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きみと桜の木の下で  作者: 花音
第7章  かくしごと
155/230

第154の扉 違和感

「あー、美味しかった」


 満足そうに舌なめずりをする梨都。彼女の足元にはビクビクと身体を震わせている、風花、太陽、京也が。あの後第二ラウンドが始まり、全員二回も吸われたのだ。彼らの体力はもう限界。


「り、とさん。どうして、ここに?」


 か細い声で風花が彼女の来訪の目的を聞く。梨都は様々な世界を回り、任務をこなしていて、滅多に風の国にも帰ってこない。そんな彼女が何の用だろうか。


「あ、これを渡しに来たんだよ」


 梨都が差し出したのは心のしずく。その数3つ。任務の最中に見つけて回収してくれたようだ。


「ありがとう、ございます」


 普段ならニコニコ笑顔でしずくを受け取る風花だが、今回はげっそりとしている。余程体力が削られたらしい。


「よし、用事は終わったな」

「扉を開きます。どうぞお元気で」


 風花がしずくを受け取るや否や、京也が梨都の背中を押し、太陽が風の国へ繋がる扉を開く。二人がかりで扉の中へ押し込もうとしていた。


「えぇ、もう少しゆっくりさせてよ」

「断る」「お断りします」

「んもぅ! 冷たいなぁ。そんなに冷たくされると、吸っちゃうぞ?」

「「!?」」


 梨都の台詞を聞き、素早く離れようとした京也と太陽だが、彼女が唇を手の甲に落とした。それと同時に二人の身体から力が抜け、ガクンと崩れ落ちる。


「第三ラウンド行く?」

「やめっ」「いやっ」


 二人の身体を組み敷いて、問答無用の第三ラウンド。あぁぁと二人の声が響く中、風花は一人リビングの隅で震えていた。















「あー、美味しかった」

「マジで、殺す」

「第四ラウンド行く?」

「……」


 第三ラウンドが終了し、ビクビクと身体を痙攣させる三人の姿が。京也と太陽の後に、もちろん風花も吸われた。もう彼らの体力は限界である。


「んふふっ、やっぱりあんたたちのは好きだわ。また来るわね」

「もう来るな」「来ないでください」

「冷たいなぁ、梨都さん泣いちゃうぞ?」

「泣け」「泣けばいいと思います」


 容赦ない京也と太陽。ちなみに風花はいまだ震えて二人の陰に隠れているので、それどころではない。


「また来るわね?」

「「……」」


 梨都は上機嫌で扉をくぐって消えていく。おそらく彼女はまた来てしまうだろう。風花の震えが止まらない。










「はぁ、太陽。俺を呼ぶなよ」


 震える風花の頭を撫でながら、京也が太陽に文句を言い放つ。確かに京也は今回巻き込み事故だ。しかし、太陽は全く納得がいっていない。


「あなただけが死ねば、私たちは無事だったのですよ!」

「はぁ!? 迷惑だ、やめろ!」

「嫌です! 運命共同体です!」

「意味が分からん!」


 京也と太陽の間で言い争いが勃発。ぎゃんぎゃんと騒ぎながら、取っ組み合いの喧嘩が始まった。梨都に体力を削られていたはずだが、彼らは元気だ。床に転がって騒がしい二人。これはどちらかが限界を迎えるまで終わらないかもしれない。と、思われたのだが……


「ふふふっ」


 静かに発生した笑い声に、二人の動きがピタリと停止。その声の主へ目を向けると


「ふふっ、楽しかった」


 風花が笑っていた。にっこりと、本当に楽しそうに笑っている。心のしずくを取り戻し、感情表現が豊かになってきた彼女だが、こんなに楽しそうな笑顔を浮かべられるようになったようだ。


「楽しかったか」

「それは良かったです」


 喧嘩をしていた二人は、風花の笑顔で中断。彼女の頭を優しく撫でながら微笑みかけた。

 三人は幼少期一緒に遊んだり、修行をしたりした中。そしてそこには梨都もおり、今のような光景が繰り広げられていた。風花は懐かしくて楽しかったのだろう。


「梨都さん元気だったね」

「元気すぎるだろ」

「本当に……」


 過去を懐かしむように目を細めている風花。何だかんだあったものの、彼女は久しぶりに梨都に会えて嬉しかったようだ。京也と太陽は引きつった笑顔を浮かべていたが、風花は楽しそう。


「昔と変わってないね」

「早く死ねばいいんだよ」

「京也くん、そんなこと言ったらダメだよ」


 梨都は現在30歳を越えているはずだが、よく若い子たちからドレインタッチをするので、見た目は20代前半。アンチエイジングが凄いのだ。


「よく修行場で吹き飛ばされたなぁ」

「そうでしたね」

「あの時は、太陽と京也くんでよく戦ってたっけ?」

「そんなこともあったな」

「……あ、れ?」

「「?」」


 過去を懐かしんでいた風花だが、頭を押さえながら首を傾げる。記憶の中に違和感を覚えたようだ。


「なんか、変だな」

「「……」」

「白色の霧みたいな所があって、ぽっかりと穴が……」

「眠れ」


 京也が風花の目に手を当てて呟くと、風花が意識を手放した。倒れ込んだ彼女の身体を太陽が支える。


「ありがとうございます」

「いや……」


 風花は穏やかな表情で眠っているが、そんな彼女とは対照的に男子二人の顔は険しい。


「しずくはもう半分くらい集まったか?」

「はい」

「記憶の違和感に気がつくのもそろそろか」

「そうですね」


 風花の心の器の封印。彼女は太陽によりとある記憶を封印されている。風花が心のしずくを取り戻す度に戻ってくる記憶を隠しこむように。彼女がその不自然さに気がつくのは時間の問題だろう。


「クソジジイは何がしたかったんだか」

「京也さん、王様ですよ」

「いや、クソジジイだ。勝手に何をやっているんだよ」


 夢の国の王、タタン。昨日風花が誘われたのだが、彼は何をしたかったのだろう。それは太陽にも京也にも分からない。


「風花は大丈夫だったか?」

「しばらくは大丈夫だったのですが、風の国の話をされたら涙を流されました」

「……俺が行った時にも泣いてたよ」


 京也は悲しそうに風花を見つめる。彼の見る景色はその瞳にどう映っているのだろうか。


「その涙はどれに対して流したんだろうな」

「……」

「お前のことも含めて、全部だと思うぞ」

「……姫は優しすぎるのですよ」


 悲し気に瞳を揺らした太陽は、眠っている風花の頭を撫でる。彼女が流した涙はとても美しく悲しい物だった。そして、彼女がその涙の意味に気がつく日は近いかもしれない。







「まどかさんの事件の方はいかがですか?」

「手詰まりだ。消助が調査をしてくれているんだがな……」


『黒田まどか王妃殺害事件』

 発生から10年が経過。犯人は捕まらず手がかりは「風の国の兵士の仕業」という目撃証言のみ。

 そして、魔界四天王の一角である消助。彼の能力は記憶。対象の記憶の消去、改ざん、追加、閲覧ができる。つまり彼の魔法を前に嘘はつけない。そんな彼が長年調査に当たっているのに、犯人は捕まえられない。


「何か大きな力が働いている気がする」


 京也は難しい顔をしながら呟いた。四天王の消助以上の力が働いている可能性がある事件。この事件の犯人を捕まえなければ、董魔は止まらない。風花は狙われ続けてしまうだろう。彼らが相手取らなくてはいけない勢力はどれほどなのか。

 太陽と京也は穏やかに眠る風花を眺めながら、今後の未来に想いを馳せる。


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