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きみと桜の木の下で  作者: 花音
第7章  かくしごと
146/230

第145の扉 拗ねたの

「姫様」


 太陽が風花の近くにしゃがみこむ。彼の声に反応した風花の肩が少しだけ揺れた。


「遅くなりまして申し訳ございません。ただいま戻りました」

「……お帰りなさい」


 彼女の育ちの良さなのだろうか、この状況でも挨拶は返してくれる。しかし、依然頭は膝の間にあり、太陽の顔を見ようとはしない。

 そんな風花の態度に、太陽は優しく微笑みかけながら言葉を紡ぐ。


「折角皆さんが集まってくれているのです。練習しましょうか」

「でも、成瀬くんは私じゃなくて太陽がいいんだって」

「う……(グサリ)」


 風花の放った言葉が優一に突き刺さり、罪悪感で顔が歪んだ。ふらついた優一の身体を翼と彬人が支える。


「私は説明が下手くそで」

「ぐ……」

「語彙力が崩壊しているから」

「うぅ……」

「何を話しているのか分からない。嫌だって言われた」

「マジでごめんて」


 優一はもう限界のようだ。今にも崩れ落ちてしまいそう。更に……


「それは辛かったですね。姫は一生懸命に説明していたのにそんなことを言われては」

「うん、悲しかった」

「語彙力崩壊とか、下手くそとか言ってはいけませんもんね」

「うん、傷ついた」

「最低だと思います。悪魔です。外道です。ごみクズですよね」

「あ、の……そこまでは思ってないよ」


 太陽までもが優一の傷を抉り始める。態度にはあまり出ていなかったが、風花を傷つけたため彼も怒っているのだろうか。


「あぁぁ、優一、しっかりしろ!」

「太陽くん、もうやめて。優一くんが息してないよ」


 太陽の攻撃でついに優一が召された。彼は今回の行為を相当反省しているのだ。魂が抜け出ている。

 太陽は優一の息の根を止めたことを確認すると、風花への質問を続けた。


「しかし、姫。どうやって説明したのでしょうか」

「ギュってやって、バーンってするんだよって」


 そう、風花はそれしか言わないのである。

 実は彼女がこう言っているのには、理由がある。リミッター解除は感覚的な物が大きいのだ。力の微妙な入れ加減で何段階解除かを決定する。そのため、彼女の説明は間違っていないのだが、この事情を知らない翼たちには理解できない。

 翼たちは風花の説明に顔を引きつらせていたのだが……


「姫様、お上手ですね。ギュっでバーンですよね」

「♪」


 太陽が風花を褒め出した。思いがけない行動に翼たちは驚きが隠せないが、彼の言葉で風花の機嫌が少し回復したようで、音符を飛ばしながら顔を上げてくれる。


「言葉のチョイスが流石でございます」

「んふ♪」

「そんな説明、私では思いつきません」

「えへへ♪」


 ニコニコ笑顔で太陽が風花のことをべた褒めである。ついに太陽までもが語彙力崩壊したのだろうか。これはリミッター解除習得への道が一気に遠くなってしまった。

 翼たちは絶望的なこの状況に遠くを見つめていたのだが、一通り風花を褒めた太陽が質問を始める。


「そう言えば、ギュっとする場所はどこですか?」

「このあたり」

「そうでしたね。では、ギュってするのは何でしたっけ?」

「魔力だよ」


 太陽の質問に風花はてきぱきと答えてくれる。彼らの説明をまとめると、胸のあたりに身体全体に広がっている魔力を集中させることが「ギュっ」らしい。


「バーンってするのはどうやるんでしたっけ?」

「んーとね、外に出す感じ」

「どうやって外に出すのですか?」

「ギュってしたやつがここにあるから、それを体全体に一気にバーンってするの」


 つまり「バーン」とは、胸の部分に「ギュっ」した魔力を身体全体に一気に駆け巡らせることのようだ。風花の言いたいことが何となく分かった。


「こうして考えてみると、ギュっとバーンだけではよく分からないみたいですね」

「!? 確かに!」


 風花はようやく自分の説明の不足部分を自覚した。

 リミッター解除は感覚的な部分が大きい。風花は理論的な説明はできるものの、今回のような説明は苦手なのだろう。


「成瀬くん……」


 自分の力不足を自覚した風花はようやく立ち上がり、トコトコと瀕死の重傷の優一の元へ。倒れていた優一だが風花の登場で顔を上げる。


「あ、あの……上手に説明できなくてごめんなさい」

「さくら、ぎ」

「あと、何回もごめんねって言ってくれたのに、いいよって言わなくてごめんなさい」

「桜木!」


 ムギュっ! もう一度言う、ムギュっ!

 風花が潰れるのではないかというくらいの力強さで、優一は風花を抱きしめている。彼自身余程反省していたのだろう。


「俺もひどいこと言ってごめんな」

「うん」


 風花の謝罪により優一は息を吹き返した。そして、風花も無事に仲直りが成立したためニコニコ笑顔である。


「太陽くんすごいね。僕たちじゃどうにもならなかったよ」

「まぁ、付き合いが長いですからね。姫様はご自分の悪い所を自覚された後は、行動が速いのですよ」


 さすがは長年風花に遣える従者。主人の扱い方には慣れているようだ。翼は彼に尊敬のまなざしを向けていたのだが、太陽は優一と抱きしめ合う風花を、優しく見つめていた。


「姫も拗ねるようになったのですね」


 風花は心が欠けている状態。現在半分程度の心が彼女に戻っている。最初は無表情の無感情だった彼女だが、徐々に感情を外に出してきてくれるようになった。心のしずくをそれだけ取り戻した証だろう。

 そして、拗ねた時の対応法は褒めること、自分の行為の何が間違っていたのか、どうすればいいのかを一緒に考えることである。先ほど太陽が行った行動がばっちり当てはまる。


「はぇ」


 翼は太陽に子供でもいるのではないかと、疑いの眼差しを向ける。彼は翼たちより3歳年上のはずだが、年齢をサバ読んで、家庭も持っているのではないだろうか。















「さて、では開始しましょうか」


 仲直りが成立したため、早速練習が再開となった。風花はニッコニコ笑顔だ。そんな彼女の様子を見て、翼がお花を飛ばしていた。


「コホン。では、まず体内の魔力が流れている感覚は分かりますか?」


 太陽が咳ばらいを一つして、翼のお花を吹き飛ばす。真剣な表情になった翼は、太陽の声に集中し始めた。

 魔力は血液と同じように、身体全体を駆け巡っている。その流れをうまくコントロールして、心臓部分に集中させれるようにならなくてはいけない。


「何となく分かるような……」


 太陽の問いかけに翼たち三人が目を閉じながら、自分の中にある魔力の流れを掴み取る。そして、杖に魔法を込めるような感覚で心臓付近へと集中させていった。


「うぇ、何か気持ち悪い」


 練習開始早々、翼たちの身体に異変が起こる。魔力は血液と同じ流れで体内を巡っている。普段の魔法発動の時は、手や足の先から放出すればいいのだが、今回は魔力を心臓部に留めなくてはいけない。心臓が送り出そうとしている魔力を無理矢理留めているので、違和感と負担が半端ないようだ。

 5分ほどやったところで3人ともぱたりと倒れた。


「大丈夫?」

「休憩にしましょうか」


 太陽の提案で全員リビングへと戻って、休憩することとなった。

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