表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
きみと桜の木の下で  作者: 花音
第10章 木枯らしが頬撫でる
194/230

第193の扉 改めまして

「コホン、改めまして……」


 太陽が咳ばらいを一つして、改めて自己紹介が再開。ちなみに彬人はずっと太陽を離そうとしないので、引っ付いたままで自己紹介が再開している。


「私たち太陽と月、二人で一つの身体を共有しております。今までは封印にほとんどの魔力を使用しておりましたが、それが無くなったので魔法を使えるようになりました」


 先日まで、太陽の魔力のほとんどを使って、月を隠しこむように封印していた。しかし、今その封印は無くなったため、自由に月が出てこれるし、魔力も思う存分使うことができる。


「私はうららさんと同じで光魔法、月は京也さんと同じで闇魔法を扱うことができます」

『ちなみに今まで通り回復魔法と扉魔法も使えるぞ』


 太陽の説明に付け加えて、月がドヤ顔気味の声でアピールしている。つまり彼らは4種類の魔法を自在に使えるということだ。


「最強ではぁ?」

「すごいね」


 更に太陽は剣術の腕前もピカイチ。今までもかなり頼もしい存在だったのだが、とんでもない存在にパワーアップしたようだ。







_______________








「おい彬人、そろそろ太陽を離せ」

「嫌なのだ」


 自己紹介がひと段落し、みんながくつろいでいる中、相変わらず太陽にピシッとくっついて離れようとしない彬人。優一が文句を言うも離そうとしない。


「俺と神崎は太陽に話があるんだ。離せ」

「嫌なのだ、離さない」

「太陽だって困ってるだろ? 離せ」

「困っていないのだ、離さない」


 何と説得しても離そうとしない彬人。彼のそんな様子に、次第に優一の額に青筋が浮かび上がる。


「彬人てめー、いい加減にしろよ! こうなったら力づくでも離れてもらうぞ!」

「やれるものならやってみるがいい! 俺と太陽は絶対に離れないのだ!」

「ああ、分かった、やってやるよ。佐々木、やれ」

「あいあいさー」


 優一の合図をきっかけに、ビシッと元気に敬礼した結愛が歩みを進める。そして、彬人と太陽の隙間に上手に腕を挟み込むと……


「よいしょー!」

「「!?」」


 そのまま勢いをつけて宙に放った。彬人だけを投げ飛ばすつもりだったのかもしれないが、彼が太陽を掴んでいる影響で二人仲良く飛んでいった。


「よっと、太陽ゲット! 佐々木、ナイスだ!」


 何はともあれ、宙を舞った衝撃で彬人の手が太陽から離れた。下に控えていた優一が彼をキャッチして事なきを得ている。ちなみに彬人は「ぐぇ」と痛そうな音を響かせて床に激突した。


「痛いのだ! ひどいではないか!」

「やれるもんならやってみろって言ったのはお前だろ? じゃ、太陽はもらっていくから」


 彬人が文句を言う中、太陽を抱いて颯爽とリビングを出ていく優一。そして苦笑いを零しながら、うららも彼らに続いてリビングを後にした。


「うぅ……グスン、太陽、たいようが……あ、ぁ」

「彬人くん大丈夫?」

「ぐふっ、最高すぎる。めっちゃ飛んだやん、ふふっ」


 一方、太陽を取り上げられて号泣している彬人。今日の彼は情緒不安定である。翼と颯が慰めるも、泣き止む気配がない。


「ねぇ、一葉ちゃん、さっきの本城くんの行動ってどう思う?」


 彬人が泣き叫ぶ中、少し離れた所で美羽が一葉に話を振っている。彼女の笑顔が何だか黒っぽいのは気のせいだろうか。


「どうって……みんなに構ってもらえなかったから、拗ねただけじゃないの?」

「……んー、半分正解かな」


 一葉の解答に困ったように微笑む美羽。

 一葉は鋭い時は鋭いのに、鈍い時はとことん鈍い。優しく答えを教えてあげるのも、友としての役目だろう。


「あのね、多分ね、原因は一葉ちゃんだと思うよ?」

「え、私?」

「うん。あの時、太陽くんをベタベタ触ってたでしょう? 本城くん的にはそれが嫌だったんだろうね」

「へ……」


 美羽の言葉に鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる一葉。そして、しばらくフリーズしたのち真っ赤になって、煙を吹き出した。


「脈ありですね、お姉さん?」

「違う違う違う! そそそんな、そんなこと、あるわけ」

「でもぉ、本城くんがバカだったから太陽くんを抱きしめちゃったけど、本当は一葉ちゃんを抱きしめてたはずなんだよ? ほら、『俺以外の奴に触ってんじゃねーよ。お前は俺だけ見てればいいんだ』って感じで? キャー、ドラマじゃん! 月9じゃん!」

「ちょ、ちょっと、美羽!」


 真っ赤になった一葉が慌てているが、美羽の言葉で彬人の行動の意味に納得してしまった。胸が痛くて、ざわざわする。


(もしかして、彬人も私のこと……)


 今まで掴み取れそうで捕まえられなかった彼の真意の端を、ようやく手にしたかもしれない。






_______________







「優一さん助かりました、ありがとうございます」

「いや大したことはしてない、お疲れ様」


 一方、リビングを出た優一、うらら、太陽の三人。リビングの中ののんびりとした空気とは一変、ピリッとした真剣な空気が漂い始める。


「これからの話を聞かせてほしいんだ」


 そして、その真剣な空気を更に張りつめて、話を切り出す優一。彼らは風花が封印の中身を知る、その日のことを言っているのだろう。


「お二人ともお加減は? 変わりありませんか?」

「大丈夫だよ。心配かけたか?」

「問題ありませんわ」


 太陽の心配そうな声に、優一とうららはにこやかに答えてくれる。二人が先日知った事実。感情に引っ張られていれば、風花を見る瞳が変わってしまうかもしれない物。

 しかし、どうやら太陽の心配は杞憂に終わったようだ。二人は感情に引っ張られてはいない。


「ありがとうございます」


 太陽は彼らに敬意を表して頭を下げる。

 本来なら背負う必要のない物を背負うと言ってくれた。風花だけでなく、太陽たちの力にもなりたいと言ってくれた。そんな彼らの存在がどれほど心強いことか。

 温かく頼もしい彼らと一緒なら、残酷な運命も変えられるかもしれない。

 太陽が自分の主人の未来に想いを馳せていると、難しい顔をしながら二人が口を開いた。


「桜木はいつこの真実を知るんだ?」

「いつまでも隠したままにはできませんよね?」


 優しい二人の瞳が太陽を射抜く。

 風花への隠し事。以前は彼女の記憶の中にあったのに、今は隠してしまっている部分。


「できることなら、心のしずくが全て揃うその瞬間まで、隠しておきたいと思っています」

「でも、董魔が大人しく待ってくれるはずないよな」


 京也の父親、董魔。彼は心のしずくが全て揃うその瞬間まで、待ってはくれないだろう。


「しずくを砕いた理由がそこにあるのでしょう。器ごと持ち帰るのではなく、姫の心を砕いた理由が」

「京也は? あいつは完全に敵って感じじゃないよな?」

「はい。しかし、彼には守らなければいけない存在がいるのです。その方を盾に取られれば、彼は容赦なく私たちに牙をむくはず」


 京也はしずくを奪うつもりがない。董魔からの命令に従っているフリをしながら、最初から手加減して自分たちと戦っていてくれた。彼の実力を持ってすれば、自分たちを倒すことなど容易いことのはずなのだ。それほどまで彼の力は膨大である。


「よく一緒にいる黒ローブか?」

「はい。命令に背けば、あの方を殺すと言われているようです」

「ひどいことをしますわね」


 京也と行動を共にしている黒ローブの少女。彼女の正体は優一たちと同じクラスの川本愛梨である。

 京也も本心では風花の敵になりたくないのだろう。しかし、愛梨を人質に取られているこの状況。命令に従わないという選択肢は彼にはない。


「ん? どうした?」


 京也の名前が出てから、ほんの少し表情が曇った太陽。彼のその仕草に優一が質問すると、ためらいがちに言葉が返ってきた。

 

「董魔様の目的は、……本当に風の国への復讐なのでしょうか」


 王妃殺しの犯人を風の国が庇っていると思っている董魔。今までの彼の行動は全て風の国への復讐だと思っていたのだが、太陽には違和感が。


「あまりにも回りくどい気がするのです。京也さんを使って、姫のしずくを奪おうとしていることも、●●をその手に握っていることも」

「「確かに……」」


 太陽の言葉に優一とうららも賛成を示す。

 風花の心のしずくを奪って力を手にしたいのなら、京也を使うのではなく、董魔自身で奪えば早い話である。それなのに、わざわざ京也を介することに意味はあるのだろうか。そもそも、董魔の真意は風の国への復讐なのだろうか。










_______________









「京也」


 魔界、王の間にて、董魔が威圧的に京也に言い放つ。


「早く次を仕掛けて来い」

「……はい」


 京也はぺこりと頭を下げて、いつもの如く冷酷な仮面を貼り付ける。彼のその横顔が一瞬苦し気に歪んだのは気のせいか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ