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きみと桜の木の下で  作者: 花音
第6章  出発
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第120の扉 誰もいない

 京也の言葉を聞いた女性の雰囲気が変わった。今まで柔らかく京也のことを見つめていたが、しずくの話を出した途端悲しそうな瞳へと変化したのだ。ただ、こちらに攻撃を仕掛けてくるような仕草は見せていない。敵だろうか。


「何か知っているな?」


 しずくの話を聞いた後の彼女の変化は、そう物語っていた。確実にこの女性は何かの情報を持っている。それが彼女の表情の理由だろう。

 京也は威圧感を放った。女性が苦しそうに口を開く。


「攻撃の意志はありません。話を聞いてくださいますか」


 京也は威圧感を消すも、警戒態勢は緩めない。自分の後ろに少女を隠したまま、女性との距離は縮めない。


「私の名前は牡丹(ぼたん)といいます。あなた様が探している石は、これですか?」


 牡丹の手のひらには心のしずくが乗っていた。


「そうだ」


 京也はしずくを確認すると、牡丹の言葉に同意を示す。彼女の表情を確認すると、まだ悲し気な表情をしていた。どうしてそんな表情をしているのか、京也には分からない。しかし、おそらく彼女は大人しくしずくを渡してはくれないだろう。何となくそんな予感を感じていた。


「お願いがあります」


 京也の予想通り、牡丹は取引を持ち掛けてきた。その内容は……






「負けた……」


 ため息をついて頭を抱える優一。結局クラスの出し物は『男装女装カフェ』に決定。当日のことを思うと、今から憂鬱な気分になる。


「楽しみだねぇ」


 そんな彼の様子には気がつかないのか、風花はニマニマしていた。余程太陽とお揃いの服を着られるのが嬉しいらしい。


「おい、太陽。今からでも遅くない。メイド服を着ろ」

「はい?」


 諦められない優一が執事服でうろつく太陽に詰め寄った。彼は翼たちにお茶とお菓子を出そうと、さっきから忙しく動いている。

 今日風花の家に集まったのは絶望を抱える翼と優一と彬人、ニコニコ笑顔の風花、美羽、一葉。女性陣が楽しく会話する中、さっきから優一の目はうろちょろしている太陽へ。

 今回の決定的敗因は太陽だ。彼がもし、日ごろからメイド服に身を包んでいたとすれば、風花はメイド服が着たいと言っただろう。


「頼む」

「えぇ……」


 優一の必死な願いに、太陽は若干引き気味である。太陽は学校に通ってないので、今回の騒動を知らない。彼からしてみれば、常識人だと思っていた優一からメイド服を着てくれと言われ、かなりの恐怖を感じているだろう。それに加えて……


「お前可愛い顔してるからいけるって、絶対。な?」


 どこかに売り飛ばすつもりだろうか。ナンパ師のような言葉を口にしている。太陽は彼の必死さに恐怖を覚える。しかし、太陽は着実に追い詰められていた。いつの間にか後ろには壁。前には優一。これは、そう。かの有名な壁ドンである。更に……


「いいだろう? 一回だけだから」


 顎クイでもする気だろうか。女の子を口説くような甘い言葉をささやき、優一は太陽を追い詰めていく。


「ふぇ……」

「諦めなよ、成瀬。太陽が可哀想じゃん」


 そんな太陽を助けるために、一葉が声をかけてくれた。詰め寄ってきた優一のすき間をかいくぐり、素早く一葉の後ろへ逃げていく。一葉は震える太陽の頭を撫でていた。余程怖かったのだろう。


「くっそ」


 一葉を味方につけた太陽を見て、優一が地面に崩れ落ちる。


「あはは……」

「成瀬くん、どうしたの?」


 苦笑いしかできない翼と、通常運転の風花。


「美羽、成瀬を楽にしてあげたら」

「オッケー任せて! とどめ刺してくる」


 がっくりとうなだれている優一の元へ、女優スイッチを踏み切った美羽が向かっていく。美羽は優一に何をするつもりなのだろう。想像した翼の顔がボンと赤く染まる。彬人は合掌を捧げていた。

 しかし……



「え?」

「は?」


 全員の口から驚きの声が。彼らの足元には見たことのない模様の魔法陣。混乱している彼らをよそに、魔法陣がより一層輝きを増した。そして、その光が消えた時、風花の家には誰も居なかった。






―――――――――――――――


「ここは?」


 翼は気がつくと、レンガ造りの住宅街に一人で立っていた。先ほどまで風花の家にみんなで居たはずなのだが、目の前に広がるのは全く見たことのない景色。そして、翼の周りには誰も居ない。一体どこに行ったのだろうか。


「誰か、聞こえる?」

『……』


 翼がイヤホンマイクを耳にかけ、呼びかける。しかし、イヤホンは沈黙したまま。誰かが通信を遮断しているのだろうか。誰の声も聞こえなかった。

 翼は辺りを見渡してみる。人の気配が全くしない。周りに家はあるのだが、長く使われていないようで、ボロボロだった。


「みんな、どこー」


 翼はとりあえず、辺りを捜索すべく歩き出した。そんな彼の後ろから近づいてくる足音が二つ。








「んんー?」


 風花は翼と同じく、レンガ造りの住宅街で目が覚めた。辺りを見渡すも人の気配がない。どうしようかと悩んでいると


「誰か助けて!」


 女性の悲鳴が響き渡った。慌てて声の聞こえた方へかけていく。曲がり角を曲がると……


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