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きみと桜の木の下で  作者: 花音
第10章 木枯らしが頬撫でる
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第198の扉 ケーキ事件再び

「もう少しでできるから、待っててね」

「アリガトウゴザイマス」


 キッチンでルンルンな風花に対し、翼はひどく絶望的な表情でソファーに座っている。なぜこんなことになっているのかと言うと……


「相原くんリミッター解除できたの!? すごいの! おめでとう! ケーキ作ってあげるね!」


 と、いうことである。

 京也に腕を突っ込まれた影響で気絶していた風花だが、復活した途端翼を仕留めにかかった。ちなみに優一たちは一足先に帰宅しているため、今回の犠牲者は翼一人。


「ぼ、ぼく、用事を思い出したような気が……」

「ここで帰ると、風花はがっかりするだろうな。泣いちゃうかもしれないな。折角お祝いのために頑張るのに、それを食べてもらえなかったら、すごく落ち込むだろうな。大きなケーキを一人で(・・・)ぺろりと平らげてくれないと嫌いになっちゃうだろうな」

「ぐ……」


 逃げようと画策するも、月が真っ黒な笑顔を貼り付けて翼の肩を掴む。そしてさりげなく自分だけは助かろうと、翼にケーキ全てを押しつけてきた。これは一人で食べきるしか道は無さそう。


「♪漆黒の堕天使が~ラララ♪」


 一方、風花はご機嫌でクッキング(暗黒物質制作中)。スポンジにクリームを塗っている。








「♪ル~ラララ~」













「できた!」


 そんなこんなで無事に完成。流石は風花、見た目は完ぺきなケーキを仕上げてきた。ふわふわのスポンジと、美味しそうなクリーム、そして色とりどりのフルーツたち。見た目は完ぺきである。


「食べて!」

「ハイ」


 キラキラの瞳でフォークを差し出してくる風花。この瞳を前に食べないという選択肢はないだろう。心と胃を整えて、一口掬う。


 パクリ


「どうかな?」

「独特なお味でございます」


 モグモグと咀嚼しながら犠牲になる翼。特大ケーキはまだ食べ始めたばかり。風花をガッカリさせないように、何とか踏ん張って食べきりたい所存である。


「頑張れ、炎。お前はやればできる子だ。俺は信じてる」

「モグモグ」


 そんな翼の横では、月が励ましてくれる。食べるのを手伝ってくれてもいいのだが、彼は食べる素振りを全く見せてくれない。










「♪ル~ラララ~」












「ゴチソウサマデシタ」

「お粗末様でした!」


 しばらくして、無事、一人でケーキを完食した翼。とてつもなく顔色が悪く、息がか細いが何とかやり遂げてくれた。流石は主人公、やればできる子である。


「よく頑張ったな、炎。ちょっと待ってろ、胃薬をやるよ」

「ありが、とう」


 ソファで転がっている翼に、胃薬を手渡してくれる月。ちなみに風花はケーキのお皿を片付けるためキッチンへ行ったので、彼らの会話は聞こえていない。


「風花の特大ケーキを一人で食べきったのは、京也と炎だけじゃないか? すごいな、お前!」


 月は自分が犠牲にならなかったので、ひどく上機嫌である。翼はそんな彼をほんの少し恨めしく思うも、京也の名前を聞き、思い出したことが……


「そう言えば、京也くんのことなんだけどさ」


 先ほどの京也との戦い。その中で京也はひどく苦しそうな表情をしていた。なぜあんなに苦しそうなのだろうか。

 しかし、思い返してみると、最初の頃から彼が苦しそうにしている場面は何回かあったかもしれない。父親の命令に従って、幼馴染である風花の大切な物を奪わないといけない状況。そんな日々を半年以上も送っていれば、苦しくなるのは必然かもしれない。


「仲良く、できないのかな?」

「……早くそうなるといいんだがな」


 翼の話を聞いて、月が力なく微笑んで言葉を返す。

 京也だけではない、月たち自身その日を待ち望んでいるのだ。争うことのない、誰もが笑顔で居られる未来を。いつかのその日はいつ訪れるのだろう。


「京也のことは俺も何とかしたいと思ってるんだ。だけど、あいつはどうにも手を出せない所にいるから」


 月も京也の異変には気がついていたようだ。彼が楽になるように動きたい気持ちはあるものの、京也が敵であるという立場上、どうにもできない部分が多いのだろう。


「俺らにできることは、風花の心のしずくを取り戻すこと。そのために強くあることだ」


 歯がゆい感情を飲み込んで、月が力強くニコリと笑った。

 どうにもならない部分も多いけれど、自分たちにできることはゼロではない。できることを精一杯やることが、いずれ誰かを救うかもしれない。











_______________







「またダメだったのか」

「申し訳ございません」


 魔界、王の間にて、京也から先日の任務報告を受けた董魔がため息をつく。彼の重々しいため息に、京也から一気に汗が噴き出した。


「何度目だ、失敗するのは」

「……」

「誰かを消した方がお前はやる気になるのか?」


 その言葉に血圧がサァーと下がるのを感じる。手足が冷たくなり、きちんと息が吸えない。董魔は誰かの命を奪う気なのだろうか。最初に犠牲になるのは誰だろう。


「まぁいい。次は上手くやれよ?」

「……はい」


 京也が最悪の結末を想像し顔を青くしていると、董魔は最終宣告のような言葉を告げて、彼は姿を消した。










_______________








「さて、僕はそろそろ帰ろうかな」

「おう! またn……あぁ!?」


 翼が帰ろうと腰を上げたタイミングで、月が腕を押さえてうずくまった。そして、身体からブワッと白いものが噴き出し、人格が太陽にチェンジ。


「月……逃げましたね。ぐぅ、ん」


 恨みがましく太陽が文句を放っているが、彼の身に何が起こっているのだろう。相変わらず腕を押さえこんで苦しそうである。


「太陽!? なに、どうしたの?」

「ひめ、逃げて、ください。またあの人が、来ます」


 太陽のその言葉と共に、サァーと風花の顔が真っ青に。何かに怯えているような様子を感じる。


「やだやだ、太陽頑張って!」

「はぃ、しかし、力が、んん、強いのですぅ」

「今来たら大変だよ。相原くんまで犠牲になる!」


 元々僕は君の犠牲になっているよ、と心の中で思いつつ、翼は今の状況が全く分からない。あの方とは誰のことなのだろう。二人の様子からして敵だろうか。


「姫様、つばさ、さんと一緒に、逃げて、ください」

「やだぁ! そんなことしたら太陽が死んじゃう!」

「私、が、身を持って、足止めしますので、あなた様は、お逃げ、ください」

「やぁだ! 太陽と一緒に居るの!」


 何やら以前の本城佐々木劇場の気配を感じなくもないが、当の本人たちは至って真剣そう。翼はとりあえず何が来ても大丈夫なように、杖を持って待機しておく。


「ぐっ……きます、きます、きます!」

「やめてぇぇ! ダメダメダメ!」


 太陽が必死に腕を抑え込むも、限界のようだ。ついに真っ白な扉が出現。そして、中からは……

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