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きみと桜の木の下で  作者: 花音
第1章  はじまり
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第15の扉 自分の弱さ

 デパートの件があった翌日、教室ではクラスの係決めが行われていた。


「学級委員は平野くんと七瀬さんで決まりですね、後は二人ともよろしくお願いします」

「「はい」」


 担任の西野が司会役を平野蓮(ひらのれん)七瀬沙織(ななせさおり)に交代する。引き続きクラスの係が決まっていった。生徒たちは自分の希望の係の時に手を上げて、他の人と被ったらじゃんけんという方式で決めていく。各教科の担当係、保健係、図書係、放送委員などなど。「勝った!」「負けた~」と和やかな雰囲気で係決めが進んでいった。


「あぁ……」


 翼は最後に余っていた理科係になってしまう。理科の先生は厳しくて怖い人なので、その先生とやり取りをしないといけない理科係は、一番人気のない係だ。


「はぁ」


 翼は自分で手を上げることができなかった。優柔不断でどれにするか決められなかったこと、誰かと被った時が嫌だな、と考えていたらいつの間にか余っていたのだ。自分の勇気のなさにはため息が出る。


「翼、理科係で良かったのか?」

「うーん、良くはないけど……」


 休み時間に優一が話しかけてくれる。

 翼は自分で決断することが苦手だ。そのあとの失敗の責任を考えてしまう。あと自分の意見を言うことも苦手だ。だから『弱虫』と言われ続けている。自分のことをそう呼ぶ人物の顔を思い出し、翼は苦い顔をした。


「お前ちゃんと自分の意見言えよ? いつもその場に流されて決めてないか?」

「あはは。……自分でもなんとかしないといけないなって思ってはいるんだけどね」






_________________







 その頃、教室の後ろでは風花たちが名前当てゲームをしていた。


「じゃあ、レベル0ね。隣のバカは?」

「本城彬人くん」

「違う、俺の名は聖界の「はい、正解!」


 何やら厨二病ネームを叫ぼうとしていた彬人を一葉が遮り、次の問題へと進む。彬人は頬をぷくぅと膨らませると、せっかくカッコいい名前なのに、とぶつぶつ言っていた。


「じゃあ次、レベル1! このクラスの学級委員は?」

「平野蓮くんと七瀬沙織ちゃん」


「正解! レベル2、今後ろでスキップして歩いているのは?」

佐々木結愛(ささきゆあ)ちゃん」


「正解! じゃあ最後難問だよ。レベル3、その結愛ちゃんの席の後ろで、よく授業中に寝ているのは?」

鈴森颯(すずもりそう)くん」


 風花は美羽の問題すべてに、全員フルネームで答えた。淡々と無表情のままであったが、何やら得意げな雰囲気を感じる。

 風花はまだ転校してきて一週間程度。それなのに、クラスメイト30人の顔と名前が一致しているらしい。驚異的な記憶力に、美羽と一葉は口をあんぐりと開けていた。


「私、心と一緒に記憶も失くしているから、今記憶力がいいんだと思う」


 風花は今、心と記憶と魔力を失っている状態。彼女は14歳だが、14年分の思い出は風花の中にまだない。心のしずくを取り戻すごとに、少しずつ過去の記憶も取り戻してきているのだ。記憶がスカスカの状態であるため、新しい記憶が入りやすいのだろう。


「それにしてもすごいよ」

「そう、そう!」


 風花は美羽と一葉に褒められ、嬉しそうに頭を掻く。その表情は転校してきた当初に比べると随分明るく、柔らかいものになっていた。


 キーンコーンカーンコーン 


「ふ、今日も街が闇に包まれる……」

 訳)みなさん気をつけて帰りましょう。


 授業の終わりを告げる鐘が鳴り響き、生徒たちはそれぞれ帰路につく。





_________________






「「こんにちは」」

「いらっしゃい」


 放課後、翼と優一は約束していた通り、風花の家へと向かった。チャイムを鳴らすと、庭へと案内される。


「ん? 増えてるな」

「あの後3人も仲間になってくれたの」


 庭にはすでに美羽、一葉、彬人の三人が。疑問を呟いた優一たちに事情が説明され、さっそく魔法の練習が始まる。





「我に宿りし聖霊よ、我と戦う剣となり、我を守りし盾となれ、火練!」


 翼が呪文を唱えると、彼の周りを暖かな炎が包み込んだ。炎が消えると、紅蓮の魔法衣装に身を包んだ翼が現れる。


「すごい、すごい!」

「……たくさん練習をしたから」

 

 美羽に褒められて、恥ずかしそうに顔を赤らめる翼。前回の京也の出現時から、ずっと頭の中でイメージトレーニングを重ねたようだ。変身するためにはイメージが大切。そう簡単にできる技ではない。それにも関わらず、きちんと変身できるようになったのは、彼の努力の賜物だろう。風花は翼の努力と根気強さに感心していた。


「よし、私たちもやってみよう!」


 残りの4人も翼に倣い、変身しようとイメージを膨らませる。

 それぞれの身体の宿っている精霊の暖かさ。心地よく聞こえた声。魔法を使った時の感覚。一つ、一つの情報を頭の中で丁寧に組み立てていった。すると……


「え、嘘でしょ」

「ふ、日々深淵の覇者との戦いをしている俺にはこのくらいたやすいことだ」

 訳)できました、僕も褒めてください


 さわさわと葉の擦れる音が聞こえ、彬人が変身に成功していた。彼の周りには、ひらひらと葉っぱたちが楽しそうに舞っている。


「本城くん、すごいじゃん!」

「何だか悔しい……」


 彬人は美羽に褒められ、上機嫌でポーズをきめている。一葉が悔しそうに地団駄を踏むも、彬人は涼しい顔で決めポーズの開発に勤しんでいた。


『魔法は想像力』

 常日頃ポンポンと厨二病ワードを繰り出している彼の想像力なら、変身することは容易かったようだ。いつもよりもその笑顔が眩い光を放っている。


「あ、できた」


 彬人の変身に気が向いていると、滴がぴちゃんと落ちる音と共に、優一が静かに呟く。周りには水溜まりができており、海のような深い青色の魔法衣装が美しく輝いていた。


「優一くん、すごい、もうできるなんて!」

「わぁ、成瀬くん変身すると、何かいつにも増して大人っぽく見えるね。髪のせいかな?」


 今度は変身に成功した優一のもとで、翼と美羽が騒ぎ出す。変身後の優一の髪の色は青色。優一はいつも冷静沈着でクールなイメージなのだが、魔法衣装に変身するとより一層冷たいような感覚を持つ。


「この前の感じを思い出してたら、何かできたな」

「はぇ……」


 優一の発言に翼は開いた口が塞がらない。優一は学年首席で、頭の回転も速い。何でもそつなくこなす彼は才能の塊なのかもしれない。

 ポカンとした顔で彼のことを眺めていたのだが……


「う、なんか寒くない?」


 いきなり美羽が冷気を感じ、ぶるっと震える。辺りを見渡すとうっすらと冷気が漂っていた。そして、その冷気の中心には……


「できた!」


 満面の笑みの一葉が。彼女の周りには白色の冷気が漂っており、近くにある草たちはその影響で氷ついてしまっている。まさに氷の女王。一葉は得意げな表情で、自身の魔法を眺めている。


「お?」


 ふと、美羽は辺りを見渡す。すでに美羽以外の4人は変身に成功しており、自分だけ変身できていない。

 慌てて集中するも、心が乱れてしまい上手くいかない。美羽がわたわたしていると、一葉から声がかかる。


「美羽、女優スイッチ入れなよ」

「あ、その手があったか」


 美羽はポンっと手を叩くと、息を吐き集中する。その途端、彼女から柔らかい雰囲気を感じなくなった。


「女優スイッチって何?」

「美羽はお芝居の時、役に入り込むためにスイッチをオンオフしてるんだよ」


 疑問を感じた風花が尋ねると、一葉が答えてくれた。美羽は芸能人で女優。感情などを切り替える必要があるのだろう。スイッチオンした美羽から、今まで感じていた雰囲気が消えたのはそのためだ。

 そうこうしているうちに、あたりはボンっと熱気に包まれる。


「ふ、日々深淵の覇者との戦いをしている俺にはこのくらいたやすいことだ」

 訳)私もできました、褒めてください


「彬人になりきっていたみたいだね」


 熱気が落ち着き、姿を現した美羽は見事に変身することができていた。彼女から溢れ出る熱気で、辺りの温度が上がる。


「ほぉぉぉ!」


 彬人が美羽のポーズを見て、目を輝かせている。彼はカッコいい物が大好きなのだ。ポーズを教わろうと、美羽に駆け寄っていた。


「みんな、すごい……」


 全員の変身に成功し、表情が明るい中、翼一人だけが暗い表情をしていた。翼は一日かかってもできず、京也襲撃の土壇場で変身に成功した。それなのに優一たちはいとも簡単にやってのけている。自分の弱さ、才能の無さを改めて思い知り、ぐっと拳を握りしめた。


「相原くん?」

 

 翼の様子に気がつき、風花が声をかけようとしていた時……


「ずいぶんと賑やかですね」


 玄関から一人の少年が現れた。少年は白色のローブをまとい、胸元には桜の花びらの紋章をつけている。フードを深く被っているので、その顔は確認できない。この少年は誰なのだろう。全員驚いて少年を見つめていると、


「お久しぶりでございます、姫様」


 そう言いながらローブのフードを外した。

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