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きみと桜の木の下で  作者: 花音
第7章  かくしごと
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第146の扉 宙を舞う身体

「んんっ、ふぁ……んふ、ちょ、本城、くんっ」

「ふははっ! もう逃げられんぞ、桜木。大人しくするのだ!」


 苦しそうな声が響く中、彬人が風花を押し倒している。


「んぅ、やだぁ。もぅ、だめだよぉ、んぁ、ふふっ」

「別にいいだろう? 桜木も楽しそうではないか」


 風花が彬人から逃れようと身をよじるのだが、彼はそれを許さない。素早く風花の両手を掴み、上で束ねる。そして、身体の上に馬乗りになって動けないように固定してしまった。


「ふはっ! さぁ、観念しろ、桜木。次はどこを攻めてやろうか」

「んっ、やだぁ、だめ。ぁ、やだってば、もぅ、むりぃ……んふっ!」


 彬人の手に反応した風花が、ビクリと身体を揺らす。その変化を彼は見逃さなかった。


「む? ここか?」

「うぅ……そこ、んふ、やだぁ。あぅ……やぁだ」

「ほぅ、桜木の弱点はここなのだな」

「んんっ、んぁ、ふふっ。だめだってば、本城、くんっ。んぅ」

「ふははっ、ダメだと言われるともっとやりたくなるものだ」


 そう言うと彬人は風花の弱い場所へと手を進めていく。














「いい加減にしろよ、彬人」

「ぶへっ」


 鋭い優一の声と共に彬人の身体が宙を舞う。優一が蹴り飛ばしたようだ。綺麗に舞い、庭の隅の植え込みに突き刺さる。


「何をするのだ!」

「こっちの台詞だ、何をしているんだ」

「大丈夫、桜木さん?」


 仁王立ちした優一が彬人の前に立ちふさがり、翼が自由になった風花の元に駆けつけた。


「桜木が楽しそうだから、いいではないか!」

「そういう問題じゃない!」

「なぜなのだ! はっ! 優一、さては羨ましいのだな」


 植え込みに突き刺さっていた彬人だが、もう復活したようだ。アホ毛がぴょこぴょこと揺れている。立ち直りの速さ風の如し。


「よかろう、貴様も混ぜてやる!」

「は?」

「三人で楽しいことをしようではないかっ! ふははははっ! 」


 魔王のような笑い声を響かせる彬人。そんな彼の様子に優一は頭を抱えた。


「桜木さん、大丈夫?」

「ふぇ……はぁ、はぁ、ん、だ、大丈夫、はぅ」


 風花は息が乱れており、頬もほんのりと赤い。そして、若干涙目になって、翼の服を握り息を整えていた。いつもはきちんとしている髪、服も乱れてしまっている。


「(ゴクリ……)」


 想い人のこの様子を見て、何も思わない男性はいないのではないだろうか。翼は恋するピュアボーイ。そして目の前には大好きな風花ちゃん。

 翼はダメだと思いながらも、肩で息をしている風花へと手を伸ばす。


「翼さん」

「はいっ!」


 翼の手が風花に触れそうになった時、彼の後ろから声がかかった。振り向くと黒い笑顔を張り付けている太陽が。


「姫に何をするご予定ですか?」

「あ、あのぉ、そのぉ……」


 翼が顔を真っ赤にしながら、もごもごと呟いている。この様子なら太陽が止めなくても、風花に触れた瞬間翼は鼻血を出して倒れるので、何も問題なかったかもしれない。










 なぜこんなことになっているのかと言うと、時は少し遡る。

 ここは風花の家の庭。先ほどリミッター解除の練習をしていたのだが、一時休憩となったのだ。


Excalibur(エクスカリバー)!」

「エクスカリバー!」


 そして、彬人が風花にエクスカリバーを授けようと庭で剣を振っていた。

 本日風花の家に集まったのは翼、優一、彬人の三人。後ほど美羽と一葉が合流予定である。風花と彬人がエクスカリバーの練習に打ち込む中、翼と優一と太陽はリビングでくつろいでいた。


「あの練習に意味はあるのか?」

「あはは……」


 優一が疑問を呟いているが、以前彬人の標的になった翼は何も言えない。何がどうなったらエクスカリバーになるのだろう。彼の基準は不明だし、曖昧なのだ。


「まぁ、無意味ではないと思いますが……」


 紅茶をズズーと飲みながら、太陽が呟いている。

 彼は主に剣で戦闘を行うスタイル。細い腕からなぜあんな一撃を放てるのか、と疑問を抱くほどの重い一撃を繰り出す。彼の目にはあの異様な練習風景はどう映っているのだろう。


「こう?」

「違う、こうだ!」


 彬人と風花は真剣に剣を振っている。彬人は先ほどリミッター解除の練習で、倒れたのだが疲れていないのだろうか。翼と優一が休憩する中で、風花と修行をしている。

 以前の戦いで自分たちの未熟さを知った彼らは、より一層練習に励んでいた。これからもっと強く逞しくなってくれることだろう。太陽は風花の周りの仲間たちに感謝しかない。

 そんなほんわかした空気の中……


「うひゃっ!」


 風花の変な声が響いた。翼たちが何事だろうと目を向けると


「ほぅ……」


 彼女の隣には何やら黒い笑顔を張り付けている彬人が。どうやらエクスカリバーの練習中に彬人が風花の腰を掴んだようだ。その仕草がくすぐったくて、変な声が風花の口から飛び出した。


「変な声出た……」


 本人は無意識に出てしまったようで、恥ずかしそうに口を覆っている。しかし、彬人は風花のその反応が新鮮で楽しかったらしい。彼女の肩を掴むとそのまま押し倒した。


「ほわぁ!? ちょ、本城くん?」

「ふははっ、覚悟しろ桜木」

「あっ、やだぁ、くすぐったい!」


 そして冒頭のやり取りに戻るわけである。あのままだといろいろ不味いので翼たちが救出に向かった次第だ。




「ふわぁ、くすぐたかったー! 本城くん上手だね」


 息の整った風花は何だかんだ楽しかったらしい。笑顔が輝いている。


「ふはっ! お気に召したのならアンコールを届けよう!」


 優一に怒られていた彬人だが、風花の言葉を聞いて復活。彼の間をすり抜けて風花へと近づいてきた。


「きゃー、やだー、ふふふっ」

「逃がさんぞ、待てぃ!」


 手をワキワキと動かす彬人の姿を見て、風花が逃げ出す。二人の間で鬼ごっこが始まってしまった。


「止めた方がいいのかな?」


 彼らの鬼ごっこに翼が疑問を口にする。彬人はもちろんのこと、逃げている風花も楽しそうに笑っているのだ。彼女は純粋に鬼ごっこが楽しいのだろう。止めた方がいいのだろうか。


「捕まったら助けるか」


 優一が翼の隣にやってきて呟く。本人たちが楽しいのならこのまま続けていても問題はないのだろう。身体能力の高い風花は軽々と彬人の手をかいくぐり、逃げていく。


「ふふふっ♪」


 鬼ごっこをしている風花はとても楽しそう。

 彼女の心のしずくはもう半分程度集めることができた。出逢った当初は無表情の無感情だった風花。しかし、今ではいろいろな表情を見せてくれている。先ほども優一の発言に拗ねたり、怒ったりと今までに見たことのない変化を示していた。楽しそうな彼女の様子を見ていると、こちらも自然と口元が緩む。


「またお花飛んでるやん」

「ですね」


 ニコニコと花を飛ばしながら風花を見ている翼。そんな彼の様子を優一と太陽が眺めていた。

 翼は恋するピュアボーイ。相手は鈍感ガールの風花。彼らの関係の結末はどういう形になるのだろうか。


「のぁ!?」

「ふはっ! 捕まえたぞ、桜木。覚悟しろ」

「あはは、やだぁ、ふふふっ」


 翼たちがのほほんとしていると、風花が捕まり押し倒されている。風花の身体能力が高いと言えど、やはり男子と女子。素早さ、体力は彬人の方が上だったようだ。本人たちはニコニコ笑顔で楽しそうなのだが、流石にこの状態はいろいろと問題がある。翼たちが再び救出に向かおうとしていた。しかし……


「ぶへっ!」


 三人が立ち上がったタイミングで彬人の身体が宙を舞った。


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