羽ちゃんと結愛ちゃんは私と料理しよう」


 風花の手には色とりどりの折紙、花紙、風船が。どうやら盛大に京也を祝いたいようだ。風花の瞳にはやる気がみなぎっている。

 京也は一応敵で警戒しなくてはいけない相手だが、風花にとっては大切な幼馴染なのだ。彼の誕生日を祝える風花はいつもより楽しそう。そんな彼女を見ていると、こちらの口元も緩む。翼はまたお花を飛ばしていた。


「京也くんは一応敵だけどぉ、その辺は大丈夫なのぉ?」


 風花には気がつかれないように、颯が小声で太陽に尋ねた。今まで何度も心のしずくを奪おうとした京也。今回のパーティーがしずく争奪パーティーになれば、風花は悲しむだろう。


「大丈夫だと思います。これだけの人数差がありますし。彼も完全な悪ではありませんので」


 確かに京也一人に対して、こちらは七人。彼が強いと言えど、これだけの戦力差で戦いを挑もうとはしないだろう。

 そして、太陽の最後の言葉を聞く限り、何か事情があるような気もする。京也としても幼馴染の風花を傷つけるのは嫌なのかもしれない。必要以上に彼女を悲しませる真似はしないはずだ。長年の付き合いである太陽からの保証ももらえたので、心配ないだろう。


「よし! 風ちゃん、頑張ってゴリラくんのための料理作ろうね」

「うん!」


 颯が安心していると、風花がやる気に満ち溢れている。鼻息荒く、瞳をキラキラと輝かせて、何とも楽しそう。これは豪華な食事が出来上がるかもしれない。


「ちょっと、太陽くん、ダメでしょ。男子はあっち」

「私も料理担当がいいのですが……」

「ダメ、ダメ! 料理は女子に任せてあっち行ってて」


 そうこうしていると、サラッとついて行こうとした太陽が、美羽と結愛に追い出されている。二人にパタンと扉を閉められて、太陽はがっくりとうなだれた。


「太陽くん、どうしたの?」

「いえ……」


 そう言うも、今日の彼は何だかおかしい。出迎えた時の合掌に始まり、風花がキッチンに入ってからは、何やら焦っているような気がする。風花が怪我をしてしまうのが心配なのだろうか。彼女は太陽と交代で日々の料理をこなしているので、何も心配することはないはず。ただの過保護だろうか。


「どうしたんだろうね」

「放っておけばいいよぉ。ほら、折り紙やろぉ」

「ふはっ! 我が漆黒のbreath(ブレス)でお前たちを深淵へいざなってやる!」

 訳)僕は風船を膨らませますね


 考えてみるも答えは出ないので、放っておいて、翼たちは室内の装飾作りへと動き出す。


「まだ望みはあります。美羽さんと結愛さんが何とかしてくれれば……」


 しかし、太陽はまだ諦めていないらしい。ブツブツと言いながら、キッチンの扉に貼り付いて、すき間から必死に女性陣の様子を観察している。


「風ちゃん、本当に一人で大丈夫?」

「うん、頑張る」


 太陽の視線の先では、髪を結んでエプロンを身に着け、丁寧に手を洗った三人が、早速クッキング。どうやら話し合いで、美羽と結愛がオードブル担当、そして誕生日ケーキは風花が一人で頑張るようだ。彼女の瞳がやる気にみなぎっている。


「じゃあ、お願いしようかな」

「うん、美味しいの作る」


 風花は先日取り戻した記憶で誕生日ケーキを作っていたので、それ通りに自分で作りたいらしい。ボウルに材料を入れて、くるくるとかき混ぜ始めた。その動作に多少不安定な部分はあるものの、落としてぶちまけるようなことはなさそう。


「結愛ちゃん、私たちも頑張るよ」

「あいあいさー!」


 風花の動作を見て、安心した二人がオードブル作成へと取り掛かる。サンドイッチ、サラダ、ポテト、空揚げなどなど。手際よく彼女たちのクッキングが続いていった。


「あぁ……」


 その様子を見た太陽から、小さくため息が漏れる。そして、諦めたようにキッチンの扉から剥がれ、室内の装飾作りに加わった。


「太陽くん、大丈夫?」

「……」


 心配した翼が彼に尋ねるも、何も答えてくれない。やはり今日の彼は何だかおかしい。一体何があるのだろうか。

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