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きみと桜の木の下で  作者: 花音
第6章  出発
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第131の扉 戦いの目的

「桜木風花さん」


 部屋の入り口に一人の女性が現れる。シスターのような黒色の服に身を包み、胸元には十字架。そして、手のひらには


「あ! 心のしずく!」


 この女性はハナカラ族の長、牡丹(ぼたん)。なぜ心のしずくを持っているのだろう。風花が不思議そうな視線を向けると、彼女が申し訳なさそうに口を開いた。


「実は……」


__________________




 時は風花たちがこの世界に召喚される数時間前に遡る。突然京也と真っ黒のローブを被った少女が、牡丹の前に現れた。


「それをよこせ」


 彼の目的は、牡丹が先日見つけたしずく型の石を渡してほしいこと。威圧的な態度で牡丹の握る心のしずくを要求してきた。京也の威圧にたじろぐも、牡丹は取引を持ち掛ける。


「お願いがあります」

「?」


 京也に仲間が売り飛ばされている現状を告げ、救ってくれたら返すと約束した。

 今、この世界は強大な力を持つインセクト族に支配されている。牡丹が頼れるのは、目の前に現れた異世界人である京也のみ。わらにもすがる思いで彼に助けを()う。

 考え込んでいた京也だったが、しばらくして口を開いた。


「俺には助けられない。だけど……」


 京也は苦しそうに唇を噛んでいたが、言葉を紡いでいく。その瞳の中に悲しそうな色が見えるのは気のせいだろうか。


「助けてくれそうな奴らを呼んできてやるよ」


 そう言うと、彼はしずくをそのままに教会を立ち去った。




__________________








「京也くんが……」


 牡丹が心のしずくが風花の物だと知っていたのは、京也が告げたからだろう。そして、風花たちの足元に現れた魔法陣は、扉魔法の使い手である少女の物。


「巻き込んでしまってごめんなさい」

「みなさん無事で良かったです」


 風花は牡丹の手を握り、ニコリと微笑みかける。彼女の笑みを見て、牡丹もニコリと微笑んだ。


「……」


 優一は彼女たちのやり取りを見ながら、疑問を感じていた。ハナカラ族は回復特化型の種族。戦闘となれば、彼女たちはなす術がないのだろう。

 なぜ京也は牡丹からしずくを奪わなかったのか。彼の実力であれば容易いはず。自分たちをわざわざ呼んだ、京也の意図が分からない。今回の件に限らず、彼は本当に敵なのか、と疑う場面は何度かあった。ダンジョンで風花を助けた時から抱いていた疑問が、今、確信へと変わりつつある。京也は心のしずくを奪う気がないのだろう。


「桜木たちは知ってんのか?」


 優一はたどり着いてしまった結論に想いを馳せる。京也が敵ではないとすれば、自分たちは何と戦っているのか。そして、彼の目的は何なのか。


「鈴蘭さんと雛菊さんが同行してくださるようです」

「よろしくお願いします」「よろしく!」


 優一がもやもやとした感情を抱える中、太陽が話を終えて帰ってきた。鈴蘭は太陽と、雛菊は風花と式神の主従関係を結び、遣えることとなった。


「わぁ、すごく綺麗!」


 式神は普段は人の形で実体化していない。主からの呼び出しがなければ、指輪となって側に遣えるようだ。風花は指に輝く雛菊の指輪を嬉しそうに眺めている。指輪には雛菊の花飾りがついており、可愛らしいピンク色だ。ちなみに太陽のはめている指輪は、白色で鈴蘭の花飾りがついている。


「名前を呼んでくれたらすぐに行くから、いつでも呼ぶんだよ」

「はい、ありがとうございます!」


 こうして、新たな仲間を二人迎い入れ、彼女たちの冒険は終わった。













「バイバイ!」

「またね」


 日本に帰って来て、風花の家を後にした翼たち。一時どうなるかと思ったものの、全員無事。しかし、まだ自分達は弱いまま。風花がバーサーカーにならなければ、今頃どうなっていたか分からない。

 もっと強くならなければ、何も守れない。翼はぎゅっと拳を握った。


「……」


 そんな翼の隣では、難しそうな顔をしている優一が。

 自分の中ではっきりしてしまった事実。


『京也はしずくを奪う気がない』


 風花と太陽はそれを知っているのだろうか。風花と京也は幼馴染。以前は仲良くしていた彼らは、風の国と魔界の関係が悪化したことで、離れ離れに。京也自身、風花を傷つけたくないのが本心なのだろう。

 なら、なぜ彼は今自分たちに攻撃を仕掛けるのか。彼の行動が謎過ぎる。


 京也の行動について考え込んでいた優一だが、彼にはもう一つ気になることが。


「太陽は何者なんだ」


 今回女性陣が売り飛ばされそうになったが、太陽も同様に狙われていた。確かに彼は可愛らしい顔をしてはいるが、女子に間違われる程ではない。しかもキリは『あっちの男の子』と男子であることを認識した上で狙っていた。

 太陽は珍しい扉魔法の使い手。ただあの時は技を発動しておらず、それで狙われたとは考えにくい。


「謎が多すぎるだろ……」


 優一はモヤモヤとした感情を抱えながら、帰路についた。













「眠いので、寝るの」

「おやすみなさいませ」


 風花は目を擦りながら、自室へと歩いていく。怪我は完全に完治したものの、流石に体力が削られたのだろう。トロンとしながら、ベッドに倒れこんだ。太陽が彼女に布団をかけて、頭を撫でる。穏やかな彼女の寝顔をしばらく眺めていたのだが……


「悪かったな、巻き込んで」


 風花の部屋のカーテンが揺れた。その先に居るのはもちろん、京也。


「いえ、自分の未熟さを知る良い機会となりました」


 太陽は苦しそうに唇を噛む。今回の風花の怪我、自分は全く治せなかった。これから修行を重ねなければ、いつか彼女は消えるだろう。太陽はぐっと拳を握った。

自分の未熟さを反省していた太陽だが、彼にはどうしても言わなくてはいけないことが……


「それよりも、京也さん」

「ん?」

「たけるさんの時、危なかったのですよ!」


 そう言うと、京也をキッと睨みつけ、首元から石の入った瓶を取り出した。中には真っ黒な石が一つ。


「あー、それはごめん」

「もう! あんなことを頻繁にされては、こちらの体も持たないのですよ!」

「えぇ……いや、でも、あれは風花が」

「言い訳しないでください!」


 ご立腹である。頬をパンパンに膨らませて珍しくご立腹である。流石の京也も太陽の勢いには勝てないようで、ため息をついた。


「悪かったって、ごめん。ほら、あんまり騒ぐと風花が起きるぞ?」


 太陽と京也が言い合いする隣では、スヤスヤと穏やかな寝息を響かせて風花が眠っている。そう簡単に起きないと思うのだが、太陽はしぶしぶ落ち着いてくれた。ぷくぅと頬っぺたを膨らませたまま、瓶を服の中にしまう。彼のそんな様子に京也は息を一つ吐いて、言葉を紡いだ。


「俺は、お前たちのことなら話してもいいと思うぞ」

「……私たち二人で決めたことですので」


 太陽は眉間にしわを寄せながら胸元を握りしめる。京也はその様子に一瞬だけ悲しい顔を見せるも、すぐに元に戻した。


「あんまり抱え込みすぎるなよ」

「あなただけには言われたくありません」

「あー、はいはい」


 太陽のジト目に、京也はふっと微笑むと闇へと消えていった。


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