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きみと桜の木の下で  作者: 花音
第1章  はじまり
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第13の扉 魔力消失

 ベンチの後ろから声がして、二人は後ろを振り向く。


「やぁ、こんにちは」


 そこにはにっこりと微笑む京也が。相変わらず真っ黒なローブを身に着けている。

 その姿を見て、彬人は呑気に「深淵の覇者?」と声を漏らすが、京也には聞こえない。風花は彬人の存在を一瞬気にするも、京也に視線を戻し口を開いた。


「京也くん、どうしてここに?」

「どうしてって、しずくの反応があったからに決まってるだろ?」


 京也は二人にレーダーを見せる。彼の言う通りレーダーには心のしずくの反応を示す、赤い印が点滅していた。


「ん?」


 風花はレーダーをじっくりと見ていたが、こてんと首を傾げる。先ほどまで感じていたしずくの気配を、今はもう感じなかったのだ。しかし京也のレーダーには映っている。どういうことだろうか。

 そんな風花の反応に、京也もこてんと首を傾げる。


「レーダーの故障か?」


 京也は画面とにらめっこをしているが、理由は分からない。


「本城くん、私の後ろに居てね」

「秘められし力か?」


 風花はその隙に彬人を自分の後ろへと隠し、白色の魔法衣装へと変身する。それを見て、彬人が何やら目を輝かせているが、生憎風花はそれどころではない。杖を構えて、京也がいつ攻撃を仕掛けてきても彬人を守れるように準備する。


「ふん、分からん!」


 しばらく悩んでいた京也は、考えるのをやめたようだ。レーダーに反応があるので、この場に心のしずくはあるのだろう。自分はそれを回収して、父親に渡さなければいけないのだ。


「しずくを渡せ。dark shot(ダークショット)


 京也はため息をつくと、手のひらに禍々しい黒い塊を作り始める。ブラックホールのような黒い恐ろしい物体が出来上がっていった。彬人はその様子にびくりと肩を揺らすのだが、風花は動じない。彬人を自分の後ろにしっかりと隠して、自分も攻撃を放つために魔力を込めていった。


wind shot(ウィンドショット)


 風花の杖の先に風の塊が形成されていく。大きな大きな塊となり、彼女の髪が風に舞った。しかし……


 ポフッ


 風船の空気が抜けたような音と共に、風花の攻撃は杖の先で消滅した。


「え? なんで……」


 風花は目を見開いて、自分の杖を見つめている。全く状況の理解ができていない。どうして魔法が消滅してしまったのだろう。京也が何かしたのだろうか。


「なんだよ、今の。はは、あはは、変な、音……ははっ。どうしたんだ? 取り戻したしずくまで失くしたのか? あはは」


 風花が彼の様子をうかがうと、苦しそうに笑い転げている。どうやら先ほど攻撃が消滅した音が面白かったようだ。

 風花の心のしずくには魔力が入っている。そのため彼女の魔力は心のしずくを取り戻すにつれて大きくなっていくはず。にも関わらず、今彼女は魔法が使えない。一体何が起こっているのだろうか。頭の上に「?」を浮かべながら考えるも、答えは分からない。


「あ、ヤバい、苦しい。ははははは」


 京也の笑いの波はなかなかひかないようだ。とても苦しそうである。そんな様子を見ると、彼が風花の魔法を消したわけではなさそう。ますます何が起こっているのか分からない。


「ふふっ、あぁ、なる、ほどな。ふふふっ」


 笑い転げていた京也だが、何やら原因を理解したようだ。笑いがひと段落すると苦しそうにひーひー言いながらも、風花に説明してくれる。


「お前は今記憶が途切れているから覚えていないだろうけど、お前はコーヒーを飲むと力が弱くなる。ただでさえ全てのしずくが揃っていなくて、力が弱いのに、さらに、弱くなったら……ふ、ふふっ」


 京也はまた思い出したようで、笑いが再発してしまった。苦しそうに転げまわっている。しかし、風花の魔法が使えない原因は先ほど飲んだコーヒーのようだ。


「彼は一体何の話をしてるんだ?」


 理解の追いついていない彬人が風花に話しかける。彼の頭の上には「?」がたくさん浮かんでいた。


「本城くんは逃げて」


 風花は真っ青になって彬人に伝える。今の風花は魔法が使えない。京也が攻撃してきても彬人を守ることができない。何とか彬人だけでも逃げてもらおうと促すのだが……


「ふ、深淵の覇者との戦いなら俺に任せろ」


 キラーンと目を輝かせながら、彬人が宣言する。何を根拠に彼が任せろと言っているのか分からないが、風花の言うことを聞こうとしない。どうしようか、と風花が悩んでいると、京也の笑いの波が落ち着き、復活してしまった。


「さぁ、風花。今日はもう勝ち目はないぞ。大人しくしずくを渡せ」


 京也は攻撃を次々と放ち始める。真っ黒な塊が二人に襲い掛かってきた。


「本城くん、こっち!」

「どうなっているんだ」


 風花は京也の攻撃を避けながら、彬人の手をとり走り出す。全く理解できていない彬人が声をあげるが、風花に説明する余裕はない。彬人を守りながら必死に走る。


「しずくを寄こせ」


 京也はすぐ後ろまで迫ってきていた。二人の脇をポンポンと禍々しい塊が通り過ぎていく。


「む?」


 彬人は京也のしずくという言葉を聞き、さっき自動販売機の下で拾ったしずく型の石を思い出す。ポケットから石を出し、風花に見せながら尋ねた。


「桜木、彼が言っているしずくってこれか?」

「そう、それ。どこで見つけたの?」


「虹色の水製造機の足元で入手した」

 訳)さきほど自動販売機の下で見つけました


 そう言う彬人はとても自慢げにしずくを掲げる。









「……」


 攻撃から逃げているうちに二人は屋上の隅に追いやられてしまっていた。ミシミシと二人のもたれるフェンスが軋む。もう逃げ場がない。風花は彬人を自分の後ろに隠しながら、京也と対峙する。今の自分はまだ魔法が使えない。このままでは彬人まで怪我をしてしまう。風花の瞳に焦りの色が混じった。


「あきらめろ、風花。一つくらい心がなくてもいいだろう?」

「心?」

「ん? 持ってるじゃないか。おい、お前、それ渡せ」


 疑問を口にした彬人の手元に、しずくが握られていることに京也が気がつく。


「心ってどういうことだ?」

「説明したら渡してくれよ。それは風花の心の一部だ。こいつが無表情に見えるのは心がないからだ。はい、説明終了。約束通り渡せ」

「断る。そんな約束してない」


 ぴしゃりと言い切る彬人に、なんでだよ、と京也は悔しそうに地団太を踏んでいる。


「……」


 ここはデパートの屋上。後ろにはフェンス、前には京也。魔法を使えない自分と、守らなくてはいけない彬人。彼を守るための方法は、一つしかないだろう。


「本城くん、渡していいよ」


 風花は優一がかけてくれた言葉を思い出しながら、彬人を振り返る。

『命としずく』

 どちらか一つしか守れないなら、風花はもう守るものを決めていた。彬人から心のしずくを受け取ろうと、手を伸ばす。


「渡さない」

「え……」


 風花の手が触れる直前で、彬人はしずくをギュっと握りしめてしまった。彼の行動に風花が戸惑っていると、彬人が言葉を紡ぐ。


「ダメだろ、大事なものなんだろ、これ。大丈夫、俺は日々深淵の覇者との戦いを繰り広げているから、あいつなんかに負けない」


 風花は驚いて目を見開いた。今までの短いやり取りの中で、彼はしずくが風花の大切なものだと理解したのだろう。そして……



「俺にもお前の戦いの手伝いをさせてほしい」

 訳)あなたの大切なものを守らせてください



 風花を安心させるようにふっと微笑むと、頭を撫でてくれる。


「……本城くん」


 彬人の言葉を聞いた風花の瞳が揺れた。彼女の瞳に移る彬人の顔が滲んでいく。


「はぁ、忠告はしたからな」


 そういうと京也はため息をつき、禍々しい魔力の塊を作っていく。コンクリートも砕けさせる彼の攻撃を食らってはタダでは済まないだろう。どうしたらいいのだろう、と風花が焦っていると、彬人が自分の背中に隠してくれた。風花の前には暖かくて心地よい背中が広がる。


「死ね」


 風花が彬人の背中に心地良さを感じていた時、京也の発射準備が整ってしまった。彬人と風花に向かって、真っ黒の塊が襲い掛かる。もうダメかもしれない、そう思い二人は目を閉じた。しかし……


 ペキッ


「「え」」


 京也の攻撃が当たる瞬間、嫌な音と共にフェンスが切れてしまった。体重を預けていた風花と彬人はバランスを崩す。


「「うわぁ!?」」

「ヤバッ!」


 京也が助けようと手を伸ばすが、その手は届かず二人は落ちてしまった。

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